「励み場」青山文平著・・・★★★☆
信郎は江戸へ出て勘定所の下役になり、実績を積み上げて、真の武家を目指すのだが……。
「仕事とは何か」・「人生とは何か」・「家族とは何か」を深く問う書き下ろし時代長篇。
「励み場」とは、己の持てる力のすべてを注ぎこむのに足りる場処の事で、物語は宝暦八年(徳川9・10代)、宝暦飢饉が起きた3年後の話である。
石澤郡(現秋田?)で若くして元締め手代(農政を司る使用人)として才覚を発揮した笹森信郎だったが、名子(なご。元武家だったが名主に隷属している下層農民)として生まれ、同じ名子として劣等感を持つ智恵をめとり、武家に身上がりするため江戸へ出て勘定所普請役として励んでいた。
そんな折、宝暦飢饉からの復興に尽力した功労者を顕彰する事になり、成沢郡で飢饉の際に私財を投げ打ち、大量の米や雑穀を手当てし、村人に無償で分け与えたという名主・久松加平の元に信郎は調査に向かう。
そこで村を見て回る信郎は隠された秘密を知る。。。
青山文平らしく名子という現代では知られざる身分を切り口に、江戸時代の史実や組織制度を詳細に描きつつ、智恵の家族の絆や信郎が真に目指すべき仕事と人生を端正に綴っている。
歴史物をあまり読まない私だが、著者の江戸時代に関する博識ぶりは本書を読めば推量出来る。
話に派手さは無いものの、困難を真っ直ぐに克服した人々を情感豊かに描いた良書だった。
励み場
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