ぎんなん(銀杏)中毒 | キッズクリニック ブログ

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小児科学、特に小児心臓病学を専門に大学教授としての経験を積んだ後、名誉教授になってから、自分の教え子の小児科診療所で子どもを診ています。
こどものことを中心にいろいろ書いていこうと思っていますので、よろしければお付き合いください。

お酒を呑む時のつまみとしてつまんだり、茶碗蒸しの中身にいれたりして、銀杏(ぎんなん)が食卓に出てくる季節になりました。

お酒のおともとしては、値段も安くておいしい銀杏ですが、子どもが食べると中毒になることがあるので注意が必要です。

症状は、めまい、嘔吐、けいれん発作などの症状です。

嘔吐、けいれんのような子どもにはよくある症状で救急施設へ運ばれた場合、患者さんが銀杏をたくさん食べていたことが情報としてわかっていれば、治療は難しくありません。しかし、分からないと適切な診断が難しくなるために、効果的な治療が遅れて死亡することすらある怖い状態になります。

銀杏にはビタミンB6(ピリドキシン)にとてもよく似ている物質である4-O-メチルピリドキシン(MPN)という物質が含まれています。 銀杏を食べると身体がビタミンB6と間違って、この物質(MPN)をかわりに使ってしまうことになります。すると、ビタミンB6の欠乏症の症状が出てしまうのです。

ビタミンB6は、脳内で神経細胞を安定させるGABAという物質を作るのに必要なビタミンなので、ビタミンB6の欠乏症状は、神経を興奮状態にしてしまうことになります。
それにより、嘔吐、痙攣、意識障害などのほかに、顔色蒼白、発熱、不整脈を起こしてしまうこともあります。これが、銀杏中毒の症状です。この症状は、食べてから1〜12時間後に現れます。

銀杏を食べすぎて中毒になるのは、成人では少なく、ほとんど子どもです。銀杏を食べすぎると身体に悪いということは、昔から知られていたことのようで「銀杏は年齢の数だけしか食べてはいけない」との言い伝えがある地方があるようです。

これは覚えておいて良い言い伝えですが、少ない量でも中毒症状をおこす子どもはいるようなので、7歳未満は0個、7〜14歳までは6個以下、大人は20個くらいまでというのが、現在勧められる安全な数といわれています。

つまり、小学校前の子どもには食べさせない方が良いということですね。

上に書いたように、銀杏中毒の症状はとても多彩なので、「銀杏を食べた」という病歴を話してもらわないと、その診断は救急の医師にとっては、とても難しいものになります。いろいろ検査をしているうちに、悪化してしまうことが多いでしょう。

わかっていれば、この治療はビタミンB6を与えれば良いのですから、危険もなく安全に行うことができます。ただ、痙攣しているお子様にビタミンB6を注射するのは、なかなか難しいことですので、食べさせないことが一番のようです。

子どもの給食にでる茶碗蒸しにも、銀杏は入れない方がよいですね。
一人一個ならば安全なのですが、銀杏を食べたくない友達からもらって、たくさん食べてしまって、中毒になることもあるからです。

戦後すぐの食糧難の時代には、無料で拾えた銀杏を多量に食べたことにより、銀杏中毒になって死亡した子どもたちもいた、という話を聞いたことがあります。

食事による中毒ですから、時間がたてば症状はなくなりますが、それまでに危険なことが起こる可能性が高いので、やはり小学校前の子どもには銀杏は与えない方がよいでしょうね。それに、子どもにとっては興味はあっても、そう美味しいものでもないでしょうからね。

ビタミンB6は、腸内細菌によって体内で合成されることもあるビタミンのため、普通の食事をしていれば欠乏症になることはまずありませんので、心配はいりません。


キッズクリニック 院長 柳川 幸重
 

 

 


※この飾りはボーイスカウト柏10団ビーバースカウト一同が作ったものです