メリクリ | スイーツな日々(ホアキン)

スイーツな日々(ホアキン)

大好きなスイーツと甘い考えに彩られた日々をつづっていきたいと思います。

今日はクリスマスイブ。

 

恒例のフィクションです。

 

お時間がありましたら、どうぞ。

 

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ママは、いや、母は今夜も夜勤だ。

僕も日曜日だけど、塾に行ってきた。

帰宅した時には、母はもう出勤していた。

「メリークリスマス!

受験まであと1年とちょっと。

大変だろうけど、ガンバッテ」

そんなメッセージを書いた紙が食卓に置かれていた。

夕食は温めれば済むように用意してあった。

僕が小学校に入学した直後、

父は交通事故に遭って亡くなった。

専業主婦だった母は

2人の生活を守るため、薬剤師として職場に復帰した。

そして今年からは、病院で夜間勤務もするようになった。

「お手当てが違うらしいよ」

祖母がそう教えてくれた。

僕は今年の2月から塾に通うようになった。

中学受験の2年前。

父と同じ医師になることを希望する母は

以前から塾通いを勧めていたが

僕は好きなサッカーの練習に打ち込みたかった。

だから、塾に行くのを嫌がっていた。

しかし、チームの仲間がプレー中に大けがを負い

入院した彼を見舞いに行った病院で

キビキビとした動作と笑顔で患者を診てまわる医師の姿を見て

スポーツドクターになりたいと思うようになった。

「塾に行きたい」

母に告げると、大喜びし

さらに「将来はお医者さんになりたい」というと

飛び跳ねて喜んだ。

母が夜勤をためらわなくなったのは

中学高校の学費だけでなく

私大の医学部でも進学できるようにと思ったかららしい。

父の交通事故の補償金はあったが、

それには手を付けず、とにかく自分で頑張ろうとしている母の姿は

眩し過ぎた。

 

 

まだ40歳にもならない母は若々しい。

白衣姿は、きっと男性から見れば魅力的だろう。

「僕はママの再婚には反対しないよ」

そんな風に言うと

「あら、ママはモテモテなのよ。

1人の男性に尽くす気はないわ」

とはぐらかされる。

内心は

「お付き合いしている人がいるの」と

打ち明けられないか、冷や冷やしているのだ。

母の薄化粧が変わらないことを祈っている。

それが僕の本音だ。

 

さあ、ご飯も食べ終わった。

何年も前から、サンタがいないことを知っていた僕は

「25日の朝にプレゼントを用意しなくていいから」と母に伝え

事前に買ってもらうようにした。

今年も昨日、母と一緒に買い物に行き

最近、凝り始めた将棋の盤を買ってもらった。

「不思議ね、パパも好きだったのよ」

笑顔で僕に話しかけてきた。

今夜、ケーキはない。

僕の提案で、25日にコンビニで売れ残ったケーキを買うようになった。

イブでなくても、母と一緒にケーキを食べられれば

十分嬉しいのだ。

 

さ、勉強しようかな。

そうだ、母の、ママの好きなBOAの「メリクリ」を

YouTubeで聴こう。

歌詞は男女の話だけれど

相手を思う内容は

母を大切に思う僕と同じだなと感じるようになった。

 

「寒いけど、元気に仕事をしているかな」

 

僕の頭の中には

医師になった僕が

母に処方箋を渡し、薬を調合してもらう、

そんな場面があった。

 

あ、スマホに着信。

塾に通うようになってからスマホを買ってもらっていた。

LINEのトークには

「メリクリ」の言葉と

サンタの帽子をかぶった母の写真があった。

「入院患者さんのために簡単なクリパをしたのよ」

だって。

「子どもを放っておいて、クリパってなんだよ」

と返信すると

「ごめんごめん、明日、ケーキ食べよ」

「うん、楽しみに待ってる。今、メリクリ、聞こうとしてた」

「そうなんだ。ママも聞くね」

「じゃ、一緒にクリパだね」

「うん、勉強もガンバッテ」

 

このやりとりの時間が

僕には最高のクリスマスプレゼントだった。

 

 

 

好きなクリスマスソング、

思い出のクリスマスソングは

ありますか?