或る時、下関の林兼造船所局長から電話を頂いた、造船所名は承知するものの、
其れまでに仕事上も関係無く、突然とも言える仕事依頼の件。 設計室は古い学校校舎の広い教室の様な雰囲気。 設計スタッフは100数十人以上か、 圧倒され遠くは霞んだ?如くに見える。 何れもベテランの集団、門外漢の私には気が重かった。
ロイドより私を紹介されての事らしい、 4万トンのオア・キャリヤー(鉱石運搬船)の構造応力解析と設計。 ロイドパス適用で、ロイド船級も始めての事とか。 局長、課長、係長お揃いでの挨拶と打合せ。 課長は福岡造船で世話になったFさんと長崎造船大学で同級生とか少し緊張が解れる。 既に必要図面、スペック(仕様書)も準備一通り説明を頂く。 流石に船はデカイ、 しかしロイドパス(英文)は私も初めて目にする小冊子。
数ページめくり目にした所、主に直接応力計算に依る構造設計の際規定の書。
既に応力レベルでの設計はL.R.やA.B.で10数隻経験済み、最早ルーチンワークとも言えるレベル。 しかし国内造船所は外国船と応力レベルでの設計は当時殆ど未経験で珍しくなかった。 飛行機設計と「盲蛇に怖じず」「石橋は叩かず渡る」が幸いした。
当然スパコン使用に付いて百万単位の計算料、驚かれたが恐らく通常ルール計算と比較して数百~千トン単位の減トンは見込める。 鋼材と現場加工費当時60万円/トンで充分過ぎる利益を取戻せる額だが。 設計予算の話は現場サイドと経理若しくは財務上の処理で済む事。 概略予算の見積もりに説明と説得が伴う、金の話は不得手で毎度苦労するが、私に営業の才無くは常々自己嫌悪に陥る。
ローディング・コンディション(積載要領)から荷重の算定。 8区画に分けられた船艙は満載でも鉱石の積込みは1区画交互に積載、空艙には船底と両サイド・バラストタンクに海水注入は以外だった。 しかも空艙の浮力の突き上げが最大負荷。
積載の艙内は鉱石と海水圧で相殺され船体への負荷が軽減され応力的に低い。
以外な結果にアレッと思ったが斯様なケースは侭あり、計算する上で面白い。
想定のモデルは隔壁を中心に前後艙内の中央までとし、海水圧力はヒール(横傾斜)を加味した数値設定。 船側船底共に積分比による荷重分布を配分。
従って計算の結果、船底部(二重底)は船艙の前後左右ともフロアー(肋板)やガーダー(縦通材)の板厚が細切れの如く細分化された結果となった。
幸い当造船所は、鋼材カット(切断)は工場設備含み自動化が進んでおり為しえた。
スパコンでの計算は数値と共に撓みに依る変形が俯瞰図で出力されるので、外力と共に負荷の模様が良く解り、詳細な対応の判断が可能となる。
結果は造船所の期待以上の成果に、局長自らお礼に見えた事に尽きる。
その後、関門航路浚渫の定格650トンのグラブ浚渫船の強度計算も委託される。