函館ちゃんちゃんこ物語43(2)
6月30日、3年生の重要な「地理実習」のひとつ、
自然地理分野の奥尻島巡検が始まった。
函館駅を出発して、約1時間半のJR江差線での楽しい列車旅、
今はもう廃線となった路線旅を満喫した地理研メンバーであったが、
前夜の追い出しコンパのダメージが残る道場海峡男、中田文司、伊藤正盛の3人は、
座席で死んだように動かず、
車窓のすばらしい景色も知らずに無駄な時間を過ごしていた。
「快適、奥尻島への船旅のはずが」
地理研3年生は、奥尻島巡検のために函館駅を出発。木古内駅からは内陸を通る快適な江差線の鉄道旅を1時間半堪能し、江差駅に着いた。一部を除いてはだ。一部とは、出発前夜で飲みまくった道場海峡男、伊藤正盛、中田文司の3人のことである。
今はもう廃線となった貴重なJR江差線の、函館駅からの楽しい列車旅を無駄に過ごした3人を含め、地理研3年生は、これから江差駅からフェリー乗り場までは徒歩での移動である。
「おい!海峡たち、早く行くぞ!」
フェリーの出航時間がはっきり分からないため、みんな不安な気持ちで坂道を小走りに登っていった。遅れたら、しばらく待たなければならない。
急いでいるみんなだが、あの3人はというと、ズリズリ・・・ズリズリ・・・足を引きずりながらゾンビのごとく、または貞子のごとく、坂道を這うように蠢いているだけだ・・・。
みんなが思っていたよりも遠い感じがしたが、何とか無事フェリー乗り場に到着。ラッキーなことに出航時刻に間に合い、全員が船に乗り込むことができた。ゾンビの3人も・・・。
「ふう、間に合った」
ゾンビたち3人も、最後は遅れまいと全力疾走!して、フェリーに転がりこんだ。やればできるのである。
「おお、海峡も、伊藤も、文司もよく間に合ったなあ!」
「やればできるじゃないか!」
3人はみんなに誉められた。死にかけていた3人であったが、この全力疾走で生き返った感じだった。これがあとで致命傷となるのだが・・・。
江差から奥尻島までは約2時間半の船旅、晴天なので穏やかな海ではあるが、そこは日本海、そこそこの揺れをみんなに与えていた。心地いい揺れである(はずだ)。
きらきら光る日本海、青い空と白い雲が水面に映っている。カモメが飛ぶ。シャチがフェリーと並んで泳いでいる。誠に気持ちのいい船旅である(はずだ)。
江差の港からだいぶ離れ、北海道の大地が次第に小さくなって、奥尻島の神威山がはっきり見えるようになってきた。
甲板に出ていた地理研のメンバーたちは、潮風に吹かれながら、少しずつ近づいてくる奥尻島を楽しそうに見ていた。
そんなすばらしい体験を、あの3人はみんなと一緒に元気にしようと思っていたが、フェリーは沖に出ると、ゾンビから復活したはずの3人の姿は、みんなの中にはなかった。フェリーが江差港を出てまもなく、さっきの全力疾走のダメージが突如、3人を襲った。JR江差線の列車内では、人差し指を振るわせて、何とが我慢できていたものの、日本海は愚かな3人を許さなかった。
穏やかな日本海を滑るように進んでいくフェリーの3つの個室は、しっかりと鍵がかけられ、ウソのように静まりかえっていた・・・。
必死に便器を抱く3人の姿は誰にも見られることなく、3つの個室で、それぞれの孤独な戦いは熾烈を極めた。
続きます
※おことわり
この物語は、実際にあったかどうか疑わしいことを、作者の老化してぼんやりした記憶をもとに書かれていますので、事実とは全く異なります。登場する人物、団体、名称等は、実在のものとは一切関係はありません。
また、物語の中の写真はすべてイメージです。
「函館ちゃんちゃんこ物語」
毎年届く年賀状。その中には学生時代の懐かしい仲間のものもある。ここ数年多くなったのが「退職」の知らせだ。いつの間にかみんな年を取った。
道場海峡男(どうばうみお)は、本棚の隅から、大学の研究室の機関誌「学大地理」を取り出した。色あせた機関誌だが、40年前の懐かしい思い出の数々が鮮明に蘇って来た。
研究室の仲間、ちゃんちゃんこ軍団の同志、4年間の輝く函館の歴史がここにある。