レイモンド・チャンドラーの7つの長編、
最後に取って置いた、ベスト1の呼び声も高い『長いお別れ』。
村上春樹訳では『ロング・グッドバイ』になっている。
厚さは約4cm弱。重い。
50年ぶりに読んだのだが、読書には歳を取るのも悪くはない、という好例。
こんなに緻密な小説だったとは、学生時代の僕には分からなかった。
たとえば、警官がたくさん出てくる。台詞のある人だけでも5人。
それがそれぞれ違うタイプに書き分けられている。
でも、共通する警官らしさというのはあって、
それがフィリップ・マーロウにつまらぬ意地を起こさせる。
とくに5人目のバーニー・オールズは喰えないな。
夫婦が3組出てくる。
テリーとシルヴィアのレノックス夫妻。
ロジャーとアイリーンのウェイド夫妻。
リンダとエドワードのローリング夫妻。
いずれもかなり社会的に上位の裕福な資産家で、
同じ高級住宅地に住んでいる。
最初にレノックス家に事件が起きる。
シルヴィアが殺害され、犯人の夫はメキシコに逃亡する。
このとき、国境までマーロウが車で送ることになる。
ここから探偵は事件の渦中に吞み込まれる。
いろいろな人が現れ、さまざまな出来事があってのち、
事件が表も裏も解決したある日、
マーロウの部屋にリンダが泊まりに来る。
そのベッドでの会話。
彼女ははだかの腕を伸ばして私の耳をくすぐり、言った。
「私と結婚したいと思う?」
<中略>
彼女は泣き出した。「あなたは馬鹿よ。とんでもない馬鹿!」彼女の頬は濡れていた。涙が指先に感じられた。
「もし結婚が六カ月しか続かなかったとして、それであなたが何を失うというの?」
こんな会話を1953年に小説に書いていたとは、永井荷風も及ばない。
この第50節は例の言葉で終わる。
To say goodbye is to die a little.
う~ん、どう日本語にするんだろうね?
村上春樹の解答は、興味のある人は自分で確かめてください。
他の巻のあとがきで訳者は、
マーロウがリンダとパリで結婚生活をおくっている短編がある、としているが、
その作品も読んでみたいなぁ。