函館ちゃんちゃんこ物語27「愛しの姫、安子貴子」 | 海峡kid.の函館ちゃんちゃんこ物語

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 函館ちゃんちゃんこ物語27

 

「函館ちゃんちゃんこ物語」
毎年届く年賀状。その中には学生時代の懐かしい仲間のものもある。

ここ数年多くなったのが、「退職」の知らせだ。いつの間にかみんな年を取った。

道場海峡男(どうばうみお)は、
ふと、大学の研究室の機関誌「学大地理」を本棚の隅から取り出した。
色あせた機関誌だが、一瞬のうちに学生時代の記憶が蘇り、心がときめいた。

 

 

「愛しの姫、安子貴子」

 

「海峡くん、これ読んだ?」
安子貴子が道場海峡男に一冊の文庫本をもってきた。ちょっと前に二人の間で話題になり、海峡男は貸してもらうことにしていたのだ。『犬神家の一族』当時映画化もされて大ヒットした横溝正史の長編推理小説だ。
「あっ、ありがとう。忘れてなかったんだね」
海峡男はうれしかった。

安子貴子(やすこたかこ)は、海峡男たち同期の紅一点、
同期みんなの憧れのお姫様であり、地理研究室の男子みんなの自慢でもあった。ただ、彼女は地元函館出身なので、他の研究室にも知り合いが多く、あちらこちらで評判は高かった。


海峡たち地理研究室の同期は、もしかして先輩達も、特に相談したわけではないが、それぞれが自主的に、他の研究室の悪い虫が付かないように、
それとなくボディーガードをしていた。つまり、地理研の「箱入り姫化」を目指していた。

 

 

 

 

年寄りの奥出大蔵でさえも、安子に話しかけるときは、声のトーンがオクターブ上がって、
「やすこさ~~~ん、おはよう!」
なんて、スケベ丸出しの笑顔であいさつする。純な伊藤正盛は、安子の前に立っただけで赤面している。先輩の井上や亀本、南村もなぜか丁寧語で話をする。

ある日、講義室の前で海峡男と安子は偶然鉢合わせし、そのまま一緒の席に座った。いつになく講義が始まる前から話が弾み、社会学の講義が始まっても、ひそひそと、二人でおしゃべりをしていた。


すると、いつもは温厚な社会学の山高教授は我慢も限界に達したか、
「海峡!安子!うるさい!」
二人をしかった。その後は二人シュンとして講義を聴いていた。

 


その日の昼、研究室に行くと、3年生の南村が、
「二人で、乳繰り合ってたなあ」
と、海峡男をからかいに来た。講義中で大勢の中なので、『乳繰り合って』いたわけではないが、海峡男は、
「どうも、すみません」
と言いながらも、ちょっとうれしかった。

続きます。


※おことわり
この物語は、実際にあったかどうか疑わしいことを、作者の老化してぼんやりした記憶をもとに書かれていますので、事実とは全く異なります。登場する人物、団体、名称等は、実在のものとは一切関係はありません。
また、物語の中の写真はすべてイメージです。