卒業~真珠の涙 | スイーツな日々(ホアキン)

スイーツな日々(ホアキン)

大好きなスイーツと甘い考えに彩られた日々をつづっていきたいと思います。

春は別れの季節?出会いの季節? ブログネタ:春は別れの季節?出会いの季節? 参加中


もう4年が過ぎたなんて。
信じられない。
早いわ。

入学式がつい昨日のことみたいなのに。
卒業式の後、母には先に帰ってもらった。
西区に自宅があるお友達の家に泊めてもらって。
一生分くらい話し続けたわ。
だって、もうそんなに逢えないんだもの。

彼女は神戸で就職する。
私は故郷の松山に帰る。
そこで、父が経営している小さな会社を手伝うの。
大学に行くときから決まっていたこと。
楽しい4年間だったし、後悔はないわ。
一つだけを除いて。

彼と知り合ったのは3年生の春。
バイト先の居酒屋だった。
「へ~、学生なの?勉強しなくていいのかよ」
笑うと垂れ気味の目。
あの時も、口調とは違って、ほほ笑んでくれたわ。
そう、あの目で恋に落ちたのね。

昼間は運送業、夜は居酒屋。
働き続ける彼には、私の周囲の男の子にはないたくましさがあった。
「俺は出来が悪いから、高校を卒業するのが精いっぱいだったけどさ、弟は違うんだ」
去年、新型インフルエンザが最初に見つかった進学校。
弟さんは今、2年で、成績もすごく優秀らしい。
「悪いけど、同じ国立でもキミの大学よりも上に行くからな」
弟さんのことになると、とても力が入るみたい。
お父様はもう亡くなり、パートをしているお母様と3人家族。
彼の腕に家族の生活がかかっているみたいだった。

二人のデートは、彼が休みの時に、映画を見たり、買い物をする程度。
遠くに行ったこともない。
「大型の免許を早くとらなくちゃな」
これが彼の口癖だった。
彼が語る未来は、免許のことと弟さんのことだけ。
私は入ってこない。
寂しかった。

「何ていうんだっけ。シューカツ?あれはやらないの?」
「私、卒業したら松山に戻るのよ」
「そうなんだ」
初めて二人だけの夜を過ごした時、こんな会話を交わした。
それっきり、彼は私に触れようとはしなくなった。

なぜ?
嫌いになったの?

そんな想いが心の中をぐるぐる回る。
でも、相変わらず、普通のデートはしていた。
いつも笑顔の二人。
別れが決まっているのに。

「そっか、卒業式はポーアイでやるのか」
「じゃ、神戸コレクションの場所だな」
「楽しかったよね、あの時」
「ああ、チケットをくれた店長に感謝しないとな」
チケットを買ったのは私。
でも、それならきっと彼は一緒に行ってくれない。
店長に頼んで、そうしてもらったんだった。
あの時、「嫌な奴」とどこかで自分を蔑んだわ。
「親族でもないし、卒業式には行けないけどさ、おめでとう」
「ありがとう」
「はい」
「何これ?」
「ホワイトデーとお祝いの両方。安物で悪いけど」
「開けていい?」
「もちろん」
「わ~、素敵」
真珠のペンダント。
「ルミナリエの時にさ、居留地の真珠会館 に店が出るんだ」
「知ってるわ」
「あの時に買っておいたんだ」
「嬉しい」
「この真珠のように、いつまでも純粋で綺麗なキミでいてくれよ」
「うん、頑張る」
二人で分けたモロゾフのチョコがほろ苦かった。

スイーツな日々(ホアキン)

ホワイトデーからまだ2週間足らずか。
あの日が、あの時間があったなんて信じられない。

あ、松山行きのバス、乗車開始ね。
このバスセンターに来るのも最後かな。
せっかくだから窓際に座ろうっと。
あまり、混んでないし、バッグは座席でいいわよね。

「隣、空いてますか」
あ、寝てたんだ。
今は舞子ね。
このバスは座席予約制のはずだけど。
「ええ。…ええっ?どうしたの」
「口開けて寝てたぞ」
「もう…。そんなこといいから、どうしたのよ」
「ごめんな。いろいろあって、三宮には間に合わなかったんだ」
「それはいいけど。じゃなくて、どうしてバスに乗っているの?」
「弟にな、叱られたよ」
「え?」
「僕の学費の心配はしないでくれって」
「まあ」
「あいつは『家庭教師をやれるようになったら、兄貴の給料分ぐらい稼げるよ』なんて言いやがって」
「うん」
「だから、好きな人を手放すなって」
「…」
「母ちゃんもさ、真面目な仕事ぶりが評価されて正社員になれることになったんだ」
「すごいわね」
「だけど」
「何?」
「松山も仕事があまりねーだろ」
「そうね」
「今まで言わなかったけど」
「ええ」
「俺も中学までは弟と成績は同じくらいだったんだ」
「ま~」
「いまさら、大学に行くつもりはないけど、やってみたい仕事があるんだ」
「きっと人のためになる仕事ね」
「当たり!消防士」
「いいわね」
「神戸市役所で震災15年のパネルを見たろ?」
「うん。いろんな意味ですごかった」
「あれを見て、こんな仕事をしたいって思ったわけ。だから、頑張って試験勉強してみるよ。消防士でも市役所でも。難しいだろうけどな」
「松山に来てくれるの?」
「駄目かい?」
「そんなことないわ」
「すぐには無理だけど。きょうはキミのご両親に、挨拶をしたいんだ」
「え?」
「交際を認めてもらえるように、ね。学歴が違うって怒られるかな」
「父の驚く顔が目に浮かぶわ。頑張って」
「振り向いてごらん」
「ああ…」

神戸の街が遠くに見える。
この人との思い出の街。
バスに乗る前に予想した通り、涙でにじんで見えない。
今は、うれし涙で。


スイーツな日々(ホアキン)
画像はお借りしました。