当時ドイツ最古(創業1927)にして最大のメーカー、 ポッペンハウゼン集落の外れ、 道路からの眺めは数棟の工場が隣接して建っている木造平屋の工場建築。 
矢張り突然の訪問、尤も連絡しようにもTelするほど独語を話せるわけが無く、が正直な所。 
 
 いきなり設計室兼社長室に招じられた。 例によりごっついオッサンが社長のルドルフ・カイザー(前田師と似た風貌だが・・・)、と若手のゲルハルト・ワイベル二人で談笑中。 社長は製図板に半分腰をかけパンを噛り乍らの立ち話。 世界的ベストセラー Ka-6(単座), -7(複座)機等の生みの親。 ワイベルはカイザー亡き後ASWシリーズを引継いだ(後年知る)、世界的なお二人。 だが当時は知るよしも無い、ただ社長は前田航研の軍用グライダー「ク-1」双胴の兵員輸送用と「ク-10」パイロット訓練用ソアラーをご存知には驚きと感激。 
 戦時中ドイツのロケット機「Me163」を軍で「秋水」として試作、 前田航研で乗員訓練用グライダー「秋草」として生産、 斯様に当時は情報を交わしてた時代。
 
 明るいヤンキーの如き両人にほっとする。 ワイベルが工場を案内、 まず主翼工場。
手前は例の木製リブ造り、作業は私も経験済だが2M四方の作業台に女性4人が互いに向き合い、細々と冗談でも交わしての作業。 その先では主翼の桁と前縁リブにベニアを張付け(Dボックスを形成)矢張りリブ毎に薄いバネ板らしきもので締めている。  面白いのは均等に圧力を架ける様接触面は雪駄の如く木で曲率に合わせ高さを変化させた工夫に成る程。 接着剤の違いも有るが押え木で押え釘を1本づつ慎重にクギ打ちつけ、且つ袋に為らぬ様最大限の注意を必要とした難儀な作業が。 彼我の相違とギャップをマザマザと見せつけられられた。
 
 何でもない様で苦労した者のみぞ知る、 随所に散見は驚きと感嘆に終始。
同社は木製羽布張り主翼と鋼管羽布張り胴体が主流、 その胴体の製作現場では
手も体もデッカイおっさんが胴体治具を回転させながら1本づつパイプをガス溶接。
薄肉の鋼管溶接は細かい神経的な作業だけに黙々と、 しかし熱歪みは避けられない。 組上がった胴体を修正の為ガスで再度過熱の上、 局部に木を当て、思いっ切りハンマーで振り下ろしている、 瞬間ゾーッ壊さんばかりの事態?に凍りつく。
かくして胴体が次々何でも無いように7~8機分整然と出来上がっているが。
 
 ひと通り案内頂き再び社長室へ、 改めて見学の模様等でコーヒーを飲みながら質問や雑談している時、 ワイベルが突然社長が眠ってるからと社長にウインク社長ニヤニヤと笑っている。 コン(ム)メンジービッテ(来なさい)と工場裏の片隅にレンガ造りの小屋とでも30坪位いか、 中に入ってビックリ仰天「AS-12」の試作開発現場。
 
 T字尾翼のFRP製、 胴体と一体の異次元とも思えるスマートな機体に慄然、瞬間鳥肌が立った。 バルサコアにFRPをオーバーレイし、 磨きを入れ仕上がっているが内装や塗装前、 内部もジックリと見られた。 私のセキスイへの期待はこれだった。
 
 50年後の今、「ASW」シリーズは元より、 世界最先端の機体もほぼ同様スタイル。
主翼は翼端のウイングとオープンクラスではより長スパンで高アスペクト比になっているが、 私はその原型機をしかも開発中を眼にした、つまり目撃者なのだ!!!
 
 新時代の夜明けを直接目にし触れて、 反面絶望の思いが心奥に突き刺さる。
 
 ドイツでは一見何でも無い様な物が、実はその裏に途方も無い経験とワザが繰み込まれている。 ドアノブがその例、殆んど部屋のドアに使われており、全国隈無くか?アルミ製頑丈で無骨なL字型に過ぎない、手触りは滞在中手に馴染んできた。
 
 一見しただけで直ぐに可能性が見えてくる、 がしかしそれを実行するととんでもない事に陥る、 私の心に刺さったトゲが、 つまりぃ~その・・・ 言葉にし難く。  
 
 帰り際、 ワイベルが図面が入ってる引出しから1枚手渡してくれた、 「AS-12 」
の三面図だ、 思いっきりダンケシェーン!!  ビッテビッテと笑顔の御両人。
狭い室内で感じた現物以上に、 実機の想像を掻き立てて呉れる。
今回最高のお土産と成ったのは云うまでもなく、 後ろ髪を曳かれる思いで帰途。
    因みに同社のH.P. http://www.alexander-schleicher.de/
    TOPページの各機体のプロフィールは私が見た「AS-12] 原型機その侭。
 
 以上、 記憶を辿りつつ書き綴っているが、 深夜でも有りまるで先程の出来事の様に当時のシーンが蘇る。 何かが乗り移ったかの如く不思議な世界に嵌って。
余程の濃密な体験が当時にワープし動かされてるのか、 延々と思い出が。
昨日、何を食べたのか暫く時間が罹る昨日今日、 数年前古希を過ぎた今。
 
 折角の機会でもあり、 翌日近くのグライダーのメッカ「ワッサークッペ」へ
 
    次回 ⑱-2 ワッサークツペ 散策