「海に帰る日」ジョン・バンヴィル著・・・★★★☆
最愛の妻を失った老美術史家マックス・モーデンは、記憶に引き寄せられるように、小さな海辺の町へと向かう。遠い夏の日、双子の弟とともに海に消えた少女。謎めいた死の記憶は、亡き妻の思い出と重なり合い、彼を翻弄する。荒々しく美しい、あの海のように―。各国の作家に激賞されるアイルランド随一の文章家が綴った、繊細で幻惑的なレクイエム。
現代アイルランド作家による、2005年ブッカー賞受賞作品。
2005年のブッカー賞は、カズオ・イシグロが「日の名残り」(1989年に受賞)「わたしたちが孤児だったころ」(2000年最終候補作品)に続いて3度目となる「わたしを離さないで」も最終候補作品に選出されたが、本作はそれを抑えての受賞である。
それ故に期待して読み始めたものの、、、暫くして「これは私の苦手とする作風だ」と感じた。
本作の話は紹介文にある通りだが、物語仕立てではなく、晩年となった主人公による、少年時代のひと夏の断片的な回想と現在が織りなす心象的な作品である。
抑揚を抑えた緻密な文体で記憶を綴り、1枚の風景画や映像を見るような印象に残る作風だった。
が、これを読んで私が高い評価が出来るか?と言ったら残念ながらできない。
Amazonのレビューでも評価が分かれているが、本作は読む人間を選ぶだろうと感じる。
「わたしを離さないで」の方がストーリー仕立てで、面白く、理解はし易いと思う。(あれも深いですけど)
過去と現在が交錯する構成で、少し分かり難かった為かも知れない。
2回読んだらもう少し理解できるかも。
たぶん、こういう作品を読める方が一流の読書人なんでしょうねぇ。
★★★☆でごめんなさい、という感じである。
参考までに、本作を称賛している言葉を紹介しておきます。
バンヴィルは、危険を孕んだ、澄みわたった文章を書く。彼には魂の深奥を見る冷徹な力がある。・・・ドン・デリーロ(作家)
バンヴィルは熟達した文章家だ。彼の綴る言葉は、読む者に官能的な喜びを絶え間なく与えてくれる。・・・マーティン・エイミス(作家)
こう言った英国人がいるらしい。「アイルランド人に言葉を与えたのは我々だが、我々に言葉の使い方を教えてくれたのはアイルランド人だ」。かつてそれはワイルドであり、ジョイスであり、ベケットだった。そして今、それはバンヴィルである。・・・デイリー・テレグラフ
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