670冊目 純白の夜/三島由紀夫 | ヘタな読書も数撃ちゃ当る

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「純白の夜」三島由紀夫著・・・★★★☆

昭和23年。村松恒彦は、勤務先の岸田銀行の創立者の娘である13歳年下の妻・郁子と不自由なく暮らしている。最近、恒彦は学習院時代の同級生、楠と取引が生じ、郁子もまじえての付き合いが始まった。楠は一目見たときから、郁子の美しさに心を奪われる。郁子もまた、楠に惹かれていき、接吻を許す。が、エゴチスト同士の恋は、思いも寄らぬ結末を迎えることに…。

 

三島由紀夫の長編小説三作目。

 

三島由紀夫の生涯は短かった(享年45歳)が、遺した作品は数多い。

長編が35作、その他短編、戯曲、エッセイ、日誌、評論などかなりの量である。

その中で現在出版(全集は除く)されている作品はごく一部で、長編は主に新潮文庫から出ているが、それでも35作すべては揃っていない。

 

本作は角川文庫から出ているようだが、図書館に在庫が無く、今回は新潮社の「決定版三島由紀夫全集」で読んだ。

実はこの全集版は旧仮名づかいで、ちと読みづらく(文庫版は現代仮名)分厚い。

「盗賊」「仮面の告白」「純白の夜」の他、「盗賊」の異稿、「盗賊」と「純白の夜」の創作ノートが収められている。

 

前置きはさておき、本作のストーリーだが簡単に言えば昨今巷で流行っている不倫である。

その2人は、銀行創立者のお嬢様だった主人公の若妻・郁子と夫・恒彦の同級生で実業家の楠。

 

まず本作を読んで気づいたのはその文体である。

三島作品特有の、難解な単語や言い回しを使った華美な文章が全くと言っていいほど出てこない。

本作は雑誌「婦人公論」に連載された作品で、読者層を意識して書かれたのかもしれない。

故に読み易くはなっているが、あの三島の文体が好きな人(私も)には少々物足りないかもしれない。

 

そしてもう一つ、前の二作では男たちの苦悩(「仮面の告白」は三島自身)が描かれていたが、本作は主人公の女目線で描かれている点である。

私は、前二作の他に「金閣寺」「午後の曳航」とこれまで計4冊読んできたが女目線で書かれた作品は初めてである。

三島は、私小説的作品「仮面の告白」を書いて自らを同性愛者だと公言したので、本書のように女の心理を描いたのが意外だった。

 

本作は三島自身も語っているように、物語よりも2人の揺れ動く心理を主軸に描いた作品である。

 

お互い相手に好意を持ちながらも、プライドの高い郁子はその想いを素直に相手に伝えられず、気持ちの擦れ違いを起こす。

ダンスパーティーで楠からラブレターを貰って喜ぶも、その事を夫に話し返事は返さず、待ち合わせの約束をするものの、偶然を装いわざと夫を同伴させて来る始末。

しかし、楠の事が好きでキスは許すが、一線は越させなかった。

夫の恒彦はそんな楠に対し、会社への融資を止める事を告げ、郁子からの別れの手紙を渡す。

ところが、想いを断ち切れない2人は再び密会し、楠は郁子を宿に連れて行き、全責任を取るから恒彦に自分と一緒にいる事を告げるように言うが、郁子は親戚のうちに泊まると恒彦に嘘をついた。

それを聞いた楠は怒って、郁子を残し宿を出てしまう。

翌朝、宿に戻ってみると、警察や泣いている恒彦がいた。。。

 

郁子の心理はかなり歪んでいる。(三島作品に出てくる人物はみんな歪んでいるが)

夫以外の男に恋をしてしまうものの、お嬢様育ちで世俗に疎く、プライドの高い自分の気持ちをどうしていいのか分からないといった感じ。

結末は不条理とも言える程、郁子の行動は不可解である。

 

う~ん、こういう女性と付き合うのはやめといた方がいいと思う。。。!(´Д`;)

 

追記:

この全集には「盗賊」と「純白の夜」の創作ノートが収録されているが、それを見ると小説を組み立てていく方法が良く分かる。

小説を書くのは、いきなり原稿用紙に思った事をスラスラ書いていくのかと思っていたが(中にはそういう作家もいるでしょう)天才作家でもしっかりとした設計図を構築するんですねぇ。

 作家志望の方には参考になると思います。


これを読むと作品の解題にもなりそうで、「盗賊」の創作ノートにはラディゲについてもいろいろと綴られていて、このノートだけでも評論作品になりそうな感じである。

 

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