本稿は文字通り、農林水産省(当時)の目玉とも言える事業で水産(林)業に関する
幅広く港湾施設や設備に及び、予算は国50%、県15~20%、市町村10~15%の補助金が交付され地元(本稿では漁協)負担僅か15~20%の負担で事業が実施される。
 
 国の補助事業であり実施は全て競争入札が原則、設計監理も同様手続きを伴う。 国から県への「会計検査院」検査は、当然専門知識の私共が説明責任を負う。 
 
 主に漁船建造に係り設計・施工監理を行ったが、基本 漁業協同組合(当時)からの要請に依るものだが、県や市町村の水産課からの声かけが殆ど、福岡市水産課「魚さい処理場」現況調査・基本計画の縁で指名頂き、 しかし形式的な入札会。
 
 19トン型のFRP製「鮮魚運搬船」、設計作業は其相応に馴れていたが、公共事業
では原価見積もりの「設計書」つまり積算金額が全ての如くに扱われる。常に会計検査を意識し書類等は検査直前にシナリオに添い、数字合せ順序付けは不思議。
 
 それら事業は既に漁協と役場で予算決定済、実務は予算枠内に嵌め込む作業。 
県・市町村・漁協・設計者間で真剣な書類のヤリトリは、事業の本旨以上に重要視、民間の商いとは全く別の世界、従って事業予算は実質手続関係で脹らむ。    
 
  「設計書」作成では通常「積算資料」に基くが、土木・建築用で該当部分は少なく
三社見積りが必要だが、材料・船用品は複雑で岸壁・店内・造船所・顧客度の軽重等、複雑な価格体系を有しそれら入手には、時に非常手段を用い困難を極めた。
                    
 一方FRP造船所は、代々船大工の家柄で地元漁師相手に漁船を造っていた匠。 木造船時代からFRP船へと移行は未だ10数年の歴史乍ら、夫々に自負が有り漁法や海域の特性にも精通。 計算された設計には一様に疑念・疑問を持っている。 
彼等の職人気質と、小型FRP船は造船所以上に経験少なく当初から上から目線。
 
 又 FRP船は建造に当り船体成型用型枠が必要で応札の業者(造船所)は自信の船型、型枠を所有が普通。 従って作成の「設計図」「設計書」は全て修正が伴う。
入札は最低3社でガチの勝負、 建設業界の様に機会は少なく地元の面子を掛けた
戦いとでも。 
 
 事務所には各機関・電装品メーカーが仕様書に盛込むべく働きかけと、予算規模を探る動きが活発に行われる。 秘密厳守は当然だが不思議と洩れる。 漁協とは会長・理事・参事や関係組合員との打合せの上、仕様内容を決定されるが。 資料は全て関係各所に配布されるので、 板挟みに立往生も再々は後味が悪い。 
 
 落札の造船所には、着工式・型枠検査・使用材料・作業状態・竣工式等々で監理に向うが、大概役所や漁協関係者同道。 多勢が押掛け事後、慰労の一杯が振舞われる。 問題箇所打合せや現場との詳細摺合わせに追われるが、これら事業は雑事・雑務が多く建造の本質以外に追われ、次第に馴れて其れが仕事と割切る。
 
 
  「会計検査」立会い
 「会計検査」は県が対象、県庁担当部署では、ほぼ1ヶ月(?)は準備に追われる。
従って我々も追加資料作成や詳細の打合せと共に「模擬検査」の質疑に至っては
最早劇団のセリフを覚えるが如き緊張感を憶える。

「検査官」は国の機関乍ら不偏不党「裁判所」と「検察」を兼ねた様な権限は絶対的存在。 検査は前日から現地待機、検査対象は数箇所合わせ行われ、その動静は、質問内容の詳細や人柄まで刻々情報、検査官も得て不得手が有るらしい。

現地(場)調査は場合により工事を伴い現場要員や関係者多数が控えゾロゾロ。
 
 検査会場は講堂、検査官机の前に県・私(真ん前真ん中)・漁協組合長が対面。
資料は各事業の書類が山積み、その書類には数多くの付箋が付けており確認事項は既に事前調査が伺え、緊張の度合いは最高に達する。 後方には観客とも思える他の事業関係者含め数十人が固唾を飲み息を殺して見守っており、まるで
裁判を受けている被告。 尤も私は専門の分野、質問に窮する事無く無事だった。 
当日数時間の遅れにヤキモキ、他の現場では床のコンクリートを剥し基礎の鉄筋
の施工が問題になったらしい。事前提出の工程写真に不信を抱き指示されたとか。
              
 晴れて会計検査、無事通過の実績は我々の想像以上「錦の御旗」となり各県
各地から重宝され指導的立場で継続。 農林水産省・本省にも届き東北まで及ぶ。
   
 しかし私の経験は30数年前の事、当時の公共工事の無理・無駄な作業の数々を目にし体験は現在改善が為されているのか心配になる。 目的とは懸離れた視点と作業は等しく能率に於いて民間企業の自助努力の姿からは想像を超えていた。
国民や市民の大切な税金を「金貨玉条」に非効率が罷り通る不思議の世界。
手続き優先、書類が国家かと問いたくなる。
 
 例えば担当事業の内建造に係る資料は僅か5㎝程度だが「会計検査官」に提出の書類は30cmを越えていた。 斯くも皆さん庁内で摂せと励まれたのだろうと想像。
私には為にする作業にしか思考が及ばない、公共事業の影の部分に思える。
現在PC活用で、相応の合理化はされてる筈だがお役人気質、匠の域に達したか。
 
 追伸 当初福岡県で本事業は始まったが、 此れまで述べた一件は各県等しく
一様な経験。  しかし地元贔屓を差し引いても当該事業は国内先陣を切り、実績はその後各地に及び皆懸命だった事は明記しておきたい。

 

      次回 ※⑥ 密漁監視高速艇 (炭素繊維:CFRP製)