物語プロバンスのパン屋さんで 30「心のケアなんて・・・」 | 海峡kid.の函館ちゃんちゃんこ物語

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 (物語)プロバンスのパン屋さんで 30


この物語は、
友人の心ない言葉と、
無責任な大人の行動で人間不信になり、
不登校になった夢見る中学3年生、竹下唯(たけしたゆい)と、
憧れの定年退職後の楽しいはずの時間が、
1本の電話によりはかなく崩れ去った、
元小学校教師深海航(しんかいわたる)の、
偶然の出会いから始まる激動の半年を綴ったお話である。



 

第5章 プロバンスへの道(18)
「心のケアなんて・・・」

 

週明けの月曜日、竹下唯はすこぶるご機嫌な様子で、

「私って変!機嫌ががいいときと悪いときがある」

と言って笑った。

深海航は、

「いつものことだろう」

と言いそうになったが、やめた。

何があるのか聞いてみると、その日は唯の母親の誕生日で、
教育センターで勉強した後、プレゼントを買いに行くという。



 

その日の唯は、
「今日は精神的に安定している」
と言って、公民のプリントを集中してスラスラと書いていた。
「明日からは他の教科も、受験に向けて力を入れるんだ!」
と、強い決意を固めて、午後2時頃、予定通り自転車で帰っていった。

いつも唯がこんな生徒だったら、深海も悩みはしない。



 

それから数日は、比較的穏やかに過ごしていた唯であったが、
11月9日、この頃はいつも午後に来るのに、珍しく昼前に来た。
でも、決してやる気があったわけではなく、とても不機嫌な様子だった。
きっと、母親に無理に連れてこられたのだろう。

面談室が空いていなかったので、他の生徒もいる実習室に入れると、
「ここはマジうるさくて集中できない。もう来るのやめようかな!」
と、切れまくっていた。

「やる気しない」
「帰る」
と、唯は嵐の真っ最中だったが、
少しして、第二相談室が空いたようなので、
「さあ、面談室で勉強しよう」
と、唯を連れて行った。最初は何もやる気がないようだったが、
唯が数学をやろうとしていたので、数学専門の支援員に指導を

お願いした。

深海は、自分がいても唯はやらないだろうと考えて、
他の支援員に頼んだのだ。



 

数学の支援員が、1時間くらいの指導を終え戻ってきたので、

どんな様子か聞いてみると、

「まあ、普通にやってたよ」

と、特に問題なく勉強していたようだった。


深海は、ちょっと間を開けて、唯のところに様子を見に行くと、
唯の機嫌は直っていて、国語のプリントをやっていた。

 

深海以外の支援員には、唯は悪態をつけないので、

仕方なく勉強しているうちに、落ち着いてくるのだろうか・・・。

「下手に自分が関わらない方が、唯の気持ちは安定するのか・・・」
「やっぱり、心のケアなんてできないよな」
深海は、そんな風に考えていた。

「心の問題は、我々の仕事ではない」・・・





続きます

この作品は創作された物語です。
登場する人物、団体、名称等は、実在のものとは一切関係はありません。
また、物語の中の写真はすべてイメージです。