東京地裁知的財産部の統計 | 知財弁護士の本棚

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企業法務を専門とする弁護士です(登録30年目)。特に、知的財産法と国際取引法(英文契約書)を得意としています。

ルネス総合法律事務所 弁護士 木村耕太郎

 清水節「統計数字等に基づく東京地裁知財部の実情について」(判例タイムズ1324号52頁)を読んだ。


 平成21年に東京地裁知財部で事件が終了した267件について、「判決のうち半数弱が原告勝訴の結果となる」が、特許権関係に限定すると、平成20年、平成21年において「原告勝訴の判決は3割強」とのこと。


 「和解で終了する事件の半数以上が、本来、原告が勝訴判決を受けられた事件であり、これに原告勝訴の認容判決を加えた実質的な原告勝訴の割合は、・・・5割前後とかなり高率である。」「実質的な原告勝訴の割合」は年々高くなっており「予想外の結果」であるが「技術的範囲の解釈や進歩性の考え方などを、意図的に原告有利に変更したわけではない」。


 これは、よく読むと知的財産事件全般のことであり、特許関係に限った「実質的な原告勝訴の割合」は不明である。しかし文脈からすると「3割強」より高く「5割前後」より低いわけだから、4割くらいか。


 特許無効の抗弁が容易に認められる傾向により特許権者が訴訟提起を手控えていると言う見方については、「統計の数字上は根拠を欠く」としている。この点は、異論もあろう。


 また、仮処分事件について、本案と比較して「実務上、特許権侵害事件が少なく、著作権侵害事件や商標権侵害事件が多いと思われる。」とのこと。たしかに、最近は特許侵害事件で仮処分をするメリットが少ないように思われ、依頼者にも勧めないことが多い。


 審理のスピードについて、特許事件は技術的に複雑であり本来は時間がかかるはずであるのに、専門に通じた代理人が付くことが多いので、著作権事件や不正競争防止法事件などを含めた知財全体よりも「迅速かつ円滑に進行する場合が多い」のが感想だという。逆に言うと、著作権事件や不正競争防止法事件などであっても、本来は専門に通じた代理人に付いてもらいたいが、実際にはそうでないことも多いので、迅速かつ円滑に進行しない場合が多いという意味になる。