多極化(米覇権崩壊) | きなこのブログ

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冷戦後の時代の終わり
http://tanakanews.com/150113market.htm

冷戦後の25年続いてきた「グローバリゼーションの時代」が終わりそうだと指摘する記事を、最近FT紙が載せた。

政治の民主主義と経済の市場主義という、冷戦後の時代を支えてきた2つの理念が揺らいでいる。

それらに加えて(2つの理念に支えられてきた)米国の覇権(パワー)が揺らいでいるため、冷戦後の一つの時代が終わりそうだという。

以下、FTの記事の筋に私なりの解釈を加えて説明していく。

冷戦の枠組みは「民主主義政治体制、市場経済」の西側と「権威主義政治体制(一党独裁)、計画経済」の東側との対立だったが、1989年のソ連崩壊で東側が消失し、米欧が持っていた民主主義と市場経済が、世界を主導する唯一の理念となり、世界中の民主化と市場経済化を目標とする米国の単独覇権体制が形成された。

米国覇権が、露骨に世界を「支配」すると人々に嫌われるが、そこに世界を民主化・市場化することで人々の幸福を増進する(世界を「改革」する)という構想(演技)を付与すると、人々に支持されやすい。

世界の民主化と市場化は、冷戦後の米国覇権の理念となった。

冷戦後の米国は、覇権を保持するだけでなく、覇権を改革運動として規定した(何でも政治運動にするところが米国的だ)。
 
米ワシントンDCのIMF世銀、米財務省などが世界市場化を推進する主導役になり、彼らが決定した世界市場化のやり方(経済覇権行使の枠組み)が「ワシントン・コンセンサス」と呼ばれるようになった。

しかし彼らは、90年代に中南米や東南アジア、東欧などで起きた金融危機への対応において、厳しい緊縮財政や民営化(国有利権を格安で米欧投資家に売ること)を強要した。

世界から賞賛されるはずのワシントンコンセンサスは、米国の強欲主義として世界から嫌悪される概念になった。
 
金融危機自体がコンセンサスの影の部隊である投資銀行やヘッジファンドによる為替先物売り放ちによって引き起こされたもので、ワシントンコンセンサスは、米国が世界を市場化したうえで金融危機を起こし、民営化を強要して資産を買いたたく収奪の構図(市場原理主義)とみなされた。

挙げ句の果てにその後、米国自身が債券金融バブルの崩壊をリーマンショックとして引き起こした。

米国が作った市場経済の理念自体が、バブルの膨張と崩壊を引き起こす欠陥を持つとみなされるに至った。

一方、冷戦後の米覇権運動の政治面である「世界民主化」は、90年代にコソボ独立天安門事件後の中国制裁などで試みられた後、01年の911事件後、中東に対する「軍事による独裁政権の転覆」「強制民主化」として一気に拡大し、アフガニスタンやイラクへの米軍侵攻として具現化した。

しかしこの展開もまた、イラク占領の泥沼化、シリアやリビアの内戦化、大量難民、中東全体の長期の情勢不安定、貧困化などを引き起こし大失敗に終わっている。

イランに対する核兵器開発の非難は濡れ衣であることが暴露されているし、コソボやウクライナ、グルジアなどでも、米国の民主化介入は地域を不安定化するマイナス面が大きい

冷戦後の米覇権戦略は、経済面も政治面も、賞賛されるはずのものが稚拙な運営の結果、嫌悪されるものに変質した。

FTの記事によると、米国覇権に対する政治面の信用失墜の最大の象徴はイラク戦争だという。

この点を読んで私が感じたのは

「これから世界的に、CIAの拷問報告書で発表された罪状に沿って、チェイニー米元副大統領やブレア英元首相ら、イラクに大量破壊兵器の濡れ衣を着せて侵攻して占領・拷問・殺戮した米英の人道上の罪が、国際的な法廷や世論で裁かれることが計画されているのでないか」

ということだ。

今年は、イラク侵攻をめぐる米英の罪が蒸し返されそうだ。

これは米国の国際信用をさらに落とし、米国覇権を衰退させ、まさに冷戦後の一つの時代を終わらせかねない。

FTのようなマスコミが示唆する内容は、米英中枢で画策されている方向性を示すことがある。

FTはプロパガンダも多いが、隠されている覇権動向を探れるので重宝する(英国のガーディアンやインデペンデントなども同様だ。米国ではWSJが時々この手の示唆をする。NYタイムスやワシントンポストは期待できない)

とはいえ、FTなどが示唆するのは大体「上の句」だけで、より本質的な「下の句」はない。

今回紹介した記事でも、米国覇権が衰退した後の世界について何も示唆していない。

「米国の理念の信頼回復への道は遠い」などとぼかした結語になっている。

私の記事の目的は海外記事の紹介でない。

海外記事を、示唆やプロパガンダ性も含めて深読みし、そこから私が考察したことを書くのが目的だ。

記事のあり方も覇権動向の一つだ。

私が今回のFTの記事を読んでまず考えたのは、米国が冷戦後の覇権運営で失敗した理由についてだ。

すでに書いたように、ワシントンコンセンサスの運営は非常に稚拙で、意図的に過激にやって失敗させる未必の故意的な自滅策でないかと疑われる。

米国勢が過剰な策で市場を破壊したのは「強欲」だったからという「解説」をよく見るが、真に強欲な人は(英国勢のように)もっと巧妙だ。

米国勢は、市場主義が米国覇権の大黒柱の一つであるがゆえに、それを壊して覇権の転換を図ったというのが私の見方だ。

リーマン危機も、なぜリーマンブラサーズを倒産に追い込み、AIGやベアスターンズが破綻するのを米当局が黙認したのか、なぜ金融機関どうしの「共食い」を容認したのか疑問がある。

その後の損失補填を米連銀のQEがすべて背負い込み、二度と金利を上げられない現状を誘発したのも愚策だ。

債券バブルに対する管理や、崩壊への対処方法がひどい。

政治面でも、イラクに大量破壊兵器は存在せず、米国のネオコンの捏造だと事前に英マスコミなどで報じられ半ば暴露していたのに、大量破壊兵器を口実に侵攻したイラク戦争に象徴されるように、米政府のやり方には未必の故意的な自滅策が多い。

シリアのアサド敵視も、ウクライナ問題の誘発も、米政府の策は最初から、米国自身の国際信用の失墜につながりそうなやり方をしている。

なぜ米国がこっそり意図的に(もしくは未必の故意的に)稚拙で自滅的な好戦策をやるのかというのは、イラク侵攻時からの私の疑問だった。

その後のイラン核問題、シリア、リビア、パレスチナ、エジプト革命、グルジア、ウクライナ、北朝鮮問題、中国包囲網、リーマン危機、QE1-3、オバマケア、シェール革命、地球温暖化対策など、米国の戦略の多くに、濡れ衣や意図的な事実誤認、抜け穴のある制裁体制、好戦的で短絡的な対応など、未必の故意的な失策の兆候がある。

多くの場合、当初は米マスコミが戦略の成功を疑わない記事を流す点も共通している。

これらの全体を見て私は、米国の中枢に、自国の覇権を意図的に自滅させようとしている勢力がいると疑っている。

米国の覇権が衰退するほど、中国やロシア、BRICSの影響力(地域覇権の集合体)が拡大するので、米中枢にはこっそり世界を多極型の覇権体制に転換したい「隠れ多極主義者」がいるのだろう、というのが私の結論だ。

米単独覇権体制 と 多極体制 との相克の裏に「帝国と資本の対立」があるのでないかと私は推測している。

帝国と資本の対立の構図から見ると、第二次大戦で英国から米国に覇権が譲渡されるとともに、米国は単独覇権体制でなく 「ヤルタ体制」 や 「国連安保理常任理事国」 に象徴される、米英仏と中ソが対等な関係で談合して世界を運営する多極型の世界体制を構築した。

この時点で、米国中枢では多極主義者(資本の論理)が優勢だったことになる。

しかしその後、英国主導でソ連敵視の冷戦が画策され、米英仏と中ソが恒久対立する冷戦構造に転換し、多極派は破れた。

冷戦体制の構築は「(世界中の経済発展を誘発したい)資本」に対する「(米英覇権を維持したい)帝国」の勝利だった。

「帝国」の側は、日独や韓国、ASEANなど、西側諸国の高度経済成長させて「資本」の側を満足させようとした。

しかし80年代から西側は成熟化が始まり、資本の側は、ベトナム戦争での意図的な敗北を米中関係回復につなげ、まず中国に改革開放を始めさせて経済成長に結びつけた。

冷戦体制は中国の部分からほころびだした。

さらに、85年にソ連でゴルバチョフが登場し、冷戦を終わらせた。

冷戦を終わらせた主導者はソ連で、西側は対応しただけだ。

ソ連の中枢には、米国と和解して冷戦を終わらせたい勢力と、それに反対する勢力がいた。

ソ連経済の衰退とともに対米和解派が強くなり、若手のゴルバチョフが共産党書記長になると同時にソ連は対米和解に動き出し、米ソ首脳会談が始まり、89年の冷戦終結につながった。

85年3月のゴルビーの就任とともに米国も冷戦終結の準備を開始し、同年9月には、日独が米国覇権を経済面で補佐することを決めたプラザ合意が締結され、米国(米英)主導の経済政策の協調体制であるG7が公式に動き出した(それまで非公式で動いていた)。

冷戦後、事前の米ソの約束どおり、ロシアがG7に加盟してG8ができた。

西側で冷戦体制の維持を主導していたのは、軍産複合体と英国で、軍産・英複合体が当時の「帝国」の中心だった。

冷戦終結に際し、英国は85年の「金融ビッグバン」を開始して自国の強さの支えを「金融」に転換し、軍産複合体を見捨てた。

米国も85年から金融自由化を開始した。

いずれも債券やデリバティブの規制を大幅に緩和して債券金融システムを拡大する策だ。

覇権運営の中心を「軍事」から「金融」に転換することで、冷戦構造は必要なくなった。

企業の成長の可能性など仮想的(詐欺的)なものを含む「資産」を債券化してお金に換えることで無限に価値を生み出す債券金融システムが、新たな覇権の力の中心になった。

市場は自由だが、債券の価値を決める格付け機関、債券発行の世話をする投資銀行など、価値創造の仕掛けの根幹は米英が握っていた。

こうした巧妙な仕掛けは、冷戦後の米国のワシントンコンセンサスやネオコンなど粗野で自滅的なやり方と対照的だ。

冷戦後の覇権は、立案者と運営者が違う勢力だ。

歴史を振り返ると、第二次大戦で米国が英国から覇権を譲渡された当初に作られたブレトンウッズ体制などの仕掛けも、用意周到で巧妙だった。

対照的に米国の覇権運営は、冷戦後だけでなく第二次大戦後も、20年後の財政破綻(金ドル交換停止)につながるような大盤振る舞いが目立ち、ベトナム戦争やキューバとの対立などの軍事策も稚拙だった。

米国覇権の仕掛けは、第二次大戦時も冷戦終結時も、英国系の勢力が作ったので巧妙だったと考えられる。

英国は、ソ連の提案で起きた冷戦終結という転機を逆手にとり、金融主導の新たな覇権体制を米国に提案して受け入れられ、冷戦終結とともに覇権を軍事から金融主導に転換させ、引き続き英国が米国覇権の黒幕に位置するとともに、金融の儲けを国家運営の原資にすることを可能にしたのだろう。

米国覇権の運営をめぐって、米国勢は、自分たちだけで覇権の運営方法を決定する単独覇権型を好む(それで無茶苦茶やって失敗させる)。

一方「覇権OB」である英国勢は、米国を補佐するためと称して国際協調体制を作り、協調体制の運営を隠然と英国が握ることで、米国でなく英国が覇権の黒幕として機能しようとする。

85年にG7が世界経済の政策決定機関として公式化されたのは、すでに予定されていた冷戦終結の後の覇権運営を国際協調体制にすることで、英国が覇権の黒幕としての影響力を拡大する策と考えられる。

国際協調体制でも、ヤルタ体制やG20など、米英の言うことに何でも従うわけでないロシアや中国を含んだ協調体制は、英国や軍産など「帝国」の側が好むものでない。

特に今のG20は、ベースが米英欧日を外したBRICSなので特にそうだ。

冷戦後の米覇権体制は、軍事でなく金融の金儲けが中心で、その点では資本の側も満足できたはずだ。

しかし、米国の実際の覇権運営は未必の故意的に下手くそで、25年かけて覇権体制を自滅させていった。

これは、英国が作った冷戦後の覇権体制に米国の資本の側が満足していなかったことを示している。

儲かるのに満足できなかった理由は、金融覇権体制下で「帝国」の側が、米国(米英)に従わずに台頭(経済発展)しそうな国々(中国やイスラム諸国など)を、投機筋による先物市場攻撃など「金融兵器」の発動で潰すとか、人権侵害を理由に経済制裁するといった、帝国的な行動ができてしまうからだろう。

帝国的な行動を許すと、その被害に遭った地域の経済成長が削がれ、資本の論理に抵触する。

帝国と資本の対立は、帝国の側が潜在力のある諸外国の発展(台頭)を嫌う半面、資本の側はまさにそのような潜在力のある諸外国に投資して発展させたいと考えることに起因している。

ネオコン(強制民主化主義者)やワシントンコンセンサスなど、冷戦後の米覇権運営を担当した勢力は、経済制裁や金融兵器を駆使しつつも、それを過剰にやって失敗させることで、経済制裁(民主化推進)や金融兵器(市場主義)の仕掛け自体を壊し、冷戦後の米国覇権を崩壊に導いている。

FTが米国覇権の衰退を指摘する記事を出す少し前の昨年12月中旬、米国シカゴで行われた貿易をめぐる米中の定例会議で演説した中国の汪洋副首相が「中国と米国は、世界経済におけるパートナーであるが、米国の方が世界の体制や規制を作ってきた主導役であり、中国はその体制に加盟して(米国製の)規制を守っていきたい」と述べた。

これは意味深長な発言だ。

中国は、政治面で民主主義を採りたがらないが、経済面は米覇権の大黒柱だった市場主義を大胆に採り入れて経済大国になった。

米国自身が、米連銀のQEなど市場の機能を自滅させる愚策を続け、日本もQEの愚策を拡大し、EUまでがQEを検討し、G7諸国が経済政策で自滅するなかで、以前の常識からすると意外なことに、中国などBRICS諸国の方が、市場経済主義の正統な運営役になりつつある。

中国当局はここ数年で財政金融の運営技能を大幅に向上させている。

多極化(米覇権崩壊)は、米国が作った市場のシステムの終焉でなく、市場システム運営の主導役が米国から中国など新興諸国(G20)の手に移ることを意味している。