ぶりせ「みなさーん、こんにちは」
けい子「みなさんこんにちは」
ぶりせ「今日は、大阪のサンケイホール・ブリーゼで、フィリップ・ジャルスキーのコンサートです。僕はあまりこの手のリサイタルは経験がないので教えてください。まず、カウンターテナーってなんですか?」
けいこ「はは、まかせといて。カウンターテナーというのは、裏声などを駆使して、女性のメゾソプラノやソプラノなどの声域まで出して歌う男性歌手のこと。以前は声量が小さかったり、音程がぶれたりと難しい声だったんだけど、最近は声量もあって音程もよくかつ演技もできる上手い歌手が増えているの。ジャルスキーは、そういう一流の歌手の先駆的な人ね」
ぶりせ「どうしてこんな声の人がでてきたんですか?」
けい子「昔は、カストラートという去勢されて子供の声をそのまま残し、高音まで自然に出せる男性歌手がいたの。18世紀前半までは、その歌手のために高い音域の男性ヒーローが出てくるオペラがいくつも作曲されたんだけど、カストラートのいない現代で、そういうオペラを上演するには欠かせない歌手なのよ」
ぶりせ「なるほど。ところで、今日のプログラムはファリネッリ&ポルポラ対カレスティーニ&ヘンデルってことですが」
けい子「ヘンデルのイタリアオペラに対抗して、別のオペラ団体が発足し、ファリネッリという当代一のカストラートを招聘したのね。ヘンデルはカレスティーニというカストラートを招聘して対抗したのよ。このリサイタルはその対決の再現ってわけ。
じゃあ、会場へ行きましょう」
(前半を聴きました)
けい子「なにこれ、信じらんない。これが彼の歌だなんて」
ぶりせ「何がですか?見た目からは信じられないような高い音が出てきてびっくりしたのですが」
けい子「彼の歌はもっと柔らかくてふっくらしているの。声はとげとげしいし、技巧ももう一つだし、息も絶え絶え。今までこんなことはなかったのに」
ぶりせ「確かに、体を思いっきり動かして、鳩胸で息して、声を絞り出しているようには見えましたが、あの声なら仕方ないんじゃないですか?」
けい子「いや、こんなはずない。調子が悪いのかな。東京では絶賛だったのに。後半に期待するしかないわね」
(後半とアンコールを聴きました)
けい子「ブラボー!ブラボー!、この歌を待っていたのよ。ふっくらして、あたたかくて、技巧も抜群、音程も極めて正確。美しい!ホールが幸せに満ちているみたい」
ぶりせ「前半と全然違う!最初の一声からもうくらくらしました」
けい子「これが彼の歌よ。もう少し高音を伸ばしてくれたらさらによかったんだけど、これだけの歌を聞かせてくれたら、胸が一杯で、涙が出るわ」
ぶりせ「どの曲がよかったですか?」
けい子「私はヘンデルが好きだから、後半の《アリオダンテ》。最初の長く伸ばした声なんて痺れちゃって。アンコールの『オンブラ・マイ・フ』も美しくて・・・」
ぶりせ「ポルポラも快調でよかったですよね」
けい子「そうね、ポルポラはあまり聴いたことがないけど、面白かった。ヘンデルのしっかりした様式に対して、自由な音楽だったわね」
ぶりせ「管弦楽も美しかったですよね」
けい子「ヴェニス・バロック・オーケストラは、弦はしっかり力強くて、管もいい。ホルンなんてとっても美しかったわ。全体のバランスがとてもいいの」
ぶりせ「僕はリュートの人が面白かったです。にやにやして周りの人とアイコンタクトしているなと思ったら、急に真剣になって、リュートの音を響かせてました」
けい子「そうね、リュートの音があんなに響くなんて私も初めてだわ。それにしても歌も素晴らしいし、オケも抜群。すごくいい体験だったわ。こんなリサイタルを聴けて幸せいっぱい」
ぶりせ「ところで、会場に人はそれなりに入っていましたね。宣伝もあまりしてないし、カウンターテナーってまだマイナーだと思うし、もっと少ないと思っていたけど、ちょっと安心しました」
けい子「そうね。私たちの席の周りはほぼ埋まってたわね。これだけリサイタルに来てくれるっていうのはうれしいな。これでファンがさらに増えてくれるといいんだけど。そうするとまた来てくれるでしょうから」
ぶりせ「そうですよね。また聴きたいです。だから皆さん、リサイタルへ行きましょーねー」
けい子「行きましょうーね。また来阪してくれたら絶対行きましょーね」