Pockets Full of Good Intention -2ページ目

Woody Shaw / "With Tone Jansa Quartet"

 

 

 

 

 

 

それは良く晴れた日だった

向こうの通りに

変わった歩き方の男が見えて

10メートル先にいる

「なに、そのうち僕も」

なりふり構わないはずだったが

人よりも目立って見えた男から

目をそらした

 

 

 

 

 

 

 

あの男の歩き方

それは安寧の解体だった

シナプスの過剰反応であり

マグニチュードを持った

固い意志の揺さぶりだった

大いなる価値と

加護の傘のもとに

少なくとも僕は

生きているはずだった

 

 

 

 

 

 

 

変わったこと?

思いつかないでもなかった

変わった歩き方の男は

もうすぐ近くまできていた

すれ違うまでに

答えが必要だった

何か答えはないか

速足をこらえ

二毛の時を感じる

 

 

 

 

 

 

 

刹那に

はたと

倒れる音がした

僕の耳から先に入って

男の耳を音がかすめた

地面が回っている

どうやら

少し遅かったようだった

 

 

 

 

 

 

 

 

男は僕の横にうつぶせになって

本を読んでいるらしかった

ジョージ・オーウェル

と書かれたピンクの表紙に

鮮やかな豚の笑い声

悔しいが

彼の勝ちであることは明白だった

 

 

 

 

 

 

 

転がった本の山に

積みあがったレコード

11月のよく晴れた日に

折れ曲がった足跡がつく

あの男は

今は僕の横にいる

知らない人だと思ったら

そっくりな目鼻立ちだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ジャズばかり聞いているのには訳があって

きっと我儘なあなたに会いたい

その一心なのかもしれない

前進と混迷の苦々しい痕

僕がウディショウのトランペットを

無条件に愛する理由がそこにある

 

 

 

 

 

 

 

一気に通り過ぎた音塊は

"Call Mobility"へと雪崩れ込む

放り投げてしまうことの

無情を彼は良く知っている

叩きつける音の理にかなったこと

何か手に取らずにはいられず

あたりを手探りして

触れたものは

さて

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Count Basie / "Jam Session at Montreux, 1975"

 

 

 

 

 

 

6月に子供が生まれた

生まれてからというもの

僕の家庭での役割は

もっぱら炊事係で

今日は豚肉、明日は青梗菜

食べたいものがおいしいもの

きままな料理人の腕はたかがしれている

 

 

 

 

 

 

 

 

食べるものに向き合うひと時は

誰もがどこかに平和を感じている

流れていく命に

心の平穏を促される

おだやかな味になる

みそ汁、ひと掬い

昨日の野次馬が浮かんだ

 

 

 

 

 

 

 

 

えいと投げ入れた大鍋の中

玉ねぎと肉のこま切れが踊る

爆ぜた油は空中で僧侶になって

極楽浄土の経を読んだ

人の身を焦がして

痕になろうとするその

憐れなしぶき

沸点を知らぬ罪と罰

 

 

 

 

 

 

 

 

くたびれたジプシーの寝床を作る

みんな泡沫になった

今日も平和が一周半して

「喝采のない日、晴れ」

書き出す言葉を選んでいる

明日は何を作ろう

平和のために

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ロイ・エルドリッジ

ミルト・ジャクソン

ニールス・ペデルセン

ルイ・ベルソン

ジョニー・グリフィン

みんなユーモアとブルーズの達人

そう、笑ってるんです

みんな

 

 

 

 

 

ベイシーがいつもの

あのコロコロをやると

みんなご機嫌になる

誰もが毒気を抜かれて

ブルーズを棚の奥から引っ張り出してくる

忘れてたのではなく

思い出せなかっただけ

それもみんな

ユーモアのおかげなのだ

 

 

 

 

 

Sammy Walker / "Blue Ridge Mountain Skyline"

 

 

 

 

学生の頃

狂ったように音楽を聴いた

それは黄金律の発見だった

物知り顔で世間を生きる大人が

スコッチを飲むことのように

誰にも邪魔されない

密やかな場所

長い坂道

 

 

 

 

 

 

しばらくすると

そこに墓標が立った

何かの死骸が埋められていた

覗き込むと

確かに息の根は止まっていた

悲しむ人はどこにもいなかった

僕ですらも

 

 

 

 

 

 

夜中に死骸が踊り出すのを聞いた

遥かな夕べ

隣人は驚き僕に

決して外に出てはいけない

と言った

ふざけるな、と思った

今、まさに夜が始まったのだ

詩が息を吹き返したのだ

 

 

 

 

 

 

飛び出して行ったのは

あの墓標の上だった

穴にはスコップが投げ出され

今や死骸は踊り狂っている

熱狂の裏で

街に灯がともる

「誰が揺り起こしたのだ

あの歌と感情を」

 

 

 

 

 

 

目が覚めたら

節々の痛みとともに

踊り狂ったあの夜が

目の奥にべたりとへばりついて

はがれなかった

遥かな長い坂道

墓標は見えない

密やかな場所

まだその土の下から

歌が聞こえてくるようだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それで歌のやつときたら

足を投げ出していた

サミー・ウォーカーの歌だった

靴を脱いでしまった

客人のふるまい

上がりこんだが最後

すすめても帰ろうとはしない

 

 

 

 

 

 

ウディ・ガスリーが今も生きていたら

砂嵐や貧困を嘆いていただろうか

どうしようもない孤独を

歌にして生きたホーボーとして

僕らを旅へとせっついたのだろうか

 

 

 

 

 

僕は今も

スコッチは飲まず

悠然と続く坂道の

密やかな場所

今はない墓標の下の

真実を知っている