「はぁっ、はぁっ…」
インスは自宅へ向かって疾風のように駆けた。
母の無事を確かめなければ。
自宅は定食屋。すなわち料理に使う油など燃えやすいモノがかなりある。
逆に考えれば1階で仕事をしているから、すぐに逃げ出せるということにもなる。
様々な思いが交錯しながら、インスは必死に走り、遂に家が見えた。
「! 母さん!!」
やはり自宅も轟々と燃えさかっていた。
「…迷ってるヒマはないか!!」
腹をくくって、炎の中へと突っ込む。
「ううっ、あっちい…母さん!! 母さん、どこにいるの!」
大声で必死に母を探す。瓦礫があれば、鉄剣で薙ぎ払って道を開く。
「クソっ…母さん、母さん!!」
「…コホッ、イン…ス…?」
すぐ後ろで、瓦礫が崩れ、母が顔を出した。外傷は特に見当たらない。
「母さん!! 大丈夫だった?」
「ああ。お客さん先に逃してたら、調理台の下敷きになってね…なんとか自力で這って出たのよ」
「よかった…すぐに出よう!」
「そうしようかね」
息子は母に肩を貸して、どうにか家を脱出した。
「…だあっ、助かった…」
「ありがとね、インス。わざわざ助けに戻ってきてくれて」
「息子が親を助けるのは義務みたいなもんだよ。…そうだ、シグマ!」
「シグマ君、何かあったのかい?」
「実は…」
インスは事の顛末を母に話した。
「なぁるほどね…分かった。アタシは先に避難所に行く。アンタはどうする…って、聞くまでもないか」
「うん、シグマを待つ。いや、加勢しに行く!!」
「OK。絶対、死ぬんじゃないよ! このアタシの子なんだからね!!」
レイリアは駆け出して、残されたのはインス1人となった。
「まったく…そこは、『あの人』の息子なんだから、とか言って欲しかったな…」
言い残し、インスは駆けた。
たった1人の良き友人を救うため。
「…シグマ、大丈夫かな…いや、アイツは意外とタフだし大丈夫か」
「お! うぉおーい、インス!!」
見ると向こうから1人の少女を打き抱え、走ってくる親友の姿があった。
「シグマ、無事!?」
「この俺がそうそうヘバッてたまるか!! …と、その前に…」
シグマは抱いている少女を下ろし、優しくいい聞かせた。
「あのな、ミリア。兄ちゃん達はもう少し用事があって、ミリアと一緒に逃げることはできねぇんだ。1人で避難所まで行けるか? ほら、あの先にある大きな教会だ。すぐに兄ちゃん達も行くから、な?」
少女は少し考えた後、元気に答えた。
「うん、わかった! ミリア、ひなんじょでまってる!! だからおにいちゃんたちもすぐに来てね?」
「おう、任せとけ!!」
「じゃあ、いってくる!! ぜったいだよぉ!」
少女、シグマの妹は元気に手を振って、教会に向かって走り去った。
「…さて、平和タイムはこれにて終了だな。あとは分かってんな、インス?」
「ああ。このまま逃げても街がボロボロになるだけだ」
「てコトは…」
「この惨事の首謀者を叩きのめす!!」
「決まりだな」
「うん。シグマ、武器は?」
「コイツだ」
シグマは両手にはめた鉄甲を見せた。
「何、それ?」
「ナックルダスターだ。まあメリケンサックとかいろいろ呼び名はあるんだが、こうやって拳にはめて殴るんだよ」
「へえ、そんな武器があるんだ」
「最近開発されたばっかなんだそうだ…お前もちったあ世の中勉強しろ。科学ってのはどんどん進んでいくんだぞ」
「う…分かってるよ。それより…」
「っと、そうだな。…行くぜ?」
「うん」
生まれ育った故郷を取り戻すため、2人の戦士は駆け出した。