東芝に見るもはや利用価値の亡くなった日本 2-2 | きなこのブログ

きなこのブログ

大失業時代が到来しています。大失業の恐ろしさを歴史から学ばなければならない。『大失業は戦争への道につながっている』

日本を明るい未来へ…

4.福島事故のせいで工事が遅れたの?

 
(質問者)
さて、ここからが問題の、建設工事で大赤字が出た理由についてなんですが‥‥
 
(相田)
あちこちニュースで盛り上がってるけど、まだはっきりしない処もある。
 
日本の話を混ぜるとわかりにくいので、取り敢えずアメリカでの出来事だけを、時系列にまとめてみたよ。

2006 東芝がWECを買収、同年NRCよりAP1000の設計認証(FDA)

2008 WECがジョージア州ボーグル、サウスカロライナ州VCサマー原発の受注(合計4基)、同年、施工においてショーと契約

2009 ~ 2011 この期間にNRCより設計認証の度重なる変更。WECは対応に追われる。

2009 8月にNRCよりボーグルの初期サイト許可(Early Site Permit)発行、限定条件での工事に着工
 
2011 9月 ショーが東芝にWEの持株20%引取りを要求
 
2011 12月 NRCによる最終設計承認
 
2012 NRCによりボーグル(2月)、VCサマー(3月)原発の建設運転認可(COL、予定より1年遅れ)
 
2012 7月 CB&Iによりショーは買収
 
2012 秋 ショーによるWE持株20%の買取オプション、東芝に売却
 
2012 11月 ボーグル原発の追加費用(9億ドル)に関してWECと電力会社間で訴訟
 
2013 3月 ボーグル3号機、基礎工事を正式開始、6月格納容器組立開始(14ケ月遅れ)
 
2015 12月 WECがS&Wを買収、S&Wの建設工事をフルアー社に変更
 
2016 10月 フルアーより工事の修正見積もりがWECに報告され、7000億円の赤字が表面化

(相田)
これを見ると、WECを買収してから08年に4基のAP1000を受注するまでは、平和に進んでみたいだね。
 
雲行きが怪しくなるのは受注の後からで、NRC(米国原子力規制委員会)が、AP1000の設計認証についての修正をWECに要求し始めるんだ。
 
9.11テロ事件をきっかけに、旅客機が衝突しても建屋が壊れないようにしろ、とかの安全性を高める要求が繰り返し来たらしい。
 
別に設計を直すだけならいいけれど、問題はAP1000の設計が完成しないと、受注した原発の正式な工事着工が出来ないことなんだ。
 
COL(Combined Construction and Operating License、建設運転一括許可)というんだけど、新しい原発のを建設して運転してもよろしいです、という許可が、AP1000の設計認証が終わらないともらえないんだ。
 
なぜなら、COLを発行するのも設計認証するのも同じNRCだからなんだ。
 
設計認証が終って最初のCOLが貰えたのが、結局2012年初頭で、予定より1年遅れたらしい。
 
(質問者)
NRCって、日本の原子力規制委員会のモデルになった組織ですよね。福島事故の後に出来た。
 
(相田)
日本の方は、技術の話はそっちのけで、電力会社や研究機関のアラ探ししてるようにしか思えないけどね。
 
田中委員長が「もんじゅの運営組織として原子力機構はふさわしくない」とか偉そうに言ってたけど、アンタが原研(今の原子力機構の前身の組織)の所長だったくせに、今更何言ってるんだ、と私は呆れたよ。
 
自分が所長だった組織にダメ出ししたりして、昔の自分の管理責任を責めてるだけじゃん、アホかこのオッサン、とか思ったけどね。
 
(質問者)
はいはい、わかりました。
 
田中委員長のあの発言には裏の事情があるみたいですけどね。
 
話がそれたので戻しますが、NRCは06年に一度AP1000の設計認可を出してるんですよね。
 
それで安心したWECが、発電所の建設を受注した後から、いやもう一度設計認証をやり直そう、ってNRCから待ったが掛かったということですね。
 
WECからすると、受注した後から言わなくても、てな感じで、同情の余地もありそうですね。
 
(相田)
仕方ないからWECも言われるまま、粛々と設計を直したみたいだけど、工事が遅れた分は、赤字になって跳ね返って来るんだよね。
 
それでCOLが出た1年後に、正式な工事が始まって基礎のコンクリートを大量に流し込むことになる。
 
ただしこの時点でスケジュールは14ケ月の遅れに広がっている(Wikipediaによる)。2
 
009年の夏から、NRCから安全と許された範囲の工事を少しずつやってたみたいだけど、焼け石に水だったようだ。
 
ようやく正式工事に入れたものの、2015年10月になると完成予定の遅れは、当初予定の3年後まで更に増えていたんだ。
 
〔完成予定時期の遅れ(2015年10月時点)〕
ボーグル3号 2016(当初予定) → 2019(6月)
ボーグル4号 2017(当初予定) → 2020(6月)
VCサマー2号 2016(当初予定) → 2019(8月)
VCサマー3号 2018(当初予定) → 2020(8月)
 
(質問者)
やればやるほど完成予定日が伸びてゆくんですね‥‥。
 
それと、新聞の記事とかに、福島原発事故の影響でNRCが規制を強化したことが、工事着工が遅れた原因だと、盛んに書いてますが、そうなんですか?
 
(相田)
毎日新聞なんかが、福島事故のせいでAP1000の工事が更に遅れた、とか書いてるので、私もそうかなと考えたんだけど、2011年の11月にNRCは最終設計を承認してるんだよね。
 
震災から2年くらい遅れてたら影響あるかな、と思えるけど、年内に設計認証が出てるということは、福島はあまり関係なかったんじゃないか、という気がするな。
 
詳しくはわからないけど。
 
(質問者)
何でも福島事故のせいにしたがる、いつもの左翼バイアスが働いてるんでしょうかね、マスコミの皆さん方。

5、赤字が膨らむ訳
 
(質問者)
正式工事の開始時点で遅れが14ケ月だったのが、それから2年工事を続けた後で更に3年の遅れになるということは、工事がよっぽど下手だったんでしょうか?
 
(相田)
そう言わざるを得ないだろうな。
 
NRCの認証の遅れよりも工事の不手際の方が、遅れへの影響が大きいんじゃないか。
 
そもそも発電所の建設工事の方は、WECだけではなくて、建設工事の専門会社を別に連れて来て、協力して対応しているんだ。
 
コンソーシアムというんだけど、今回の工事でWECとコンソーシアムを組んだのが、ストーン&ウェブスター(S&W)という会社だ。
 
(質問者)
出ましたね。問題の核心が。
 
(相田)
実はS&Wはショーという建設会社の子会社で、ショーが後ろでS&Wをフォローしながら建設を進める仕組みだった。
 
ショーという会社は東芝がWECを買収した時に、株の20%を一緒に買ったんだよね。
 
知ってると思うけど。WECとS&Wがコンソーシアムを組んで、東芝とショーがそれをバックアップするという体制だった。
 
08年に4基のプラントを受注した時にはね。
 
(質問者)
でもさっきの時系列では、12年にショーは持っているWECの株を東芝に売っちゃったんですよね、ストックオプションとかいう約束で。
 
(相田)
そうなんだ。時系列で見てもわかるけど、どうもショーの対応が腰が引けている感じなんだな。
 
もともとショーの創業は1987で、最初はちっちゃな配管屋だったのが買収を繰り返しながら成長して、2000年に老舗のエンジニアリング会社のS&Wを買収したことで知名度を上げたらしい。
 
S&Wの方が実績は遥かに上だったのが、原発建設が下火になって経営破綻した処を上手くショーが買収したみたいだ。
 
だから、ショーそのものは原発の建設をやった経験は無かったんだよね。
 
ブルームバーグの記事によると、NRCの検査官の中にもショーの施工技術に疑いを持つ人がいたらしい。
 
検査官がWECの工場を視察した際に、ショーによる格納容器の据付が悪く、300トンの鋼材が落下しそうになっていたり、溶接が不適切だったのを見つけて、州政府に報告している。
 
そもそも震災があったとはいえ、COLが出る以前の2011年9月に、ショーは持株を東芝に買い取るように要請してるんだよな。
 
当時の東芝の佐々木社長が、この段階でどういうことだ、と激怒したらしけど、怒る気持ちはわかるな。
 
福島事故が起こる前に、自分の会社の技術だと、とても完成までおぼつかないと覚悟してたんじゃないか、ショーは。
 
(質問者)
東芝が組んだ相手が悪すぎたと。他に何ともならなかったんでしょうか?
 
(相田)
東電があんなじゃ無かったら、アドバイスもらったり、東電系列の施工会社の連中を大勢アメリカに連れて行ったりとか、協力が得られたかもしれないけど 、そんな状況じゃないしな。
 
東電と東芝のタッグは強力だから、いざという時の助けになる筈だったのが‥‥東芝には間が悪すぎるとしか、言いようがないな。
 
それで、色々あったんだろうけど、正式な工事が始まる前の2012年の9月に、今度はショーがシカゴ・ブリッジ&アイアン(CB&I)という、別の大手の建設会社に買収されてしまい、ほぼ同時期に、WECの持株20%を東芝にオプションで売却するんだよね。
 
CB&Iの意向かもしれないけど、今度は全く遠慮がない。
 
工事が始まる前にショーは白旗あげたようなものだよね。
 
(質問者)
この頃には、日本でも東芝の不正経理の問題が騒がれ出しましたよね。
 
東芝も現地の状況まで、きちんと目が行き届かなかったように思えますね。
 
(相田)
こんな感じんで、正式工場が始まった後でも、日本でもアメリカ現地でもゴタゴタしている中で時間が過ぎて、2015年の12月に、WECがS&Wをショーの親会社になったCB&Iから買収する。
 
建設工程の遅れによる赤字を、施工側と電力会社のどちらが被るか、訴訟合戦になりつつあったのを、東芝が嫌がり電力会社側の要望を飲んだ、とか言われているが、詳しい事情は不明だ。
 
コンソーシアムの相手そのものを買収する訳だから、これからは事実上WECだけで原発4基の建設責任を負うことになる。
 
ところがこの時の契約の中に、電力会社側の「固定価格オプション」という「爆弾」があるのをWECが見逃してしまったのが、決定的だったんだな。
 
ここでCB&Iという会社とショーとの関係なども、詳しい話が全くわからない。
 
相当に凄いことが隠れていそうだけど、これからの東芝の説明を待つしかない。
 
ここから東芝も、現地の作業効率を上げようと、日本から原発建設の経験者達を指導員でアメリカに送ったり、色々やったようだ。
 
だけども、あまりスピードが上がらない。
 
S&W任せだと埒があかないと思ったのか、新たにフルアーという会社に建設担当を替えて、費用を再見積もりさせていたところ、去年の10月にフルアーから出てきた金額が、何と7000億円の追加費用だったという。
 
(質問者)
なんか、俄かには信じられない展開ですよね。
 
東芝がアタフタしてる間に、アメリカ側が密かに作戦を立てながら、罠に堕ちるのを待ち構えていたような感じがします。
 
WEC側にも裏切り者とかいそうですよね、憶測ですけど。
 
(相田)
わからない事が多すぎるけど、何があってもおかしくないと思えるよね。

6.モジュール構造の弱点
 
(相田)
ついでにいうと、施工会社だけではなく、AP1000の設計自体にも工事が遅れる原因があったらしい。
 
それがどうも、ウォール・ストリート・ジャーナルやフィナンシャル・タイムズ等のアメリカの記事によると、モジュール構造のせいらしい。
 
(質問者)
あのコスト削減の切り札になる筈だった、モジュール構造ですか?
 
(相田)
そうだ。どういう事かというと、今回は4基のAP1000を同時に作るため、モジュールを4個まとめて工場で作ることになる。
 
ところが同じモジュール4個が完成した後で、不具合がある事がわかったらしいんだ。
 
そうするとモジュール4個を全部修理する必要が出てくる。
 
修理出来ればまだいいが、部品を溶接でガチガチに付けてたりしたら、修理も効かなくて、モジュール4個を全部作り直す事もあり得るよね。
 
これまでの作り方だと、1個の部品を交換して済む話が、モジュール構造では4倍以上の手間ひまがかかってしまうことが、実際に作り始めてから、ようやくわかったみたいなんだ。
 
(質問者)
確かに、言われてみればその通りですけど、何だか間抜けですよね。
 
(相田)
結局モジュール構造というのはもろ刃の剣で、ある程度製品を作った実績がないと、使ってはいけない技術だったんだね。
 
完全に設計図面と作り方が決まってしまった後なら、ドンドン行けるけど、今回みたいな初物の場合は、想定外の不具合とかも出てくる訳で、逆にコストばかりが増えてしまう。
 
やっぱり、最初から原発4基をまとめて作るのは、無理があったんだ。
 
まずは少々赤字が出ても 、まずは1台だけきちんと作ってみて、技術的な問題を洗い出すべきだったと思う。
 
そうしたら、ショーの技術が使い物にならなくても、ダメージが小さくて済んだ筈だよね。

7.日本はこの失敗を生かせ
 
(質問者)
こうなる前に東芝はどうすれば良かったんでしょうか?
 
(相田)
さっきも言ったように、最初からAP1000を4基も作らずに、まずは受注を1つだけにして、きちんと完成させるべきだったと思う。
 
そしたら赤字の額も単純にいうと1/4で済むから、半導体とか医療機器とかの稼ぎ頭を売却しなくても、東芝は何とかなったんじゃない?
 
建設相手としてショーがヘタレで使えないのも、早めにわかるしさ。
 
それで問題点を色々とあぶりだして、解決策を打った後なら、受注数を増やしても大丈夫だよね。
 
極めてハッピーな結末だよ。
 
でも、最初に6000億円でWECを買収してしまい、数千億円の「のれん」を背負っちゃった。
 
なので、初っぱなから華々しく受注を増やさないと、「のれん」を損失として計上しなければならなくなる。
 
それを東芝は怖れたんだろう。
 
ただし技術的な方法としては邪道だったということだよね。
 
技術は正直だよ。
 
(質問者)
今回の事件の全体について、相田さんはどう思います?
 
(相田)
まだわからない事が多いんだけど、経済事件としては、21世紀前半の歴史に残る出来事だと思える。
 
東芝が倒産すると決まった訳ではないけど、以前の山一証券や長銀の倒産の時よりも、展開があまりにもドラマチック過ぎるよね。
 
でもこうなるのは、当たり前といえばそれまでだよな。
 
新型の原発を試作機も作らずに、いきなり実機に持って行けば、トラブルが色々起きるのは、当然想定すべきだよ。
 
だから、今回の失敗は実に貴重な、有益な経験とデータが取れたと、前向きに考えるべきだと思うよ、つらいけどさ。
 
(質問者)
でも、東芝の普通の社員の人達は、とてもそんな風には達観できないんじゃないですか?
 
結局のところは、東芝がアメリカにいいようにやられて、金を奪われた、という事で終わるんでしょうか?
 
(相田)
事実としては そうだけど、見方を換えれば、日本のお金を使って最新型の原発4基をアメリカにプレゼントした、とも言えるよね。
 
安倍総理がこの間トランプとゴルフをしながら約束したみたいだけど、アメリカのインフラ事業に日本は全面的に協力するんだろ?
 
そのお金を、貴重な日本の年金資金を使う前に、東芝のお金で前払いしましたよ、と言う訳さ。
 
現地の建設業者達も色々経験させたし、次はもう少し上手くやれますよ、とか付け加えてもいいだろ?
 
東芝の赤字だろうが何だろうが、日本の金をアメリカのインフラ建設に使ったのは事実さ。
 
これから安倍がトランプと交渉する時の、貴重なカードの一つにはなるよね。
 
交渉の仕方にもよるけど。
 
その意味では、東芝と日本政府は4基のAP1000を責任を持って、きちんと完成させるべきだと思う。
 
今更WECを破産申請するべきだ、との意見も出てるみたいだけど、そしたらアメリカの電力会社が、待ってましたと契約不履行で裁判を起こして、大金を巻き上げられて終わりだよ。
 
今更契約を覆すのは不可能だし、原発も作りかけのままでほったらかしで、怨みだけが残されて最悪だ。
 
半導体とかその他のまだまだ使える技術や人材は、会社の名前が変わってもまだまだやれる、と前向きに考えるべきだ。それしかない。
 
次に総理がアメリカに行くときは、世耕経済産業大臣と、名前は知らないけど外務大臣と3 人連れて、向こうはトランプとイヴァンカとその旦那の3人が出て来て、みんなで今度はカジノで遊びながら、東芝を差し出すから頼むよ、とか、安倍が念押しして来ればいいんじゃないか?
 
掛ける金は公費はマズイから、自分持ちで百万円までとかさ?
 
(質問者)
オチがそれですか‥‥‥
 
+++++++++++++++++++++++++++++++++
 
2月25日 
相田英男 拝

 

 

東芝問題を揉消す人間が送り込まれる

 

東芝に見るもはや利用価値の亡くなった日本