園児・学童の心雑音 | キッズクリニック ブログ

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小児科学、特に小児心臓病学を専門に大学教授としての経験を積んだ後、名誉教授になってから、自分の教え子の小児科診療所で子どもを診ています。
こどものことを中心にいろいろ書いていこうと思っていますので、よろしければお付き合いください。

学童(幼稚園・保育園の)健診で、心雑音があると言われました。

赤ちゃん時代を過ぎてから心雑音を指摘されるのは、発熱して近くの小児科医を受診したときや、園児の検診や学校心臓検診のときに指摘されることが多いですね。
つまり、特に症状のない状態で「心雑音」を指摘されるわけです。

お母様がよく「何にも悪いところがないのに、『心雑音』なんていわれちゃったの!」とコメントされることがありますが、健診ではそれは当然のことです。何か症状があれば、すぐにお医者さんのところに相談しに行くはずですから、「発熱」や「健診」で指摘されるのは、何も症状のない状態のときになるわけです。

心臓がはやく打つ状態になると、心臓の収縮は強くなりますから、血液は勢いよく心臓から押し出されられることになります。このようなときには、心雑音は聴かれやすくなります。発熱のときも心臓は普通よりドキドキとはやく打ちますから、勢いよく心臓から押し出される血流は「心雑音」を起こしやすくするので、お医者さんにも聴きやすくなります。学校検診では、とくに「心雑音」に注意して聴かれているので、ここでも発見されやすくなります。

このような「心雑音」が、悪い病気を意味していることはあまりありません。しかし、学童期になるまで診断されていなかった「心房中隔欠損症」の子供が見つかることもありますから、無視して良いわけではありません。

生まれつき心臓病がある子は運動などできないと、思い込んでいるご両親(ときには内科の先生)もおられるので、「心雑音」があると言われても、専門医を受診しないので診断が遅れることもあります。私が診断した手術の必要な「心房中隔欠損症」のあるお子さんは、陸上競技をやっていたり、少年野球の選手だったお子様もいらっしゃいました。こんなに運動をしている子に、先天性心臓病があるはずがないと考えられていたようです。手術の相談に東大病院に紹介しましたら、心電図も心雑音もこの病気に典型的なものですので、医学部の学生さんの教育にとてもよかったと言われて、複雑な気持ちだったことを覚えています。無論、心臓手術後は、それまで以上に元気に活躍されています。

心雑音を起こすのは、生まれつきの心臓病だけではありません。

溶連菌感染の診断と治療がしっかり行われている日本では、ほとんど見ることがなくなりましたが、溶連菌感染によるリウマチ熱では、心炎がおこり、心臓の弁が閉まらなくなる心臓病になります。これの「心雑音」は医師の間ではよく知られています。
リウマチ熱の「心雑音」は経験のある先生にはわかりやすい特徴をもっていますが、この「心雑音」を聴いたことのある医師は、だんだん少なくなっています。

溶連菌感染というと、感染後の急性糸球体腎炎の方がよく知られていますが、リウマチ熱も以前はよく知られていました。

この溶連菌感染によって合併症が起こる理由は、溶連菌の菌体成分に対する抗体が患者さんの体内で作られて、それが患者さんの腎臓や心臓を攻撃してしまうからです。溶連菌が体内に居るかぎり、抗体はどんどん作られていきますから攻撃は続きます。溶連菌感染症では、たとえ熱が下がっても抗生物質を飲み続けなくてはならないと言われるのは、溶連菌を身体から完全になくさなくてはならないからです。

リウマチ熱を起こしやすい菌の型と、急性糸球体腎炎を起こす型は異なっているので、同時に起こることはないとされています。

これらの溶連菌による疾病は、我が国では稀になりましたが、世界的にはまだ多い疾患です。我が国で少ないのは、溶連菌の診断と治療がきちんと正しくされているからであるということをよく理解して、小児科医の助言通りにしっかり治療することが大切ですね。

最後に、こどもの心臓病の全てに「心雑音」が聴かれるわけではないことも覚えておいてください。心臓移植が必要となるような心筋症といわれる病気では、心雑音は聴かれません。疲れやすくなったり、息切れしやすくなってしまったり、むくんだりすることが主な症状のことが多いです。こちらの方がずっと怖い病気なのですが、初期には見逃されることが多いので、小児科医は注意して日常診察しています。


キッズクリニック 院長 柳川 幸重