わが家の、
イマイチぱっと冴えない男子、
うちの息子。
学校の成績や、
スポーツで活躍する感じでもなく、
それでいて、
自分はできないとは思っていなくて、
目の前のこれと決めたことに、
いつも全集中。
すごく気合を入れて取り組むのに、
まぁ、
結果はやっぱりそれなりだから、
かっこいいところはなくて………。
思春期で、
格好つけて、
俺は、やればできるけど、
全力出してないだけだぜ、
って、
なりがちな年頃なのに、
そういうプライドはないから、
大口叩いて頑張るけど、
結果が出せない、
あちゃちゃ。
ってな子。
周りも優しいから、
変にいじられてこなかったのが救いで、
勝手に全力なわが子が、
空回っていても、
放っておいてくれている感じ。
うちの息子は、
優しいし、
良く知ってもらえば、
味もある子だと思うんだけど、
周りに、
わかってもらえている感じがしなくて、
うまくいかないもんだね。
って、
家族は思っていて、
まぁ、頑張れ!
って、
結果を全く期待しないで、
日々応援してきた。
そんな息子に、
思わぬチャンス。
初参加の市民ミュージカルで、
いきなりの主役に抜擢。
参加者に男子が少なくて、
女子の配役は激戦だけど、
男子はいてくれるだけで、
ウエルカムな雰囲気。
初心者でも、
悪役の子分とか、
通りすがりとか、
あれこれやってと、
ここぞとばかりに、
いっぱい使ってもらえる気がしたので、
人助けが好きな息子にとっては、
居心地良いかも。
と、私が勝手に思って、
本人は、
全くやる気持ちがなかったのに、
かなり強引に引き込んだ。
初心者で、何ができるわけでもない。
どうせ大した役なんてつかないから、
部活との両立も大丈夫!
初めてのことだけど、
経験者の妹が、
しっかりサポートしてくれるって言っているから、
どんと大船に乗った気持ちでやっておいで!!
そんな誘い文句だった。
男子はどうしても多用されるので、
長年取り組んできた妹よりも、
いきなり目立つ役なんてことはあるかもね。
なんて、
妹とは話していたのだけど、
まさかの主役と言われて、
頭の上に金盥を落とされたみたいな、
衝撃だった。
このまま大役を引き受けてしまって大丈夫か?
息子とじっくりと話し合うことに。
主人公のイメージにピッタリ。
歌が上手い。
そんなふうに言われて、
滅多になく、
人から必要とされたものだから、
「頑張るよ」
息子が気持ちを固めた。
まず息子に謝ることになったのは、
部活との両立。
主役が練習をしょっちゅう休んでいては、
劇の仕上がりを決めるみんなの士気に、
影響を与えてしまう。
だから、予定が重なれば、
きっと、
部活の方が犠牲になる。
その結果、
部活での居心地が、
悪くなってしまうかもしれないということ。
しかも、口下手な息子。
うまく周りに説明できずに、
必要以上に立場が悪くなるかも。
と、心配だった。
ミュージカルはミュージカルで、
全体を二つの組に分けて、
それぞれが競うように磨き上げて、
作品を作ってゆく仕組み。
もう一つの組の主役は、
長年このミュージカルに参加されている方で、
社会人。
しかも、
今回の作品は、
上演の直前まで準備を進めていたにもかかわらず、
コロナ禍で実現しなかった作品で、
その時に、
両方の組で主役をされていた方なのだ。
今回は、
うちの息子が現れて、
主役も二人に分けることになったのだけれど、
片や初心者。
片や一度は上演直前まで練習をしてきたベテラン。
練習が進んでくると、
もう片方の組の芝居を見ながら、
自分たちの改善点を模索して、
ブラッシュアップしてゆく作業になってくる。
物語で一番目立つ、
主役に、
ここまでの力量の差。
どうしても、
みんなの心に湧いてしまう、
どちらの組の方が良い。
自分の組は当たりだ(ハズレだ)。
という感情。
そこは、
良識ある人たちの集まりだし、
わかりきっていることなので、
誰も、
何も、
伝えてくる人なんかいなかったけど、
何も思われていないはずはない。
みんな、本番には、
家族や友達を呼ぶのだから、
良いものを見せたい気持ちは強いもの。
運悪くダメな方引いちゃったけど、
仕方ないか……。
なんて、思ってくれるはずもない。
静かすぎるプレッシャー。
「茶化した嫌味の一つも言われず、
徹底して伝わってこないから、
逆に恐い」
妹が言った。
そんなものとも、
戦わなくてはならなかった。
とにかくやるしかなくて、
ひたすらセリフを覚えて、
練習を繰り返す。
明らかなセリフの棒読みや、
何も表現できずに、
舞台の真ん中で棒立ちでいることに、
もっと考えろと、
指導者から檄が飛ぶ。
そろそろ心が折れるんじゃないかって、
ヒヤヒヤな毎日。
でも、
不思議と、
息子が気落ちして、
投げやりになるようなことは、
一度も起こらなかった。
もともと、
自分はできると信じている子で、
周りからどう思われるか、
なんてことに、
そんなに敏感でないため、
初心者の自分は、
今はできていないけれど、
何とかして本番には間に合わせるぞ!
と、
今できることを、
とにかく精一杯やろうとする。
周りの人に、
良かれと思って注意されることに、
慣れているので、
いろいろな人が、
何とかしようと、
たくさんくれるアドバイスに、
いちいち素直に耳を傾けられる。
息子の持ついろいろなピースが、
良い方向にハマることもあるのかと、
思った。
主役が座長も務めることになって、
練習の初めと終わりに、
一言、
メンバーの気持ちを一つにまとめて、
練習に励むべく、
コメントを言うことに。
もう一つの組の座長は、
ベテランなので、
舞台上での有意義なアドバイス。
うちの子は、
見よう見まねで、
「寒くなってきましたが、
風邪をひかないように気をつけましょう!!」
みたいな、
誰もがわかっている、
当たり前のこと。
はいはい。
うんうん頑張ってる。
ものすご〜〜く、
温かく見守ってもらえているけど、
我慢して聞いてくれているよね。
っていうのは、
火を見るより明らかだった。
それでも、
毎度、毎度、
息子も、
めげずに一生懸命頑張るものだから、
少しづつ、
うちの息子に、
好意的な雰囲気に変わってきた。
息子の自信満々な大口が飛び出しても、
気持ちは本物。
と、受け入れられてくるようになってきた感触。
何より、
圧倒的な経験不足で、
頼りない主役だけど、
めげず、
諦めず、
頑張り続けるから、
腐られるより何倍もマシ。
くらいに、思ってくれたみたい。
気づいたら、
周りが、良い雰囲気でまとまってきて、
組の垣根を超えて、
たくさんの人に支えられていて、
みんなの期待に応えるように、
息子が頑張って、
羽ばたかせてもらえる構図になっていた。
もともと、
みんなで力を合わせて、
一つの舞台を完成を目指す、
協力的な関係。
必要とされることで、
俄然張り切る息子。
場の空気が読めず苦労してきた子だけど、
今回はそれが幸いして、
気にしすぎることなく、
頑張り続けることができて。
そうこうしているうちに、
悪いヤツじゃないんだよ。
って、
少しづつ、
周りからの理解を得られてきて、
公演を迎える頃には、
良い仲間が周りにいてくれる、
ありがたい状態に……。
おかげさまで、
本人の持てる力を出しきれて、
同じ台本でも、
演じる人が変わると、
ここまで変わるのか!?
って、
組ごとに見比べたら、
雰囲気違い過ぎてびっくりするけど、
それぞれに面白いよね。
なんて、声が聞こえてきて、
まぁ、
うちの子を主役に選んでくれた先生方の、
当初の期待を損なうことなく済んだかな。
そんな結果になった。
嬉しい誤算が別にもあって、
居場所がなくなるんじゃないか、って、
懸念していた部活のほう。
公演が近づいて、
チケット発売ってタイミングで、
兼部者が多い部活なので、
ある程度は理解があるらしい、
とはいえ、
あれこれ迷惑かけて、
観にきてくださいなんて言えないよ。
って、
息子が言うから、
チケット代もかかるし、
そういうのって難しいよね。
なんて、友達や周囲の人に、
声をかけられずにいることは、
特に気にしないでいたのだけれど。
しばらくして、
身近な2〜3人が来てくれそうだ。
なんて言ってくるから。
あぁ、
息子の近くに理解者がいてくれるんだと、
とってもありがたい気持ち。
チケットが、まもなく完売しそうです、
ってタイミングに、
一応、興味を持ってくれている人が他にいないか、
もう少し広い範囲に聞いてみたら、
先輩も含めて自分も自分もと、
名乗りを上げてくれる人が相次いで、
顧問の先生や部長も含めて、
十数人が観に来てくれることになり、
公演当日は、
部活の練習があったのに、
うちの子のミュージカルに行く人が多数いるからと、
それに合わせて練習を予定よりも早く切り上げて、
団体様で観に来てくれた。
なんてことも起こった。
市民ミュージカルとはいえ、
プロの手を借りた、
割としっかりとした公演で、
舞台の中心でスポットライトを一身に浴びて、
満席の観客の視線を集める、
うちの息子の姿には、
みんなびっくりしてくれたみたいで、
「すごいな〜〜!!」
「かっこよかったよ〜〜!!」
って、公演後のロビーで、
興奮冷めやらぬ様子で、
囲まれて、記念撮影の嵐。
顧問の先生に、
ご理解いただけたことのお礼を言ったら、
「応援してやろうって周りが自然に思える、
日頃の彼の頑張りの結果です」
と言われ。
近くにいたキャストのお母さんたちから、
「学校でも愛されてるね〜〜」
「良いキャラだもんね〜〜」
なんて言われ。
アンケートにも、
「部活も頑張りながら、
こんなミュージカルも、
両立させていてすごい!!」
なんて、書かれていて、
部活は部活で、
行ける時に頑張ってたんだな。
って感じることができた。
何やっても、
空回りが多く、
認めてもらえないできたうちの息子が、
ここにきて認められている?
とにかく嬉しかった。
ず〜〜っと、
心配だらけだった息子に、
思いがけず光が当たることがあって、
今まで言われたことのない、
息子を肯定する言葉をかけられる。
夢みたいな日々は、
大変だった日々と一緒に、
あっという間に過ぎて、
今ではもう過去のこと。
そんな中でも、
残ったものがあって、
良いところは確かにあるのだから、
それは失くさない!
と、
試行錯誤してきた日々は、
間違ってない。
息子も私も、
少しだけ、
自信を得ることができた。
とってもありがたい。
またいつか、
こんなことが起こるんじゃないかって、
夢見て、
また、
日々を頑張っていこうと思う。