- 花房 孝典, 穂積 和夫
- スペンサーを見る事典―イラストで読む私立探偵スペンサーの世界
AMAZONに画像がないので(絶版かよ……)、スキャナで取り込んでみました。
えー、以前にわたしがテーブルトークRPG「クトゥルフの呼び声」のゲームの背景資料としてボストンの本を読み漁る過程でスペンサー・シリーズ、そして一連のハードボイルド御三家を読み始めたということを書いたことがあるのですが。
その発端となった、最初の一冊がこれです。
穂積和夫氏は日本のメンズファッション・イラストの第一人者なのだそうで、他にもクルマや映画のポスター、最近では古い日本の建造物などのイラストを描かれる方です。表紙を見ていただいても分かるように、写実的で柔らかいタッチは「さすがファッション関係のイラストを多く手がけてこられたのだな~」と思わされますね。
内容はというとスペンサーやスーザン、ホークといった主要キャラクターのデータ、作中に登場するそれぞれのキャラクターの小道具やクルマ、銃の解説、マサチューセッツ州ボストンの地理や歴史、何作かに渡って登場する常連キャラの紹介、ボストンのメディアやスポーツ・チーム、スペンサー・シリーズの特徴の一つであるやたら多い(そしてむやみに詳細な)食事シーンでのメニューなど、本当に多岐にわたります。まさしく事典ですね。
ボストンを舞台にするスペンサー・シリーズには実名で登場するお店(主にファッションブランドとレストラン)や、実在の(しかしそんなにメジャーではない)人物の名前がでてきたりするので、読んでいて「なんじゃそれ」ということが少なくないのですが、こういった解説本があると「ああ、そういうことだったのね~」と納得できたりもします。
「初秋」の中で、引用が主にフロストかシェイクスピアからだとポールに指摘されたスペンサーが「ピーター・ギャモンズ(ボストン・グローブ紙の野球記者)を引用することもあるよ」と言い返すシーンがあるのですが、このギャモンズ氏、松坂大輔のレッドソックス移籍のときに日本のテレビのインタビューに答えてらっしゃいました。他にも同作でごろつきがスペンサーに「(俺を)ミニットマンの銅像でぶん殴るのか?」とからかうシーンも、舞台であるレキシントンが英国軍と民兵(ミニットマン)が衝突した、アメリカ独立戦争の開戦地であることを知らないと意味が分からないのですよね。
この本が刊行された1990年の時点で出ていた「ゴッドウルフの行方」から「プレイメイツ」の中から非常に多くの引用がされているのですが、おおむねそれはスペンサー・シリーズが現在のように何が何だか分からなくなる(大いなるマンネリという説も……)以前の話なので、この本とシリーズの流れを見比べるとその変遷が見て取れてちょっとした発見があったりもします。
実際、巻末のリストを眺めてみても、ちゃんと読んでいるのはこの後の「ペイパー・ドール」くらいまでなのですよね。最近のスペンサー・シリーズはお遊びモノ(ポッドショットの銃弾など)があるのと、悪役とそうでない人の区別がつかなくなってる(なんでヴィニィ・モリス(初登場時はギャング・ボスのボディガード)がスペンサーと組んでるんだろ……?)ので、どうも読む気がしないんですよね。
(ちょっと話が脱線しますが、パーカーがチャンドラーの遺稿を完成させた「プードル・スプリングス物語」や「大いなる眠り」の続編である「夢を見るかもしれない」でも、パーカーは主人公(この場合はマーロウ)と悪役を組ませるという悪癖を出してるんですよね。チャンドラーの7長編では絶対にありえないことなんですが)
ところで思うのですが、どういうわけかハードボイルド小説にはこういった「文中の抜き書き」を主として構成されるウンチク本が多いのですよね。メッセージボードに挙げている「フィリップ・マーロウのダンディズム」もチャンドラー作品におけるメンズ・ファッションの扱いを取り上げたものですし、他にも特定の作品だけではないハードボイルドの括りで書かれたものもあります。
シリーズ物の主人公を持つ作品は他のジャンルにも多くあるはずなのですが(ホームズのようなメジャーどころは別にしても)、そういったものにこの手の本が見当たらないのはちょっと不思議な気がします。
まあ、わたしが知らないだけかもしれませんが。
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追記。
上でも書きましたがこの本、絶版なので(そんなもん、紹介するな……)読んでみたい方は古本屋かネット・オークションへ。もともとがマニア向けなんで比較的状態の良いものがあるようです。
ちなみにわたしはこれを初版本で買ったのですが、引越しのどさくさでなくしてしまったようで、先日、泣く泣くネット・オークションで買い直しました。
前のヤツが今年の年末大掃除で出てきたら、どなたかに差し上げますね~。