キッズクリニック ブログ

キッズクリニック ブログ

小児科学、特に小児心臓病学を専門に大学教授としての経験を積んだ後、名誉教授になってから、自分の教え子の小児科診療所で子どもを診ています。
こどものことを中心にいろいろ書いていこうと思っていますので、よろしければお付き合いください。

前回、はしか(麻疹)の怖い合併症としてSSPE(亜急性硬化性全脳炎)について少し触れました。

SSPE(subacute sclerosing panencephalitis:亜急性硬化性全脳炎)は、麻疹に罹患して治癒したと思っていたら、何年後かに発症することのある怖い病気です。

初期症状は、記憶力と学校成績の低下、いつもと異なった行動、感情不安定のような精神症状に加えて、手に持ったものをよく落とす、字が下手になる、歩くのが下手になる、というような運動能力の低下に気づかれます。そのあとは、四肢がビクビクする不随意運動(ミオクローヌス)、知的障害、運動障害の進行が見られ、意識消失へと進みます。通常は数年かかって症状が進行します。(3〜4ヶ月で進んでしまう急性型もあります。)とてもゆっくりした病気の進行なので、診断は遅れがちです。

幸いにして10万人に一人程度の稀な病気ですが、根治するのが難しい病気です。
麻疹ワクチンを打っている国ではとても少ないので、麻疹ワクチンの大切なことがわかります。

このSSPEは、1歳未満での麻疹感染や、ステロイドなどの使用で免疫機能が低下している時に麻疹に感染すると起こりやすいことが知られています。1歳未満の感染でSSPEが起こりやすいのに、なぜ麻疹ワクチンは1歳以降で打つことになっているのでしょうか?
麻疹ワクチンは1歳前に打ってはいけないのでしょうか?

1歳未満では打たないという大きな理由は、母親の麻疹抗体が臍帯血を通じて胎児に入っていると、それが1歳くらいまで残っている可能性があるからです。お母さんからの麻疹抗体が赤ちゃんに残っていると、麻疹ワクチンを打ってもこの抗体によって防御されてしまって、せっかくワクチンを打っても抗体産生ができないことがあるからです。
(麻疹ワクチンは生ワクチン、つまり高度弱毒にした麻疹なので、防御されてしまうと免疫系が麻疹として認識しないので抗体ができなくなるわけです)
これが麻疹ワクチンは1歳未満では打たない大きな理由です。

しかし、医学的には打ったら危険というわけではありません。

赤ちゃんが1歳未満で、まだ麻疹ワクチンを打っていない時に麻疹の流行があったらどうしましょう?

以前、麻疹が小流行したときに、近所に麻疹の方がいらした1歳未満の赤ちゃんのご両親が、心配して相談に来られました。このときは、1歳前ですけれども、自費になりますが早めに麻疹ワクチンを打つことをお勧めしました。1歳前に早めに打っても赤ちゃんに危険はないからです。

お母様からの麻疹抗体が赤ちゃんに残っていれば、それで守られます。また、お母様からの抗体がすでになくなっていれば、ワクチンで免疫がつき、抗体ができるので、これによって守られるはずです。

しかし、この場合は赤ちゃんに麻疹抗体が十分できたかどうかは確認できないので、この時打ったワクチンは打った数には入れないで、1歳後には通常通り定期接種としてMRワクチンを打つことをお勧めしました。

このようなことは、不幸にして今後海外からの感染があった時には、ご両親は覚えておいた方が良い知識だと思うので、ここに書いておくことにいたしました。

このようなことが、将来起こらないことを祈っています。


キッズクリニック 院長 柳川 幸重