探偵小説の書き出し(ちょっと手直し) | 『Go ahead,Make my day ! 』

『Go ahead,Make my day ! 』

【オリジナルのハードボイルド小説(?)と創作に関する無駄口。ときどき音楽についても】

 夕立は降り始めたときと同じように、何の前触れもなく上がった。

 わたしは百道ランプで都市高速を降り、福岡ドームとシーホークホテルを見ながら市街へと向かっていた。灰色とオレンジの入り混じった空が、ビルの群れに覆い被さるように広がっていた。時計は午後六時を指していたが、日の入りの遅い九州では、まだ太陽はようやく傾き始めたばかりだった。

 FMでは週末のカウントダウンの音楽番組をやっていて、流れているのはジャミロクワイの〈Feels Just Like it should〉だった。四年ぶりのアルバムがどうとか、と、わたしが学生の頃から活躍しているMCが喋っていた。

 横尾という女性の弁護士によると、依頼人の住所は早良区の百道浜だった。もともとは博多湾岸の埋立地で、よかトピア(アジア太平洋博覧会)の頃に造成された新しい街だ。整備された美しい街並み。高級食材を扱うスーパーマーケット。整然と建ち並ぶ高層マンション。高級住宅街に必要なものが何でも揃っている。

 横尾弁護士とは、依頼人のマンションの前で待ち合わせることになっていた。指定された建物は、いわゆるデザイナーズ・マンションというやつだった。海沿いに建っているひときわ背の高い代物で、バブル期なら一億は下らなかっただろう。もっとも、この辺りは不動産の値崩れが極めて少ない地域なので、今でもあまり違わないのかもしれない。

 駐車場にはそれを証明するような高級車がずらりと並んでいた。目立たないから、というあまり主体性のない理由で乗っているMAZDAファミリアのヴァンは、フォーマルなパーティに紛れ込んだ中年サラリーマンのように場違いだった。わたしはジャケットをつかんで車を降りた。正直に言ってスーツを着るにはつらい時期だが、億ションとそれを買える財力を訪問するのにクール・ビズという訳にもいかない。

 駐車場の隅に停まっていたブリティッシュ・グリーンのミニ・クーパーから、ネイヴィブルーのパンツスーツの女性が降りてきた。バーバリ・チェックのトートバッグを提げ、ブラウンフレームの細めの眼鏡をかけている。わたしより少し年下、三十台前半といったところだろうか。拒食症を疑いたくなるような細さだったが、動きはきびきびしている。彼女は手に持った携帯電話を畳んでバッグに放り込んだ。

「高橋調査事務所の方ですか?」彼女が言った。

「ええ。村上といいます。横尾弁護士ですね」

 女は微笑して頷いた。わたしの方へ歩み寄ると、優雅な手つきで名刺を差し出した。わたしも革のくたびれた名刺入れから一枚引っ張り出して、名刺を交換した。もともと背が高いのだろうが、ヒールの高いパンプスを履いているせいで百八十二センチのわたしとあまり変わらなかった。ハイヒールは背の高い女性の為にある、誰かが書いていたが、実例を見ないとピンとこないものだ。