ねえ、幼いころの事って意外と覚えているものなんだよ?
君が昔言っていた台詞もよく覚えている
ずっと心の中にしこりとなって、そして、一つの道導となり続けていた
「・・・・・私モテるのよね」
「知っているよ」
なんたって、今をときめくトップモデルなんだから
日本に来てからいっぱい熱愛報道も読んだしね
「その私に対して、告白だかよくわからない事を言って、返事も求めずに放置して、挙句の果てに開き直ったような中途半端なアピールを続けて・・・アンタ、私にどうして欲しい訳?」
低温から発せられる怒りの言葉に、流石にタラリ・・と冷や汗が流れた。
いや・・・・そんなつもりじゃなかったんだけど・・・・
でも、ここ最近のマリアちゃんの怒りの理由がなんとなく判って、確かに・・・とは思った。
自分にとってはマリアちゃんをずっと想い続けていたから
ずっと想っている事を口に出すのは今更だった。
だけど・・・・どうやらマリアちゃんにとってはそうでは無かったみたいだけど・・・でも、それもそれで悲しかったり。
だって、つまり今まで俺をそう言う目で見てきていなかったって事だから・・・。
まあ、生まれた時からの付き合いだから仕方ないのかもしれないけど
そろそろそれも卒業したいよね
「・・・・・・ゴメン、そんなつもりじゃなかったんだけど・・・」
「じゃあ何よ!?」
クワッと般若の顔で迫ってくる迫力は、母さんそっくり・・・じゃなくて
「いや、だってまだマリアちゃんの合格ラインに達していないかなと思うと、あまり偉そうなことも言えなくて・・」
最近近付いてきたかな・・と思ったけど、やっぱりまだまだだって思い知ったばかりだし。
「・・・・・何よ合格ラインって・・・」
訝しげなマリアちゃんの顔にすっごく言いたくなかったけど、言わないともっと追い詰められそうだったからしぶしぶ白状した。
「・・・・・・・・・・だって、マリアちゃんの初恋って父さんなんでしょ?」
子供の頃に君から聞いた話
今でも覚えている
その時から父さんが目標でライバルだったのはずっと秘密だったのに
案の定マリアちゃんは呆気にとられた表情をしていて
やっぱり言わなきゃよかった。
日本に来て仕事をして
そして今回の件でも
まだまだ自分は父さんには近づけていないって判った
・・・・・まあ、一部分は置いておいて
気まずい沈黙
「・・・・・・凛には無理よ」
沈黙をやぶったのはマリアちゃんだった。
「え?」
「確かに久遠様は一流の男だけどね!それはね、お姉様がいるからなのよ!お姉様がいるから久遠様は一流の男性になれるんだから!じゃなきゃタダのイイ男どまりなのよ!!」
父さん大好きのマリアちゃんらしくないキッパリと言い切る内容に、何を言い出すんだろう・・と呆気にとられた。
ソレは・・・・確かに、母さんがいて父さんがいるけど・・そして、それは逆もしかりというか
恐らく不思議な顔をしているんだろう俺に向かって、マリアちゃんは指をつきつけて宣言してくれた
「だからね!凛の事は私が一流の男にしてあげる!!私が、久遠様に負けないぐらい・・・お姉様に負けないぐらい、凛を一流のイイ男にしてあげるから!!」
この時のこの言葉の感想をどう言っていいのか判らない
ただ、最初は意味が判らなくて、すぐに意味が判って、そして、多分顔に熱が集中していって
目の前のマリアちゃんが可愛くて、愛おしくて、ずっとず~っと大好きだったのに「惚れ直す」ってこういう事を言うのか、と思った。
きっと父さんもずっとこうなんだろうな
母さんが大好きで大好きで
でも、また日々の共に生きていく中でもっと好きになって
何度でも何度でも恋に落ちていく
ユキちゃんがこっそり教えてくれた事を思い出す。
父さんが今回の母さんの家出騒動の時に俺に連絡をくれなかった理由
母さんが父さんの映画の感想に怒った時に、母さんは全く悪気もなく言ったらしい。
「凛だったらもっとちゃんとした感想を言ってくれるもの!」
・・・・・って。
たったそれだけで、父さんは俺に対してヤキモチを妬いたらしい。
まあ、それで家出して俺の所に転がりこんだから、尚更火が付いたらしいけど。
俺もこの先ずっと翻弄されるのかな
「・・・・・マリアちゃん、もうすぐ24日終わるよ。その前に乾杯しようか、誕生日の」
でも、それも悪くないか
いや、嬉しいな
「・・・・・・あれ?凛はまだ戻ってきていないのか?」
娘達を連れて部屋に行った息子がまだ戻ってきていない事に、久遠はようやく気付いたらしい。
「・・・・・そうね」
とっくに気付いていた私は含み笑いをしながら相づちを打った。
更に言えばマリアちゃんがさっき会場から出て行った後まだ戻らない事にも気付いていたけど。
「何?キョーコ、何か知っているの?」
「ううん?何も?」
探るように覗きこまれる目に、必死にポーカーフェイスを保つけど、俳優であるこの人にどれだけ誤魔化せるかしら。
「そのうち戻ってくるわよ。それより・・・・・今日はいろんな人に会えてよかったわね」
「そうだね・・・・大丈夫だった?」
優しい表情に含まれる、心配する欠片に私は微笑む事で答えた。
今回来てくれた人達は色々な事情を知っている人も多かったけど、それは私を傷つけるものでは無かった。
凛と一緒にいる事で驚かれる事も多かったけど、自慢の息子を誇れる気持ちの方が大きかった。
愛する夫と愛おしい子供達
かつて自分にとっては、まるでショーウィンドーの向こうにあるみたいに、憧れて、手が届かないと判っていて、観ているだけだったもの。
素敵なお伽噺の様な夢物語みたいに憧れていたもの
現実にしてくれたのは・・・・・・
「キョーコ・・・・日付が変わったね」
いつの間に用意したのか、目の前に差し出されるのは赤い薔薇
毎年貴方が用意してくれる特別な花
「・・・・・・・久遠」
「誕生日おめでとう」
あの日からずっと私の心を埋めてくれる人
「今年も一番に言えた」
そんな事を幸せそうに言う貴方に、新しい私はまた恋をする
「ありがとう」
更に差し出されるグラスに、自分のグラスを当てる
貴方と一緒にカチンッという音と共に乾杯をする
音と共にこの幸せな気持ちも合わさった気がした。
~FIN~
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