東芝に見るもはや利用価値の亡くなった日本 2-1 | きなこのブログ

きなこのブログ

大失業時代が到来しています。大失業の恐ろしさを歴史から学ばなければならない。『大失業は戦争への道につながっている』

日本を明るい未来へ…

「1960」相田英男氏の緊急寄稿「東芝=ウェスティングハウス問題」について対話形式で理解する。2017年3月15日
http://www.snsi.jp/tops/kouhou/1957
 
国会では稲田朋美・防衛大臣と森友学園の籠池泰典(かごいけやすのり)理事長との関係が注目を集めています。
 
この件は、先日、「今日ぼやき」でも登場いただいた、ノンフィクション作家の菅野完(すがのたもつ)が、驚くべき取材を行っています。
 
命をかけた取材に敬意を払いたいと思います。
 
この森友学園問題が起きていなければ、現在の最大日本国内の最大の問題になっていたはずの問題が、東芝の経営危機問題です。
 
今回、学問道場に過去何度も「原子力発電問題」について、専門的な立場から寄稿頂いた、相田英男(あいだひでお)にご解説をいただきました。
 
東芝の経営難の問題は、アメリカの原発メーカーのウェスティングハウス東芝が傘下に収めたことが発端です。
 
子会社であるはずのウェスティングハウスが東芝の足を引っ張っています。
 
この問題は、麻生太郎副首相とマイク・ペンス副大統領との日米経済協議でも議題になりそうです。
 
その前にこの問題を理解しておきましょう。
 
======

皆さんこんにちは。相田英男です。
東芝の問題については、いろいろと報道が沸騰しつつありますが、会計や契約の話と技術の話が錯綜してややこしい状況です。
 
今回、技術的な話について私がざっと調べた範囲ですが、状況についてまとめました。
 
今回の件では私も頭にきているので、普通の論考の形にすると途中で暴走して内容が発散しそうだったので、対話形式にしてみました。
 
短時間でまとめた割には、あっさりと読みやすいかなと思います。
 
来月半ばに東芝から、正式な発表があるようですが、それまでのご参考になればと思います。

+++++++++++++++++++++++++++++++++
 
題目:安倍総理よ、東芝の赤字をインフラ輸出の第1弾とし、トランプに恩を売れ   相田英男
 
1.ウェスティングハウスって何?
 
(質問者)
今日は巷の話題になっている、東芝がアメリカで建設している新型原発の赤字の問題について、相田さんに話を聞きます。
 
相田さん、最初に伺いますが、ウェスティングハウスとは、一体どのような会社なのですか。
 
総合電気メーカーの代表のGE(ゼネラル・エレクトリック社)のライバルとか言われる割には、イギリスや日本の会社にホイホイ売られていくみたいですが?
 
(相田)
ウェスティングハウスは、時代によって会社の形態が全く変わっています。
 
設立当初の20世紀始めから1970年代にかけては、アメリカを代表する総合電気メーカーでした。
 
GEのライバルだったのがこの時代です。
 
日本とも縁が深く、三菱重工と三菱電気の両方に技術を教えていたのが、ウェスティングハウスなのです。
 
三菱グループの先生がウェスティングハウスといえます。
 
しかし70年代半ばから収益が低下したため、メーカーから放送メディア業界への移転などを模索するうちに、事業を次々と売却することとなり、80年代半ばに総合企業では無くなってしまいました。
 
今のどこかの会社みたいですね(笑)。
 
同時期にGEではジャック・ウェルチという天才経営者が現れて、業績を飛躍的に伸ばしたのとは対照的です。
 
 今では会社がバラバラになり、ウェスティングハウスという名前の付く、事業の異なる会社が幾つもあるため、区別がややこしいです。
 
東芝が買収したのは原子力技術を開発する会社で、ウェスティングハウス・エレクトリック・カンパニーと言います。
 
私は今までWHと略していましたが、正式な略称はWECだそうです。
 
三菱重工ではW社と呼ぶそうです。
 
ちなみに、軍用(空母)の原子炉の製造とメンテナンスをやるウェスティングハウスは、別会社で、ノースロップ・グラマンの傘下にあるみたいです。
 
東芝のWECは民間原子力専門です。
 
東芝に買われる前は、イギリスの核燃料会社(BNFL)というところが買収していました。
 
(質問者)
そのWECという会社は、具体的にどんな仕事をやっているのですか?
 
(相田)
ホームページで見たところでは、原子炉の開発以外に、原発ので使う様々な部品、ポンプとか安全装置とかの新たな開発や、原子炉を制御するシステムやソフトウエア等、大変手広くやってみたいです。
 
原発以外にも放射線を扱う装置や技術ならば、何でも対応できるようですね。
 
ただし、原発を丸ごと作ったり、たくさんの製品を大量に売りさばくのではなく、ユーザー毎に製品の内容を細かくカスタマイズして、部品は他社から買って組み合わせて売るといった、一品物の商売が主体のように思います。
 
普通の物作りメーカーではないですね。
 
どちらかといえば、コンサル(相談)が主体の、例えばグーグルに近い商売なのではないでしょうか。
 
(質問者)
グーグルですか?ちょっと違う気もするのですが‥‥。
 
いずれにしてもWECって余りパッとした会社でないみたいですが、東芝が何千億円も払って買う価値があったのですか?
 
(相田)
6千億円も出すべきかはわかりませんが、それなりの価値はあったと考えられています。
 
簡単に言えばブランド料です。
 
何じゃそれは、とい思われるかももしれませんが、WECは軽水炉の産みの親(の末裔)であり、原子炉に関する知識とノウハウの蓄積が尋常ではありません。
 
アメリカではPWR(加圧水型軽水炉)の設計仕様や、ASME(アメリカ機械学会)による圧力容器規格等の、軽水炉に関する詳細な技術書類が作成、公開されて、世界中の会社や技術者達が参考にしていますが、これらの基礎となるデータを、実験等で決定したのがウェスティングハウスです。
 
その際の膨大なデータが、非公開のノウハウまで含めて、全てアーカイブとしてWECに引継がれています。
 
その「知識」の価値が非常に高いと考えられています。
 
(質問者)
要するに頭が良いから素晴らしいと?
 
(相田)
単に知識だけではないのです。
 
スリーマイル島原発事故の後、80年代以降ではアメリカの原発の建設はストップしたのですが、WECはその後も新規な技術を組み合わせた改良型の軽水炉の開発を、政府予算の補助等を受けながら地道に継続していたのです。
 
それがAP600というもので、1992年にアメリカの原子力規制委員会(NRC)から型式が承認され、1998年にNRCから最終設計承認(FDA)を取得しました。
 
要するに政府から「図面上はきちんとした軽水炉ができた、安全ですよ」、と認められたということです。
 
WECは更に、電気出力を600メガワットから1000メガワットに増加したAP1000の開発も実施して、2006年にFDAを取得しました。
 
ちょうど東芝がWECを買収した時期ですね。
 
このAP1000という原子炉は安全性も高く、軽水炉の弱点だった電源が失われた際のメルトダウンが起きないとWECが主張したので、非常に注目されていました。
 
日本や中国のコピー原子炉でなくて、本家本元のWECの技術者達が、20年の時間を掛けて熟成させた原子炉のため「それは素晴らしいだろう、ぜひ使いたい」、という国や電力会社が大勢現れたのです。

2.AP1000の特徴とは?
 
(質問者)
そのAP1000とは、どのような装置なんですか。
 
(相田)
AP1000というのは、最新型の第3世代プラス型と呼ばれる原発の一つです。
 
第3世代プラス炉とは、さっきも言いましたが、電源が無くなっても福島第1原発のようなメルトダウンが起きない、受動的安全性(静的安全性ともいう)を持っている原子炉です。
 
スリーマイル島原発事故より前に作られた原発が第2世代型で、80年代以降に開発されて作られたのが第3世代型です。
 
日本のABWR(改良型沸騰水炉)とか、韓国で開発されたSystem80+というPWRが第3世代型ですが、これらは電源が落ちてポンプが止まるとメルトダウンしてしまいます。
 
この性質を能動的安全性(動的安全性)と言います。
 
人間がポンプを動かさないと事故が防げません、という意味ですね。
 
第3世代プラス炉になると、ほっといても何事も無く止まります、という話です。
 
どうやって受動的安全性を実現するかですが、色々あるみたいですけど、AP1000では建屋の上部に大量の水を溜めておいて、いざ電源が止まっても、バルブが機械的に開いて冷却水が自動的に下に落ちてくるように工夫してるそうです。
 
冷却は72時間は連続するのでその間に炉心を安全状態まで冷やすことが出来る、と言ってます。
 
コロンブスの玉というか、当たり前そうでも、なるほど、と思いますよね。
 
ちなみにAP1000と同じ第3世代プラス型の原子炉に、ヨーロッパで開発されたEPR(欧州型加圧水型原子炉)というのがありますよね?
 
こちらも当然ながら、受動的安全性を持っているのですか、EPRの圧力容器の下には穴が開けてあって、炉心が溶けた際の燃料が穴に落ちて安全に閉じ込められるという、コアキャッチャーという構造が作られているのですね。
 
第3世代プラス型とはいえ、EPRではメルトダウンするかもしれないと、想定してる訳です。
 
しかしAP1000にはコアキャッチャーはありません。
 
何があっても絶対に燃料が溶けない、と自信を持っているのです、WECは。
 
何ともすごいですね。
 
元祖の意地でしょうかね。
 
(質問者)
確かに性能は高そうですが、そうすると、作るのもお金がかかるのではないですか?
 
(相田)
それがWECは、従来の原発よりもAP1000は安く作れる、と言っていたのです。
 
根拠をいくつか上げてますが、一つはAP1000はこれまでの原発よりも部品の数が大幅に少ないから材料費が安い、ということです。
 
どれくらいの物量が減らせるかなんですが、東芝が前に発表した資料によると、安全系バルブが50%,、安全系配管が80%、ポンプが30%、ケーブルが80%、建屋体積が45% も、以前よりも減らせるというのです。
 
本当だとすればすごいですよね。
 
にわかに信じられませんが、WECの設計技術をもってすればこれ位出来る、ということなんでしょう。
 
そして、もう一つのコストの削減方法は、モジュール構造の採用です。
 
(質問者)
何ですか、それ?
 
(相田)
今まで原発を作る時には、部品を別々に現場に持って行って、現場で組み合わせたり溶接したりしてたのが、AP1000の場合は違うんです。
 
今回は、工場の中である程度の一まとまりの部品を事前に組み立てた物、これをモジュールと言うらしいけど、モジュールにしてから現場まで運ぶみたいです。
 
そして、モジュールをブロック細工を積むように置いてから、ブロックの間だけを現地で溶接したりして、原発にするらしい。
 
私も見た訳じゃ無いから詳しくはわからないけど。
 
昔は家を建てる時には、基礎の上に大工さんが柱をたくさん立ててから、柱を繋いで、壁を付けて、とか、何日もかけてやってたよね。
 
でも最近では、基礎をコンクリートで固めた後で、トラックに一つ部屋を大きな箱みたいに載せて、何回か運んで来て、箱を積むだけで1日で家ができちゃったりしたのを、見ないかい?
 
多分、あんな感じで作るんだと思うんだけど。
 
(質問者)
いや?、自分の家はタワマンて訳じゃないけど、都会の大きめのマンションの中なんで、一軒家を建ててる処とか、最近見たこと無いんですよね。
 
でも、相田さんの言いたいことは、何となくわかりますよ。
 
(相田)
‥‥そりゃ良かったね。とにかく、最初に工場の中である程度の部品でモジュールを作ってから、現地に持って行くことが大事みたいだよ。
 
(質問者)
でも、わざわざそんな事する理由とかありますか?工場でも現地でも、組み立てる手間は結局同じでしょう?
 
(相田)
それがさ、今回のAP1000の建設では、2箇所のサイトで2基ずつ、合計で4基の原子炉を並行して作るんだ。
 
そのサイトの場所も割と近いんだよ。
 
そうすると、サイトの中間地点くらいに組立工場を作っておくと‥‥
 
(質問者)
ああ、わかりました。4基の原子炉があるなら、同じモジュールを4個まとめて同時にその工場で作ってしまうんですね。場所も同じで作業員も同じだから、違う現場でいちいち組み立るよりは‥‥
 
(相田)
組立作業の手間は大幅に省けるよね。一度に多くの原子炉を作る時には‥‥
 
(質問者)
モジュール構造の真価が出ますよね。う~ん、頭いいですよね、これ考えた人。これならコストが減りますよね。
 
(相田)
当然モジュールにするには、事前に部品のレイアウトをよく考えておかなくてはならないし、レイアウトにこだわりすぎて、組み立た後で原子炉がちゃんと動かなかったらこれまた大変だから、バランスを考えた高度な原子炉の設計技術が必要だよね。
 
流石は元祖PWRだけの事はある。
 
とにかく私が最初に、東芝がまとめたAP1000の解説資料を読んだ時には、凄い、と圧倒された記憶があるよ。
 
今でも下のサイトでパワポの資料が読めるけど、こんな資料を使ったプレゼンは、非の打ち所がない完璧な内容だと思うよ。
 
今までとは次元の違う原発だと誰もが信じるだろう。
www.jsm.or.jp/branch/news/H26/pdf/Westinghouse.pdf
 
(質問者)
確かに、東芝が買収した当時は、選択と集中の勝利、とか、三菱重工が逃した魚は大きかった、とか、東芝を褒める記事をやたらとニュース記事で見かけた記憶が、僕もあります。
 
それが、何でこんなことになっちゃったんでしょうか。
 
(相田)
全くだよな‥‥。

3.AP1000の最重要部品を作った会社とは?
 
(質問者)
ところで、AP1000の部品は何処で作ってるんですか?WECは原子炉は作れないんですよね?全部東芝なんですか?
 
(相田)
部品ごとに違っていて、中心の炉内構造物はWECが担当して作るらしい。
 
WECもある程度の物は作れるし、信頼できる他のメーカーに外注とかするんだろう。
 
それを覆う圧力容器(Pressure Vessel)の製造は、我らが日本製鋼所室蘭工場の担当だ。
 
その外側の原子炉格納容器を作ったのは、石川島播磨重工(IHI)だ。
 
IHIは東芝が原発を作る時の機器製造を、毎回サポートすることで知られているよね。
 
東芝の担当は原子炉本体以外の、蒸気タービンと発電機が今回は主らしい。
 
東芝はPWRの製造経験がないから、最初は見て勉強するんだろうね。
 
(質問者)
東芝とIHIと日本製鋼所ですか。そろって三井系列の会社ですよね。
 
WECの原子炉を作るのに、三井グループが勢ぞろいするとは、何とも皮肉ですよね。
 
その結果が思い切りズッコケるとは‥‥三菱はどう思うでしょうかね?
 
(相田)
悔しさと、ザマーミロが、合わさってるんじゃないか。
 
(質問者)
やっぱりそう思います?それはそうと、PWRといえば、BWRには付いていない蒸気発生器(steam generater, SG)は、どこの会社が作ったのですか?東芝もIHIもBWRの製造経験しかないから、SGは作れないですよね?
 
(相田)
いい質問だ。そのヒントはAP1000の構造を見ればわかるよ。
 
AP1000の構造図にはSGが2個しかないだろう?でもWECが開発したオリジナルのPWRには、SGが4基以上ある筈だ。
 
三菱重工の原子炉がそうだろう?
 
(質問者)
確かにAP1000のSGは2個だけですね、それも普通より大きめのが。そうすると、これはWECの技術ではないと?
 
(相田)
PWR原発のオリジナルはWECだけど、アメリカには他にもPWRを作っていた会社があったよね。
 
一つはバブコック&ウィルコックス、あのスリーマイル島原発を作った会社で有名な。
 
そしてもう一つのPWRのメーカーが‥‥
 
(質問者)
コンバッション・エンジニアリング(CE)です。
 
確か韓国のSystem80+が、CEの技術を元にしてるんですよね。
 
そういえばCE製のSGはWEC製よりも大きいと聞きました。
 
三菱重工がアメリカの原発修理でトラブったのが、作った経験が無いCE製の大型SGの修理をやったせいだ、と記事で見ました。
 
じゃあ、AP1000のSGはCEの技術だと‥‥
 
(相田)
その通り。構造図の端に、CEの技術を活用したと小さく書かれている。
 
色々あってCEもWECに吸収されてしまったんだよね、以前に。
 
AP1000のコストを下げるために、SGを大型化して部品点数を減らしたみたいだ。
 
(質問者)
待って下さい。CEはもうとっくに無くなってますから、そのSGを作れる会社といったら、日本でもアメリカでもなく、もしかして‥‥
 
(相田)
そう、韓国の斗山(ドゥーサン)だ。
 
韓国の三菱重工と言われている重工メーカーだ。
 
SGの素材のパイプ(インコネルというニッケル合金)は住友金属が作ってるけどね。
 
(質問者)
ああ、とうとう韓国までAP1000に加わってるんですよね。
 
確かに三菱重工がいなかったら、あとは韓国しかないですよね。
 
アレバとシーメンスには流石に頼れないし‥‥