永遠にOnline
~第1幕~
「やあ、おはよう」
「おはよう、あなた」
「調子はどうだい?」
「あら、そんなこと聞くのおかしいわね。何時も元気よ」
「ははは、違いないな。いやおまえさん、腰痛持ちだからさ」
「そんなのもう平気よ。とっくにわかってるでしょう?それより、もうご飯は食べたの?」
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いつもと変わらない、愛する人とのやり取り。取り留めのない会話を一通りした後、真一郎は支度をはじめる。そろそろ出勤の時間だ。
職場へと向かういつもの道を歩いていると、声が聞こえてくる。
「ねえ、いつもより歩くのが遅いみたいね。疲れてる?」
「いや、新しく買った靴がまだ馴染んでなくてね、かかとが痛むんだ」
「ふうん、そう。今日も仕事頑張ってね」
こんな何気ないやり取りが続いてどの位経つだろうか。そう、妻の麗美がこの世を去ってから来月でちょうど3年になるが、彼女が「肉体を持っていた」時と変わらずこの様なやり取りが続いている。
時は2080年。インターネット世界は発展の末に、物質世界における死後、ある一定の金額を払えば、脳の情報を全てそのままアップロード出来、消去されない限りは永遠に人類はオンライン上で生き続けられる様になった。大体普通の人生を歩んで来た人間で容量にして約10万テラバイト、非常に多くの経験を積み、脳を酷使し続けた人間では稀に100万テラバイトもの容量になるが、肉体が消滅した後も電脳世界で存続出来ることとなった。
当然、肉体が無いのだから「電脳世界」ではガン等の身体を蝕む病気にもならず、死への恐怖ももはや無い。そして、「この世」に住む人間たちにとっても、宗教上どうしても受け容れられない人々を除いては、
「肉体が消滅した後も意識が存続し、生き続けることが出来、『この世』で死んでも『終わり』では無いんだ!」
という認識が広まり、以前程、肉体の死というものは恐ろしい概念ではなくなった。同時に、病気になったとしても治療もせず、昔ならば治療費に費やしていた分を自身の脳アップロード代に回す人々が増えた。その結果、救急医療や身体を繋ぎ合わせる等といった一部の医療以外の医療行為はこの世から姿を消した。
そして信じられない話だが、この世を去る時の会話も、
「じゃあ、いってらっしゃい」
「いってくるね。また後でね」(死を迎える人物が会話可能な場合)
というのがごく普通となった。その様になると、もはや葬式も激減し、逆にパーティが行われる様になった。
70年程前から人類は1日の内の多大な時間を電脳世界でのやり取りに費やす様になり、その活動割合も、次第に肉体の刺激や感覚があまり必要とされない部分が増えてきた。つまるところ、幸か不幸か、肉体があっても、その恩恵を受けられる様な活動をせずに電脳世界でのやり取りに費やす人間が増えたのである。
それから時が経ち、肉体への執着もあまり無くなった人類にとって、脳をアップロードして電脳世界で生き続けられるということは申し分の無い恩恵となってきているのだ。
かれこれ3年続けてきたこの電脳世界に住みはじめた妻との平和なやり取りが、これからもずっと続くのだと真一郎は疑いもしなかった、そう、あの時までは・・・
(続く)