函館ちゃんちゃんこ物語29「神の人差し指・海峡床屋」 | 海峡kid.の函館ちゃんちゃんこ物語

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 函館ちゃんちゃんこ物語29

 

「函館ちゃんちゃんこ物語」
毎年届く年賀状。その中には学生時代の懐かしい仲間のものもある。

ここ数年多くなったのが、「退職」の知らせだ。いつの間にかみんな年を取った。

道場海峡男(どうばうみお)は、
ふと、大学の研究室の機関誌「学大地理」を本棚の隅から取り出した。
色あせた機関誌だが、一瞬のうちに学生時代の記憶が蘇り、心がときめいた。

 


「神の人差し指・海峡床屋」

 

3月というともう春のはず。心は春の暖かさに浸りたいのに、関東、甲信地方がまた雪だそうだ。今年は太平洋側の雪が多い。普段あまり雪が降らない地域なので、大変だ。

3月は別れの月、4月は新しい出会いの月。誰でも、春になると心は心機一転、新しい気持ちでスタートしたくなる。

ここ函館でも、そんな空気が漂ってくる。普段はどうでもいい格好をしているが、道場海峡男、深間克明、山高焚人-潔そして間本久直の4人の、ちゃんちゃんこ軍団のメンバーさえも、やはり年頃、実はお洒落には気を遣っていて、その証拠のひとつに髪型がある。

なんと言っても、「普通」の床屋へは行かない。やはりこだわりのある連中は、いわゆるPro.と巷で評判の店に行く。正確には店ではない。部屋だ。それも普通の・・・。
そのPro.がいる場所は、人呼んで「海峡床屋」。そう、道場海峡男のところで髪を切る。それも必ず「ミリンダ」(※)持参で。

 

※「ミリンダ」はもう死語なのか、キーボードで打っても「ミリン」と変換する。1970年代後半、コカコーラはファンタ、ペプシコーラはミリンダ、この二つが炭酸飲料の2大巨頭だった。今はほとんど、ペプシコーラもミリンダも見なくなったが、当時は、コカ派、ペプシ派と、世の中を二分していた。現在、ペプシコーラはあるらしいが、ミリンダは、もう日本では販売されていない。

 


「海峡床屋」の一番の常連客は深間克明だ。サッカー少年だったので、ほぼ、どうしようもないスポーツ刈りなのである。そして、彼の髪の毛はやや長めのバリンバリンの硬い髪質だった。
前髪や後ろの髮は適当に短くすればいいのであったが、難しいのは、もみあげから耳のあたりだ、深間は特に、もみあげにはこだわっていた。
「やや長めに、全体的に少なく。そして・・・」
何を言いたいかはほとんど分からなかったが、海峡男は、巧みなはさみさばきで、要求通りに切っていく。

 

 

「神の人差し指」と言われる海峡男の指が変幻自在に動く。

「神の腹心」とも呼ばれる彼の親指が、精密機械のように振動している。誰もが見とれる「海峡床屋」の輝きは、津軽海峡の漁り火の中でひときわ輝きを放っていた。

 

 

続きます



※おことわり
この物語は、実際にあったかどうか疑わしいことを、作者の老化してぼんやりした記憶をもとに書かれていますので、事実とは全く異なります。登場する人物、団体、名称等は、実在のものとは一切関係はありません。
また、物語の中の写真はすべてイメージです。