函館ちゃんちゃんこ物語39「孤高の天才・牧殺火」 | 海峡kid.の函館ちゃんちゃんこ物語

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函館ちゃんちゃんこ物語39

「函館ちゃんちゃんこ物語」
毎年届く年賀状。その中には学生時代の懐かしい仲間のものもある。

ここ数年多くなったのが「退職」の知らせだ。いつの間にかみんな年を取った。

道場海峡男(どうばうみお)は、

本棚の隅から、大学の研究室の機関誌「学大地理」を取り出した。

色あせた機関誌だが、

40年前の懐かしい思い出の数々が鮮明に蘇って来た。

研究室の仲間、ちゃんちゃんこ軍団の同志・・・、4年間の輝く函館の歴史がここにある。

 

 

孤高の天才・牧殺火

 

必然とは、「必ずそうなること」「それより他になりようがないこと」である。

才能は、知らず知らずのうちに現れる。異国情緒漂う函館で、「地理研日記」から、「地理研作家協会」が生まれたのも必然なのであろう。
「牧殺火」と「日取甫地」、今や函館では、伝説となっている地理研作家協会の2大巨頭である。二人の全ての作品を紹介したいところであるが、原稿用紙で数千枚の大作ぞろいなので、今回はほんのさわりだけということでご了承いただきたい。

 

まずは、会長の「牧殺火(ぼくさっか)」氏の作品で、牧氏が得意とするところの旅行記をご覧いただく。「ぼくさっか」と一般的には言われているが、本当にそう読むかどうかは本人には確かめてはいない。


この作品を読むときには、呼吸を忘れてしまう読者も見られるので、自分の呼吸を確かめながら味わっていただきたい。
また、いつの間にかまぶたを閉じてしまい、文字が見えなくなる読者もいるので、気持ちをしっかりともって、最後までしっかりと目を開けて読んで欲しい。命の大切さを再認識するよい機会にもなるかもしれない。

それでは始めよう。
 

 

題名 「日本の旅『霧と夢の伝説』」      作 牧殺火

 

第1章 「飛騨髙山へ」

地理巡検のために2月9日の早朝に函館を発ち、浜名湖舘山寺温泉で商店街や街並みの調査活動を行い、地理研3年生メンバーは、地理研究という本来の目的の遂行のため、函館を離れても生き生きと活動していた。
舘山寺温泉には3泊し、夜な夜な大宴会をした地理巡検は、「成功」という二文字を掲げ、無事終了した。引率した奥教授の顔には幾分お疲れ感が漂い、ほおも瘦け、白髪も増え、歩く姿は白寿の爺かと思うくらいだったが、学生たちと一緒に来たことを後悔するそぶりは見せなかった。


2月12日、行動を共にしてきた奥教授と、明治村に行くという極々一般的な考えしかできない伊藤、山原、浪波、安子、そして漏水が始まり、老衰が顕著な奥出とは、尾張国名古屋で別れ、崇高な「日本の旅」を目指す道場海峡男と中田文司は飛騨髙山と金沢を目指して歩き出した。
 

二人がやることはまず、飛騨高山行きの電車のチケットを買うことであった。海峡男は高山経由・富山までのチケットをすぐに手に入れることができたが、文司は、名古屋ー富山ー函館の一枚のチケットをつくるのに手間取り、なぜか、30分ほども、売り場で待たされた。
普段から心がけのよくない中田文司であるので、天罰が下ったのか、または、日頃から文司のことを快く思っていない日本国民の恨みを、名古屋駅の駅員が代表して表したのか、どっちであっても別にいい。


一緒に待った海峡男は、「まあ、想定内」と自分を納得させていた。


その後中田文司は、交番の巡査も知らないという、拓銀(北海道拓殖銀行※注1)を名古屋で探すという無謀な行動に出たのにもかかわらず、拓銀を見付けるまでずっと、海峡男は文句も言わずに付き添っていた。
 

 

そして12:40。いよいよ二人は、飛騨高山行きの「特急ひだ」に無事乗り込んだ。文司は一人で名古屋駅の駅員や、駅前の交番の巡査への不満をブツブツ言い続けていたが、海峡男の心は清く、そんな文司の言葉は耳には入ってこなかった。もう、海峡男の心は、車窓から見える幻想的な景色の虜になっていた。
 

「特急ひだ」は、二人を乗せてとても真剣な顔で山の間を走っていった。
薄汚れた心の文司もさすがに安らいできたらしく、穏やかな顔でよだれを垂らして眠っていた。

 

雲の垂れ込めた山は、水墨画のような印象を与え、ひなびた山村が、
その山と飛騨川の間にへばりついていた。

 

 

名古屋から特急で3時間、今日の目的地飛騨髙山に到着した。

※注1 北海道拓殖銀行は1998年11月13日に営業停止し、破綻した。


まだまだ旅はこれから。第1章もこれからが読みたいところであるが、誌面が限られているので、ここまでとする。牧殺火氏の、旅愁あふれる描写に、地理研究室の学生たちはみんな涙した。

 

「学大地理」という地方大学の機関誌にしか載っていない、現代文学の隠れた名作である。牧氏は、地理研日記にも「黄金の蛇」や「奥尻旅記」などの傑作を発表し、地理研の学生だけの特権として、代々読み継がれている。

次回は、「日取甫地」氏の作品を紹介する。

 

 

続きます。



※おことわり
この物語は、実際にあったかどうか疑わしいことを、作者の老化してぼんやりした記憶をもとに書かれていますので、事実とは全く異なります。登場する人物、団体、名称等は、実在のものとは一切関係はありません。
また、物語の中の写真はすべてイメージです。