十三仏(じゅうさんぶつ)というのは、真言宗では人が亡くなってお弔いをする場合に、亡くなってから一週間ごとにお迎えする仏さまの総称です。
亡くなって七日目までは①不動明王
二週までを②釈迦如来
三週までを③文殊菩薩
四週までを④普賢菩薩
五週までを⑤地蔵菩薩
六週までを⑥弥勒菩薩。
そして七週目四十九日までが⑦薬師如来です。
その後百箇日⑧観音菩薩。
一周忌⑨勢至菩薩。
三回忌⑩阿弥陀如来。
七回忌⑪阿閦如来。
十三回忌⑫大日如来。
三十三回忌⑬虚空蔵菩薩で十三の仏さんです。
実は御年忌は十七回忌・二十三回忌・二十五回忌・三十七回忌・五十回忌・百回忌までする場合も、それぞれ本尊が別々に決まっています。今回は、そのうち四十九日迄の薬師如来まで、毎号御紹介したいと思っています。
不動明王はヒンズー教のシヴァ神
人が亡くなると、枕経・お通夜・葬儀を行います。真言宗では、初七日までのお勤めは不動明王を本尊とします。
赤々と燃え上がる炎を背にし、目をいからし、歯をむき出して全身で慈愛の怒りを表しています。真言宗では不動明王というと、護摩を焚いて御祈祷する本尊として、成田山新勝寺などが有名です。真言宗以外の宗旨のお寺でもまつられていることはごく稀にあります。しかし、真言宗のお寺が圧倒的に多いです。それは不動明王が、真言宗の教義上で最も大切にしている大日如来の化身として位置づけられているからです。
その不動明王は、元々はインドのヒンズー教のシヴァ神がルーツです。ヒンズー教の破壊と再生の神として大切にされてきました。そのシヴァ神がインドで様々な教えを包摂して発展してきた仏教の最も進んだ形の密教に取り入れられて、アチャラ・ナータという尊格として大切にされました。アチャラは動かないという意味・ナータは守護者という意味で、中国を経て日本に伝わり、不動明王と呼ばれています。
日本でメジャーになった不動明王
なぜ真言宗の葬儀の本尊となっているかというと、亡くなられた方は現世に心残りがあるものと考えられて、仏弟子として迷うことなく修行に励むように、その最初の指導者として菩提心の強い不動明王が選ばれたわけです。不動明王にかかると、いざ腰が引けて逃げだそうとしても、右手に持っている羂索という飛び道具でとらえられてしまいます。ずいぶんと荒っぽい仏さんです。
実は不動明王は日本ではメジャーな仏さんですが、中国やインドではあまり広がりませんでした。そもそもヒンズー教のシヴァ神は、不動明王とは姿形がずいぶん違います。あんなに怒った顔をしていません。むしろ妖艶な姿にも見えます。日本の不動明王は独自にローカライズされて真言密教の守護者として地位を確立していったのです。
真言密教では、仏像の持ち物や座っている場所、その顔や色にシンボリックに教義が表現されています。このように教えをシンボリックに表現するのは、真言宗の開祖空(くう)海(かい)が他の仏教宗派との違いとして最も重視した性格です。そういう意味でも、十三仏の最初の仏さんとして不動明王が位置づけられているのは、とても意義深いことだと思います。
長仙寺の葬儀本尊の不動明王
長仙寺のお葬式では、薬師堂にまつられている不動明王を葬儀式場に持っていきます。不動明王が剣を持っている手と、葬儀の際に使う五鈷杵を五色の紐で結びます。この五鈷杵(ごこしよ)を不動明王との縁(えにし)の象徴として亡くなられた方にお授けします。出棺する直前、この五鈷杵を親しい方ひとりひとりが感謝と祈りを念じ込めて、手から手に渡し、最後に喪主の手から、亡くなられた方の胸元に置かれます。そして荼(だ)毘(び)に付されます。
葬儀を終え、お骨は御自宅に帰り、七日ごとのお勤めを七回積んで、四十九日の法要の時、薬師如来のいる薬師堂にお参りします。薬師如来の傍らには、葬儀の時の本尊不動明王が一緒にお迎えいたします。
不動明王像の代表
実際に見ることの出来る不動明王としてオススメは、京都東寺(とうじ)の不動明王です。この不動明王は金堂の二十一体の立体曼荼羅の一尊として拝観できます。一番中心に大日如来を中心に五智如来(ごちにょらい)がまつられ、左右に金剛波羅蜜多菩薩(こうごうはらみたぼさつ)を中心とする五大菩薩(ごだいさつ)と、不動明王を中心とする五大明王(ごだいみょうおう)がまつられています。全部で二十一尊の仏さんが作り出す壮観な立体曼荼羅の一尊として不動明王が拝観できます。
長仙寺には、この葬儀本尊とは別に不動堂に不動明王立像があります。普段は見ることが出来ませんが、おたがまつりの時は、不動堂の扉を開けて、どなたでもお参り出来るように致します。そして多賀壽命殿の中の左手に青い不動明王図像がまつられています。御祈祷をされる方は、どなたでも間近にお参りすることができます。
少し怖い仏さんですが、不動明王は交通安全や病気平癒などをお祈りするときにも欠かせない仏さんです。そして真言宗の檀家さんの仏壇にも多くまつられています。