函館ちゃんちゃんこ物語20
「函館ちゃんちゃんこ物語」
毎年届く年賀状。その中には学生時代の懐かしい仲間のものもある。
ここ数年多くなったのが、「退職」の知らせだ。いつの間にかみんな年を取った。
道場海峡男(どうばうみお)は、
ふと、大学の研究室の機関誌「学大地理」を本棚の隅から取り出した。
色あせた機関誌だが、一瞬のうちに学生時代の記憶が蘇り、心がときめいた。
「函館公園no青いシートで待ってます」
道場海峡男の地理研究室では毎年、5月中旬にお花見をする。
新型コロナ感染で、お花見も十分に楽しめなかった時期を考えると、ずいぶん幸せな時代だったなあ・・・と、考えさせられる。
令和6年は、盛大にお花見ができるのだろうか。
近年は、地球温暖化で花見の時期が早まっているが、当時は花見が5月中旬、それでも、北海道の、それも海の中に突き出た函館は、風が冷たく、きちんと着込んでいかないと、大変なことになる。
場所は、函館山の麓にある函館公園。
大学近くの、現在はもう廃止された路線だが、宮前町の電停から市電に乗り、駅前を通り、十字街を過ぎて青柳町の電停まで行くと函館公園がある。
古くからの小さな遊園地もあり、日本最古と言われる観覧車やメリーゴーランドなど、小さい子どもも楽しめる、市民の憩いの場だ。
桜の花でいっぱいの公園は、出店もたくさん出てとても賑やかになる。
その函館公園に、地理研究室は、毎年5月の中旬の日曜日に集結する。
1,2年生が準備係だ。
特に大切なのは「先乗り部隊」。朝早くから、青いシートを持っての場所取りである。同然のことながら、桜がきれいに咲いているところは人気なので、早く行かないと場所がなくなる。
「えっ、こんな所しかなかったの!?・・・」
「何時に来たの!?・・・」
「桜はどこにあるの!?・・・」
取った場所によっては、先輩たちから厳しい言葉が飛び交い、宴会は台無しになる。
通常は朝5時に場所を取る。場所を取ったのはいいが、それからが係の本当の苦労の始まりで、約10時間、花見の宴会が始まるのは午後3時頃からなので、それまでの時間の長いこと長いこと・・・。
去年は、1年生だった海峡男と中田文司、伊藤正盛が死にものぐるいで場所を確保し、先輩たちに誉められた。
今年の先乗り部隊は、新1年生の模範的関西芸人植木、ドングリお目々の梨名、剣道大田の3人である。
早く来たかいがあって、3人の満足がいく場所が取れた。
「これで、先輩たちに喜ばれるぞ!」
3人で手を取り合って喜んだ。4月には問題児の一人だった芸人植木の変貌ぶりには、感心させられる。
それからその3人は、じっと10時間、ほとんど飲み食いもせずに青いシートの上で待ち続けたのだった。
続きます。
※おことわり
この物語は、実際にあったかどうか疑わしいことを、作者の老化してぼんやりした記憶をもとに書かれていますので、事実とは全く異なります。登場する人物、団体、名称等は、実在のものとは一切関係はありません。
また、物語の中の写真はすべてイメージです。