キッズクリニック ブログ

キッズクリニック ブログ

小児科学、特に小児心臓病学を専門に大学教授としての経験を積んだ後、名誉教授になってから、自分の教え子の小児科診療所で子どもを診ています。
こどものことを中心にいろいろ書いていこうと思っていますので、よろしければお付き合いください。

マイコプラズマ肺炎が増えてきました

 

8年ぶりにマイコプラズマ感染症が増えてきています。その明確な理由はまだはっきりはわかりません。しかし、新型コロナ感染症予防で全ての感染の流行が抑えられてきた結果、感染に対する子どたちの抗体が低下していることが、原因の一つだと言われています。

以前は、一回流行すると次回の流行は4年後になるという、オリンピックの開催年のようなことが言われていたことがあります。

 

隔離は必要な病気ですか?

 

発熱や激しい咳がおさまっていれば登校・登園は可能と言うことになっています。
しかし、当然ですが、飛沫感染への対策として周囲の子供や保育士は一般の感染対策である、手洗いや咳エチケットは実地することが必要です。

 

感染と症状は?

 

症状を一言で言うと、長い期間病気になる感染症です。つまり、潜伏期が長く、症状(特に咳)も長く続くのが特徴です。
潜伏期は2~3週間であり、潜伏期にマイコプラズマは体内で増えていきます。この潜伏期にも他人に感染させることできるのが、マイコプラズマ感染が大流行しやすい原因のひとつです。潜伏期に体の方が強くて、症状を出さずに治ってしまうこともあると言われています。この場合は、お母様の印象は「かからなかった」と言うことになります。

潜伏期の後、発熱、だるさ、頭痛などの一般の感冒症状が出てきます。感染者の3~5%くらいが肺炎になります。肺炎の症状である咳・呼吸困難などの呼吸器症状は、発熱などの後、3~5日で出現します。発熱などの全身症状は普通数日で改善しますが、咳は、ゼーゼーと苦しそうな咳となり、1ヶ月以上続くことが多いのが特徴です。猛烈に咳が続くために起こる胸痛、喉の痛み、掠れた声が出ることも多いです。患者さんの8割は14歳以下(つまり小児科の患者さん)です。成人でもかかることはありますが、若い方の方が多いです。
肺炎はなくとも、他の症状が出ることもあります。呼吸器症状以外にも、下痢・嘔吐などの消化器症状や、髄膜炎や脳炎などの神経症状が出ることもあります。これは、怖いですね。中耳炎、肝炎、膵臓炎、関節炎など色々な合併症を起こすこともあります。

 

原因と治療は?

 

マイコプラズマ(Mycoplasma)とは、普通の顕微鏡で見ることのできる大きさの細菌の10分の1程度の大きさであり、普通の細菌が持つ細胞壁を持たない病原体です。感染に効果的な抗生物質の多くは、細菌の細胞膜ができないようにすることで効果を出します。(「細胞壁合成阻害」の抗菌薬)しかし、細胞壁を初めから持たないマイコプラズマには効きません。つまり、普通の抗生剤を投与しても良くならないのが、マイコプラズマ感染の特徴です。
マイコプラズマ感染は、特に薬を使わなくとも自然に改善していくことが多いですが、投薬が必要であると考えた場合は、小児科医はそれに対する抗生剤を選びます。ほとんど全ての薬が飲み薬なのですが、苦いことが多いのが困ります。苦い薬を甘い味でコーティングしていることもあるので、その場合は溶かさないで飲ませる工夫が必要になります。
この場合、8歳未満では使わない方が良いお薬もあります。「お兄さんと同じマイコプラズマ感染だからお兄さんのを飲ませておこう」、などという考えはやめましょう
効果的なお薬のほとんどが飲み薬なので外来治療とすることが多いです。『肺炎だから入院だ!」と言うことはありません。小児科医は子供の入院はできるだけ避けたいと考えるのが普通です。しかし、呼吸困難、水分摂取ができない、意識がはっきりしない、内服薬の効果が悪く点滴治療が必要なときなどは、入院を勧めるでしょう。咳がひどいと言う理由での入院はありません。

 

咳に対してはどうしますか?

 

お子様のいるお部屋の加湿をしましょう。空気の出入りする気道が保湿されて咳を和らげることが期待されます。湿度が測定できるならば、60~70%程度にしておくことが勧められます。米国ではシャワーを壁に当てて出しっぱなしにしておいて、その部屋で子供を抱いていることもあるようです。
また、温かい飲み物を少しずつこまめに飲むのも、本人が楽になるようなので勧められます。嫌いでなければ、スープ、お味噌汁などでも良いでしょう。
当然のことですが、休ませることも大切です。走り回れば当然悪化します。咳で辛い時には、仰向けに寝かせるのではなく、枕などでちょっと上半身を起こして寝かせると楽になることも多いです。
もちろん、咳のお薬も飲ませてください。ただ、小児科医は咳を完全に止めてはいけないと考えています。咳には気道に痰などがつまらないようにするという大切な役目があります。完全に止めてしまっては、気道が詰まってしまいますね。ですから、過度の咳が出ないようにする、去痰薬を用いて痰や分泌物ができるだけ自然に出てくるようにすることを目的に処方しています。咳がぴたりとおまることを期待してはいけません。

 

【厚生労働省 保育所における感染症対策ガイドライン(2018年版)】
 

 

キッズクリニック・グループ 
名誉院長 柳川 幸重