「なんだ、蓮。微妙な顔をして」
社長室に戻った蓮の顔を見てローリィが一発目で声をかけてきた。
だが、蓮は「いえ、なにもありません」と本当になんでもなさそうに席に着く。
ローリィはその様子を一瞬面白そうに見ながら葉巻に手をつけた。
「どうだ、社。最上君は問題なさそうだろ」
「別に心配はしていませんでしたよ。彼女はよく働く子ですし、頭もいい子ですし・・・」
「蓮の色香に惑わされる事もなさそうだしな」
ニヤニヤした言葉に、社は一瞬言葉に詰まった。
実の所、蓮ふんするカインの付き人を一応「若い女性」がすることに一抹の不安があったのは確かだ。
見た目はもちろん、フェミニストの蓮に魂を抜かれて仕事に身が入らなくなるのではないかと懸念があったのだが
「はは・・・キョーコちゃんのあの態度だとそんな心配は全くなさそうですね。」
「ラブミー部のラスボスだからな。むしろ、蓮。お前少しは自慢の称号で最上君のトキメキを復活させてこい」
話をふられて蓮は呆れ気味の顔をしながら答える。
「自慢にした覚えはありませんが・・・・・というか、何なんですかそのラブミー部のラスボスって」
「ん?ん・・・・ラブミー部は現在3名いて、まあ、どの子も症状はあれど・・・・最上くんが一番の重症だな。愛したくも愛されたくもない病もあそこまでいくと、すぐには俺もお手上げだ。」
「愛したくも愛されたくもない病・・・ですか?」
何ですかそれは・・・と聞いたのは社の方で、蓮は何かを考え込む様に黙り込んでいた
「俺も詳しくは知らんが、どうも色々複雑な子でな・・・・」
そんなローリィの言葉を聞きながら、蓮の脳裏にはあの日のキョーコが浮かんでいた。
『もっと・・忘れさせてよ・・・・ッ!・忘れたいの・・・ッひっく・・・忘れさせて・・』
あの涙も慟哭も
あの日から欠片も見つける事は出来ていない
自分も詳しい事を知っている訳ではない。
あの日の彼女の言動からある程度の予想がついているぐらいだ。
でも、一つだけわかっているのは
彼女の傷が癒えたのでは無く・・・・・彼女が隠してしまった事
「なんだ、蓮気になるのか?」
「そういえば養成所って言っていましたが、何のですか?」
からかう口調のローリィの言葉を無視して、蓮はもう一つ気になる事を口にした。
さっきは聞き流してしまったが、気になっていたのだ。
「・・・・・・・ウチの俳優セクションの養成所だよ。そこで他のラブミー部員と一緒に演技の勉強をしている」
「・・・・そう・・・なんですか・・・」
・・・・・聞いていない・・・
知らなかった事実に蓮の胸に不満が湧き上がる。
「・・・・・・・おい、蓮。お前、最上君と面識があったのか?」
「え?ええ・・・先日事務所で挨拶をしましたが?」
「いや・・・そういう事じゃなく・・・まあいい・・・」
普通に返答する蓮にローリィは一瞬何か言いたげた顔をする。
気のせい・・・か?
なんか、さっきの二人の様子から気になるんだがな~・・・
とにかく今の所は
「今の所はカインヒールだな。覚悟は出来ているんだろうな?」
「・・・・・・・・はい。問題ありません」
今度はローリィの顔を見ながら、しっかりと蓮は頷いた。
あがき
それでも
進め
翌日
LMEの俳優セクションの養成所。
ラブミー部での活動との交換条件で入所させてもらい、日々演技の基礎を勉強している。
色々な事を学ぶのは楽しいし、日々新しい発見でもっと知りたい、もっと作っていきたいと思う
だからこそ、キョーコは夢中になって演技の勉強に没頭していた
「アンタしばらく長期の依頼がはいったんだって?」
「ああ・・・・うん~・・・まあ・・ね・・」
練習後の更衣室で、そういえば、聞いたんだけど・・・という前置きの奏江の言葉にキョーコは言葉を濁した
うう・・・・・気の重い事思い出させないで・・・
「何よ。珍しいわね。いつも無駄に張り切っているクセに」
「ちょっと・・・面倒な人のマネをやる事になって・・・」
「ふ~ん?それって、昨日敦賀さんと一緒に事務所に行った事と関係あるの?」
「へ?い、いや・・・それは・・・関係ないか・・な?」
カインヒールと蓮の関連は秘密だ。
昨日奏江に見られていたとはいえ、それは隠さなければならない。
「なんだ。敦賀さんのマネでもやるかと思ったわ。だったらラッキーだったじゃない?」
「いやねモー子さん!敦賀さんのマネには社さんがいるじゃな・・・・って、へ?ラッキー?」
慌てて否定するも、そぐわない言葉にキョーコは目が点になった。
ラッキー?あの人のマネがラッキー??
この気が重いだけの仕事がラッキー???
「だって、あの人演技者としては学ぶ事多いわよ。近くでそれを見れる何てチャンスじゃない?」
辛口の奏江が昨日あそこまで褒めていた蓮の演技
目からウロコ
「な、なるほど・・・・」
そうよね。もう断れないならそれを存分に活かす方向に考えなきゃ!
「流石モー子さん!!」
「その呼び方やめて!!って、何よやっぱそうなの?」
「あ、ううん!敦賀さんとは違うけど・・・・演技の勉強になる相手だから・・・」
敦賀さんが演じるカインが演じる役だから、間違っていないわよね。
なんだか急にやる気になってきて、気が軽くなって着替えの手を動かしていると、隣の奏江の姿に視線がいった。
モー子さん・・・スタイルいい・・・・
胸もちゃんとあるし、くびれもあるし・・・・下着も・・・・
思わずじっと見ていると、奏江が視線に気づいて「何よ?」と眉をひそめた。
「モー子さんスタイルいいわよね・・・」
「は?当たり前でしょ。芸能人として日々の努力は怠っていないんだから」
「日々の努力・・・・」
『もう少し色っぽい下着持っていない?これだとどうも脱がせ甲斐がない・・・』
イラッ
「・・・・・・・モー子さん、そういう下着ってどこで買うの?」
「は?」
普段のキョーコからは考えられない質問に、奏江は一瞬幻聴かと疑うほどだった。
珍しい事もあるもんだと社は思った。
普段事務的にしか手に取らないスマホを、今日はずっと手にとっては何か気にしている蓮に。
「蓮、誰か連絡が入る予定でもあるのか?」
「・・・・・・え。」
「いや、ずっとスマホを気にしているからさ」
その言葉に今気づいたという様子で、じっと手元のスマホを蓮は見つめた。
「・・・・・・・社さん」
「ん?」
「一週間って・・・・長いですね・・・・」
「は?」
ぼんやりとした蓮の言葉に、一体なんなんだ?と困惑するマネージャーだった。
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