ナチョウという友人がいます。彼はプレイボーイの典型で気に入った女性を見たら速攻で口説きます。また、くどかれた女性は簡単にナチョウになついてしまいます。どんな媚薬でも持っているのかとききたくなるくらい彼は女性ハンティングにはたけていました。英国の英語学校で彼はトラブルにまきこまれました。
しかも彼は何度も渡英して同じ英語学校に通って英語をブラッシュアップしていたのです。ここが彼のちょっと浅はかなところ。なぜなら、同じ学校の中で難破を続けていたことが仇になったからです。
ナチョウは僕と学校内で出会う二年前にも同じ学校でスイス人のガールフレンドを作っていました。もちろん、ヨーロピアンは何人とか気にしません。ヨーロッパ人の感覚はほぼ同じと思っているのでしょう。同じ大陸に国境が設定してあって、ちょっと違う言葉を話しているくらいのもの。ナチョウはスイス人の綺麗なガールフレンドを学校内で作っていたのです。もちろんヨーロッパの英語留学の学生たちは「短期間留学」です。長くても1年間くらいでしょう。英国は彼らにとっては短距離でいける英語留学の地であり、帰国も楽なわけです。
ナチョウが僕と会った時にはスイス人のガールフレンドがいることは教えてくれませんでした。というより、そのスイス人の彼女のことなんかぜーんぜん覚えてないよ的な表情でしたから、それより当たらしいガールフレンドつくりにせっせと活動をしていましたね。そしてできたのがイタリア人のガールフレンド。どの国の女の子もあまい言葉にはよわいのは同じなようで、ナチョウは褒め殺しよりももっと女の子を天国へ導くフレーズを使って、あっというまに極楽へ連れて行くらしいです。簡単にイタリア人の女の子はナチョウの腕の中へ落ちて行きました。
ナチョウが血相を変えて僕のホストファミリーの家に電話をかけてきました。
「なんだ。ナチョウ、声がうわずってるぞ。」
「それどころじゃあないよ。スイスのガールフレンドが英国へ来るっていうんだ。」
「あれ?スイス人のガールフレンドっていたの?どこに住んでるの?」
「馬鹿いってんじゃあないよ。スイス人だからスイスからやってくるんだよ。」
「だってお前今イタリア人のあの子とつきあってるじゃん。」
「だからお前にそのことで相談しているんだよ。どうしたら良いか。俺どっかへ雲隠れしたいんだけど。」
「あ、お前、そのスイス人の女の子と関係あったんだろ?」
「お前、恋愛して肉体関係ないほうがおかしいだろ。」
「あ~俺知らないよ。こりゃあ痴情のもつれになるぞ。」
「なあ、どうしたら良いと思う?お前ならどうする?お前もけっこうヨーロッパ女性にもててるじゃないか。」
「俺は仲よくおつきあいさせてもらってるだけ。フレンドリーにお話だけしているし節度のあるつきあいだもの。お前とは全く違う。」
「お前、そんなんで良く我慢できるな。目の前に素敵な女性がいて、性的興奮ないのか?それは逆に女性に失礼じゃあないか。俺だったら口説いてる。」
「口説いたあげくが地獄のサンドイッチになったわけか。俺だったら、正直に今のお前の現状をスイスのガールフレンドに伝えて、髪を丸坊主にする。」
「そんなことしたら、女の子に敬遠されちゃうじゃあないか。」
「お前この後に及んでそんなこと考えてるの?馬鹿じゃあないか。それでいつスイス軍はやってくるんだ。」
「すでに英国上陸したよ。」
「えー!!ほんとかよ!」
「時間がないんだ。どうしよう。」
「お前どっちが好きなんだ?チーズフォンデューか?イタリアンピザか?はっきりしろ!」
「できればどっちも混ぜて食べたい(笑)」
「馬鹿か。とにかくどっちも同じくらい好きってわけじゃあないだろ。だったら英国滞在している今はスイスの方に気がなかったんだから、お前スイスにあやまれ。これは国際問題なんだぞ。スペインの国民を代表してスイスにあやまれ!」
ナチョウは結局、全てをスイス人のガールフレンドに話し、そしてスイスの女の子は怒りに怒ってナチョウの顔を5,6発殴って帰国についたらしい。
そのナチョウとマドリッドで再開した。ナチョウはスペイン人のこげ茶の髪をした新たなガールフレンドを紹介してくれた。この男は「だっこちゃん」だと思った。だっこちゃんとは1960年代前半にはやったビニールのふくらまし人形のおもちゃで、腕にくっつけて歩くものだった。ナチョウはいつも女の子の腕にからみついているから、スパニッシュだっこちゃんと心の中で彼のことをそう呼んでいた。
彼が誘ってくれたのは「トロ」である。寿司やにさそわれたわけじゃあない。スペイン語で闘牛のこと。トロはスペインでも人気のスポーツ。一度は見ておく必要があるなと思っていたら結構入場料が高い。だが誘ったのはナチョウ。ナチョウは「おい。お前はここへは二度と来れないかもしれないから、ここは俺が払う。もし俺が日本へ行ったら相撲を見に連れて行ってくれ。」とナチョウがトロを招待してくれたのだった。
この日のトロは超満員。闘牛も迫力満点。600キロ級の牛がものすごい勢いでマタドール(闘牛士)に向かってくる。その迫力は実際に見ないとわからないだろう。ナチョウが僕にこういった。
「こくれだけ沢山の観客がいるけど、日本人観光客ってすぐわかるんだよ。」
「どうして?」
「あのな大体二頭目の牛がマタドールに首のところを剣で刺されて絶命するだろ。そのころ、頭の毛の黒い背丈の低い連中がごそごそと帰り支度はじめて席を離れ、すごすごと一列を作って帰って行く。それが日本人観光客なんだよ。」
「へぇ~。良く知ってるな。」
「だけど、お前はすごいな。」
「何がすごいの?」
「だって今もう5頭の牛がお前の目の前で殺されても、お前平気で見てるじゃあないか?」
「別にすごくもなんともない。一生に一度しか見られないと思って見てるだけさ。」
「そこがすごいんだよ。一生に一度って決めちゃってるところが。」
「へえ。そんなもんかなぁ。」
トロは6頭の牛を全て絶命させて終わった。もちろんその帰りにステーキが食べられなかった私はやはり日本人であった。