劇場映画「かくしごと」を観て

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・かくしごと(128分・日・2024)

(注)★★は超お薦め、★はお薦めの作品

 

監督・脚本:関根光才(せきねこうさい:1976~・東京都出身)

原作:北國浩二(1964~・大阪市出身) 小説「嘘」(2011)

 

主演:杏(1986~・東京都渋谷区出身):里谷千紗子

助演:中須翔真(なかすとうま:2011~・大阪府出身):犬養洋一 / 里谷拓未
佐津川愛美(1988~・静岡市出身):野々村久江
酒向芳(さこうよし:1958~・岐阜県出身):亀田義和
奥田瑛二(1950~・愛知県春日井市出身):里谷孝蔵

 

読んでないからよく分からないが、原作小説「嘘」は丁寧に書かれた長編のヒューマン・ミステリー物なのだろう 時間的に制約のある本作劇場映画化では何もかもすべて盛り込みすぎていたように感じた

 

現代の大きな社会課題である老人の認知症、リモート介護、農村の過疎化、過疎地での酒気帯び運転、母子家庭、児童虐待、児童相談所などなど、一つひとつ取り上げても大きな問題が目白押し またそれらの問題に関する民事・刑事の司法手続きや判断までもが登場

 

杏と奥田瑛士はなかなかの熱演だが、子役の中須の演技が自然でよかったと思う 撮影は2022年8月に長野県伊那市の各地で行われたようだ また一部東京で撮影されたと想定される場面もある

劇場映画「ハロルド・フライのまさかの旅立ち」を観て

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★ハロルド・フライのまさかの旅立ち(108分・英・2022)

(注)★★は超お薦め、★はお薦めの作品

 

監督:へティ・マクドナルド(1962~・ロンドン出身)

原作・脚本:レイチェル・ジョイス(英国出身) 劇場映画と同名の小説(邦訳あり・2024)

 

主演:ジム・ブロードベント(1949~・英国リンカンシャー出身):ハロルド・フライ

助演:ペネロープ・ウィルトン(1946~・英国ノース・ヨークシャー出身):モーリーン・フライ
リンダ・バセット(1950~・英国ケント出身):クイーニー・ヘネシー
アール・ケイヴ (2000~・ロンドン出身):デイヴィッド・フライ

原題:The Unlikely Pilgrimage of Harold Fry

 

ハロルド・フライは定年退職して妻モーリーンと暮らしている そこへ元同僚のクイーニーから手紙が ホスピスに入っており死期が近いことが記されている 返事を投函しようとして外出したハロルドはあるひらめきで、何とそのまま徒歩でクイーニーが入院しているホスピスに向かうことにする

こうして英国イングランド南西部のキングズブリッジからイングランド北西部ベリック・アポン・ツイード(スコットランドとの境界近く)までの徒歩の旅が始まる およそ800kmの距離だそうだ 日本だと東京から青森までの旅に相当しそうだ ロードムービーは普通自動車を使った旅だが、これは意表を突く徹底した歩きのロードムービー 映像で分かるようにイングランドには山らしい山はなく、なだらかな丘陵地帯が続く とても穏やかで美しいイングランドの光景を楽しめる

 

観客はなぜそんなにがむしゃらに歩いているのか理解不能だが、徐々にハロルドとその息子デイヴィッドとの関係、そしてそれに関しクイーニーが重要な役割を果たしたことが明らかに ここは原作を著し本作脚本も担当したジョイスの発想と表現技術の賜物だろう 面白いことにジョイスには後年クイーニー、そしてモーリーンを主人公にした著作も出版している つまり三部作になっている

 

撮影はコロナ後に行われたといわれ、8週間・118ヶ所にわたるロケ撮影(半分は野外)を敢行し、総移動距離は1,800km近くに及んだそうだ

劇場映画「帰ってきた あぶない刑事」を観て

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・帰ってきた あぶない刑事(120分・日・2024)

(注)★★は超お薦め、★はお薦めの作品

 

監督:原廣利(はらひろと:1987~・東京都出身)

 

主演:舘ひろし(1950~・名古屋市出身):鷹山敏樹

 

助演:柴田 恭兵(1951~・静岡市清水区出身):大下勇次
浅野 温子(1961~・東京都大田区出身):真山薫
仲村トオル(1965~・東京都大田区出身):町田透
土屋太鳳(1995~・東京都世田谷区出身):永峰彩夏

 

大ヒットTVドラマシリーズから派生した作品だけあって、予想どおりの展開であり安心して楽しむことができた 本作が映画ランキングで高評価をとり、ほかに見るべき作品が余りなかったし、昼の用事が終わってちょうどよい時間帯だったので鑑賞 昔のTVドラマを楽しんだ高齢の方々が多く観客席に

 

TVドラマシリーズ「あぶない刑事」(1986~1987)そして続編の「もっとあぶない刑事」(1988~1989)はいつも視聴率20%前後と大ヒットしたらしい 残念ながら筆者は仕事しか頭になかった頃であり、また米国に赴任していた時期に大部分重なっていたのでほとんど記憶にない TVドラマシリーズとして75本以上製作し、また劇場映画シリーズとしては本作で7作目になるようだ

 

舘と柴田は相変らずスリムだが、浅野はかなり丸くなった感じ 土屋は若々しくてよかった 撮影は2023年に横浜市関内・中華街、千葉県市原市、神戸市ポートアイランドなどで行われたようだ

劇場映画「関心領域」を観て

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★関心領域(105分・米・英・ポーランド・2024)

(注)★★は超お薦め、★はお薦めの作品

 

監督・脚本:ジョナサン・グレイザー(1965~・ロンドン出身)

原作:「関心領域(原題:The Zone of Interest)」マーティン・エイミス著(1949~2023・英ウェールズ出身・小説家・教授)2014・和訳あり(2024)

主演:クリスティアン・フリーデル(1979年~・独マクデブルク出身):ルドルフ・ヘス(1901~1947・独バーデン=バーデン出身)

助演:ザンドラ・ヒュラー(1978~・独ズール出身):ヘイトヴィヒ・ヘス

原題:The Zone of Interest

受賞:第76回カンヌ国際映画祭(2023)グランプリ、第96回アカデミー賞(2024)国際長編映画賞・音響賞

 

1940年4月から1943年11月までアウシュヴィッツ強制収容所(ポーランド)の所長だったルドルフ・ヘスが本作の主人公 ヘスは絞首刑になる前に詳細な手記を書き残しているという 原作はヘスとその家族、またナチス関係者に関する恋愛感情などを記述しているようだが、本作映画は原作から発想しているとはいえ、この原作とは別物とみた方がよいらしい ユダヤ人でもあるグレイザー監督は本作製作に10年間を費やし、ヘス夫妻に関する徹底的な調査を行ったようだ 関心領域とはアウシュヴィッツ強制収容所周辺の、親衛隊(SS)のために確保された地域を意味するとのことで、独語では"Interessengebiet"というようだ

 

本作の冒頭とエンドクレジット前に何も見えない暗い画面がかなりの時間出現 聴いたこともないような複雑怪奇な音が流れる 後から考えると、これは関心領域で生活する人々に日常聴こえていた背景雑音だったのかもしれない アウシュヴィッツ強制収容所に隣接したヘス夫妻の広い庭付き邸宅で展開される上流階級の普通の生活を克明に描いている 時々子供たちが拾った金属の歯で遊んだり、収容所から回されてきた衣類や貴重品を品定めする光景に驚かされる またヘス夫人が家庭菜園も含めた理想の生活を希求し、それを手放そうとしなかったことからは、戦時下の国の中ではまさに異常と平常が同時進行していたことが分かる 収容所で飢餓に苦しむ囚人たちのためにリンゴを置くために自転車で通った少女は、グレイザー監督が調査中に会ったポーランド人女性を実在のモデルとしているそうだ この部分はどうやら赤外線カメラで撮影されているのではないか

 

撮影は2021年夏に約2ヶ月間アウシュヴィッツで行われたとのこと オリジナルのヘス邸は終戦後は個人の邸宅となっていたため、収容所に隣接する近くの廃屋をレプリカ・セットとして改造したらしい また追加撮影が2022年1月に同じポーランドのイェレニャ・グラで行われたとのこと

劇場映画「碁盤斬り」を観て

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★碁盤斬り(129分・日・2024)

(注)★★は超お薦め、★はお薦めの作品

 

監督:白石和彌(1974~・北海道旭川市出身) 代表作:「虎狼の血」(2015・125分)

 

脚本:加藤正人(1954~・秋田県能代市出身) 書き下ろし小説『碁盤斬り 柳田格之進異聞』として2024年3月に刊行

 

主演:草彅剛(1974~・愛媛県西予市出生・埼玉県春日部市出身):柳田格之進

 

助演:清原果耶(2002~・大阪市出身):お絹
中川大志(1998~・東京都出生・茨城県出身):弥吉
奥野瑛太(1986~・北海道苫小牧市出身):梶木左門
國村隼(1955~・熊本県八代市出生・大阪市出身):萬屋源兵衛
小泉今日子(1966~・神奈川県厚木市出身):お庚
斉藤工(1981~・東京都港区出身):柴田兵庫
市村正親(1949~・埼玉県川越市出身):長兵衛
音尾琢真(1976~・北海道旭川市出身):徳次郎

 

草彅剛がいよいよ役者として開花・全盛期を迎えたように思う 古典落語の演目「柳田格之進」をベースに加藤正人が映画脚本化したものを、白石和彌が監督・製作 草彅は江戸の誇り高い武士の生きざまを描いた人情噺に登場する格之進になりきっていた 撮影は2023年2月初旬~4月上旬に主に東映と松竹の京都撮影所(京都市右京区太秦)で行われたようだ 近いとはいえ両撮影所間の往復もあり、時代劇独特の衣装・かつら・メークなどに時間を要するので、主役でも待ち時間がかなりある その間草彅は高倉健(1931~2014・福岡県中間市出身)のことを想い、高倉になろうといていたという

 

白石監督のオーラのせいか、草彅を囲む助演には豪華俳優陣が揃った ただし、映画とはいえ囲碁の話なので、そこも手抜きをしていない 日本棋院の高尾紳路九段(1976~・千葉市出身)を監修に迎え、江戸時代の棋譜を踏襲し、囲碁のプロが観ても全く違和感がないようにしている その上井山裕太王座(元七冠:1989~・大阪府東大阪市出身)、藤沢里菜女流本因坊(1998~・埼玉県所沢市出身)など5人のプロ棋士もエキストラ出演しているそうだ 筆者には予備知識がなかったので、プロ棋士たちがどのシーンで登場したのかは分からなかった 大体の想像は付くが…

 

終盤の殺陣のシーンも見所 草彅と仇敵・斎藤工の一騎打ちはなかなか 加藤の脚本により、最後に堅物一辺倒の格之進に片隅に追いやられた人々を思う広い心・惻隠の情を与えた 筆者も若い頃は時代劇を少々馬鹿にしていたが、最近少しずつ日本の美意識・様式を体現した分かりやすい庶民向けの時代劇が復活しつつあるのは頼もしいと思うようになった 彦根藩での出来事は、本物の彦根城(滋賀県彦根市)でロケ撮影されたとのこと また、近くの琵琶湖も撮影に使われたようだ