「しゃかしゃかしゃか」という擬音表現で、どんなことを思い浮かべますか。
私にとっては、ひとりだけのひそかな楽しみ、コーヒー豆のローストです。
(こらこら、今からお下劣な書き込みを狙っている、ひさやんさん。イエローカード1枚です)
コーヒー豆のローストを始めたのは学生時代。ずいぶん年季が入っていることになりますけど、やめてしまって1年ぐらいたってから再開したことも何度かありますから、“実働年数”がそれほどあるわけでない。
コーヒーが好きで、自宅でゆっくりと飲めるのは週末ぐらいという人にはおすすめです。前後の支度を含めて、時間は30分もみておけば十分です。私は手網を使いますが、1回のローストで4、5杯分。豆を贅沢に使えば2、3杯分ぐらいの豆ができます。
以前は電熱器を使っていましたが、今はガスの上に魚を焼く小さな網を置いてローストしています。もちろん、魚料理との兼用はできませんから、コーヒー専用です。なに、100円ショップでかった安物ですよ。
ガスに変えたのは、近所に自家焙煎をしている店があって、そこのご主人に聞いたからです。「よく炭火焼きなんていうから、それに近いと思って電熱器を使う人がいるけど、実際には炭火で焙煎すると、乾燥していて豆にひびが入ることが多い。ガスの方がむしろよい」と教わりました。
なるほどなあ、やっぱりプロは違うもんだと思いました。
ローストの具合は浅炒り、中炒り、深炒りと、自分で加減できます。私はずっと深炒りでやっていたのですが、これもご主人に反論された。「僕は浅炒りが好きですね。香りも味も強くなるといって深炒りにする人が多いけど、コロンビアでもモカでも、なんでもおんなじになっちゃうでしょ。浅炒りでよいローストをする方が、よっぽど面白いと思います」とのことでした。なるほどねえ。
実際にやってみると、浅炒りで上手に仕上げるのはとても難しい。だからこのところ、中炒りに取り組んでいます。
用意するものは、コーヒー豆ロースト用の手網。もちろん、生の豆は必要。あとは熱源だけです。場合によって、魚焼き用の網。
いろいろと流儀はありますが、私はまず強火で網を十分に熱してから、そのままの火加減で1分少々。豆の熱変化をスタートさせます。
コーヒーのローストで大切なのは、手網を常に動かすこと。この時の音が「しゃかしゃかしゃか」です。実際には、手網を頻繁にひっくり返します。コーヒー豆は必ず、均一に熱しなければならない。そのために、動かし続ける。
1分少々たったら、火を弱めにします。この火加減が大切。最初は白かった豆がゆっくりと黄色、そして褐色に代わっていくようにする。だんだんと甘い香りがしてくる。まだコーヒーの香りではありません。あえていえば、砂糖が焦げるときの匂いを、柔らかくしたような感じ。そうそう、水分が抜けるとともに、「しゃかしゃかしゃか」という音が、少しずつ高くなってくる。この音の変化も、次のステップに入ることを決断する重要な情報になります。
さて、最終段階です。豆の色が変わり、甘い香りも出た。音もちょっと上ずっている。ここで、一気に火力を強めます。豆の色が急速に褐色になる。煙が出はじめる。換気扇をフルパワーにしましょう。ほどなくして、豆がはぜる。「しゃかしゃかしゃか」という通奏低音に乗って「パチ。パチパチ。パチ。パチパチパチ」という音がする。
さあ。ここからが最後の勝負です。どこで火からおろすか。本当に10秒の差で、味が全然違う。あとは、お好み次第というしかありません。大切なのは、加熱が終わったら、豆を急速に冷やすこと。空冷式しかない。手網を大きく振ります。はぜる音がなくなった後も、しばらくは忙しい。扇風機などを使う方法もあります。
ローストそのものにかかる時間は、15-20分程度ですかねえ。30分はいらない。
ロースト直後が一番おいしいかというと、そうとはかぎらない。ひと晩置いた方がよいという人も多い。確かに、ローストしたばかりの豆を使うと、味が尖っている。
豆の命は短い。ローストしてから4日目ぐらいが限界かな。いや、それ以降もおいしくいただけますが、自分で一生懸命ローストするぐらいなら、時を逃さない方がよい。
ただ、方法はあります。ローストした豆を冷凍してしまう。私は、インスタントコーヒーの小瓶を使っています。コーヒーに凝っているといっても、インスタントコーヒーを否定しているわけではありません。あれはあれで便利。特に忙しい時なんか。私は費用対効果を犠牲にしても、一番小さな瓶を買います。開封したてはそれなりにおいしいのですが、時間がたつと、とても情けないものになってしまう。できたら3日ぐらいで。そうでなくとも、1週間以内には飲みきるようにしています。
とっておいた空き瓶に、ローストして冷ましたコーヒー豆を入れる。ラップをしてからふたをします。普通のラップなら、大きさにゆとりがあるので、折って2重、4重にします。そして、冷凍庫に入れる。1週間以上は、ほぼローストしたてのおいしさを楽しめます。
コーヒーのローストをすれば分かるのですが、「とてつもなくおいしい」ものができることがある。「私のコーヒーは日本一!」なんて叫びたくなる。ただし、正直に言って、情けないものができることもしょっちゅう。一番多いのは「ま、いいんじゃないですか。なかなかのもんだ」程度の出来ばえ。
先ほどの自家焙煎の店のご主人ですが、いつ行っても「文句なし」の豆を用意している。やっぱりこれが、プロなんですねえ。納得のいく豆を仕入れて、納得のいく焙煎をしているのでしょう。“頑固職人”として、出来上がりが気に入らないものは捨ててしまうぐらいのことはしているかもしれない。でも、そんなことをいつもしていたら商売は成り立たない。経験に裏打ちされた技術で、与えられた条件のもとで、品質をしっかりと維持している。すごいなあ。
考えてみれば私の記事は、とてもじゃないが、高品質を維持しているとは言えない状態だ。修行が足りないなあ……。
さて、連休中は目一杯しゃかしゃかするか。