新神戸の別れ | スイーツな日々(ホアキン)

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「やあ」

「行くのね」

「うん」


転勤する彼が新神戸駅で私を見つけ、話しかけてきた。




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「また、単身なの?」

「仕方ないさ」

「大変ね」
「福岡は大都会だ。単身赴任で一番人気だって言うし。不便なこともないさ」

「美人も多いらしいし」

「君以上の美人にはそうはお目にかかれないよ」


こんな言葉を耳元でささやかれ、酔いしれたこともあった。

思い出が次々と脳裏を駆け巡る。


彼に出会ったのは1年半ほど前。

神戸で社会人生活のスタートを切った私は、大阪で開かれたイベントに応援要員としてかり出された。

リーダー格で指示を与える彼の姿は素敵だった。

年の差も気にならなかった。

「アドレスを教えて」

イベントが終わった時に、同時で話しかけ、二人で大笑いしたっけ。


東京にご家族を残し、大阪勤務をしていた彼。

私にも遠距離恋愛の相手がいたのに、彼と付き合うようになるまで、時間はかからなかった。

同じ職場ではないから、同時に休暇をとっても怪しまれる心配はない。

ただ、一緒にいられるのを見かけられるのは、具合が悪い。

デートは彼が借りたレンタカーを使い、もっぱらドライブとなった。

琵琶湖、京都、奈良、淡路…いろいろな場所に行った。


特に城崎温泉は思い出深い。

外湯めぐりをしながら、私は思いきりはしゃいでいた。


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温泉宿の一室で、彼の腕の中にいる時、「これでいいのかな」とも思った。

先の見えない恋は辛い。切ない。

たとえ自分で選んだ道であっても。


ある日。

神戸大丸の地下で買ったツマガリ の焼き菓子を持って、江坂の彼のマンションを訪ねてみた。

「近くまで来ているのよ」

「何だって?仕方ないな」

1LDKの部屋は意外に片付いていた。

「奥様がいらしたの?」

「来るわけないだろ。子供の受験にかかりっきりなんだから。前にも言ったとおり、引っ越しの時だけさ」

「そう。寂しいわね」

「悪いけど、お茶を飲んだら帰ってくれないか。まとめなくちゃいけない書類があるんだ」

「ごめんなさい。突然来たりして」

「また来月、デートしよう。あ、お湯が沸いた」


コーヒーを淹れるため背を向けた彼。

テーブルの下に落ちていた長い髪を拾った私は、小さなため息をもらした。

「この艶やかでカールした髪は…」

大阪で彼のアシスタントをしている女性の顔が浮かんできた。


「それにしても、どうして新神戸にいるの?」

「君に会えるかもしれないと思って途中下車したんだよ。出発の日は大阪にいる君の同期の奴が教えてくれた」

「まぁ、そうなの」

「自由席に乗っていけばいいわけだし」

「神戸の最後にあなたに会えて良かったわ」

「同時に転勤とはね」

「たった2年で東京本社勤務になるとは思わなかった」

「君はトップで入社したらしいからな。当然だよ」

「あなたも東京に戻りたかったんじゃないの?」

「人事は自分の自由にできないからね」

冷静な口調だが、残念で仕方ないに違いない。

「それはそうよね」

「東京には会議で行くことがある。君に会う機会もあるよ」

ご家族がいる東京で、私に会うつもりかしら。

まだ、懲りてないのね。


大阪にいる私の同期の男性は口が軽い。

梅田で一緒に飲んだ時、「彼とアシスタントの仲が怪しいんじゃないの」と言ってみた。

口止めしたけど、その話を誰に伝えたかは分からない。

ただ、彼の福岡への異動が決まった時、「アシスタントとのことが本社に伝わったらしいよ」とメールで連絡してきた。

「秘密の恋愛」に自信を持っている彼は、異動にからんでそんな噂が広まっているとは知らないだろう。


「そろそろじゃないの?」

「え?あ、本当だわ」

「ホームは反対側だね」

「元気でね」

「君も」


エスカレーターを上ると、先にホームに出ていた彼が私の方を見て手を振っていた。

まるで、デートを終えた時にサヨナラをするように。

とっくに気持ちを整理していたはずなのに。

どうしてだろう。

涙があふれてきそう。

列車がホームに滑り込み、彼の姿が視界から消えた時、こらえきれずに涙が一筋、頬を伝うのが分かった。



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