婦人科便り286 続々・HPVは潜伏する | 婦人科備忘録

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ある婦人科医の独り言です

ネタ提供ウェルカムですが
最近ご質問内容が
すでに記事になっていることが多くなってきました。
お手数ですが、まずはブログ内をご検索ください。

ネタ提供ありがとうございます。

 

正式にオファーもないのに

せっせと教科書書いてますけど、なにか?

 

続きいっちゃうぜ!

 

暇で死にそうなのが悲しい・・・

かといって忙しいのが好きかと言うと

そうでもないのがさらに悲しい・・・

 

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Q.

HPVウイルスって、彼が変わったらすぐ 

自分の体にもうつって 

HPV検査結果に反映されてくるものなのでしょうか?

私の考えはこんな風にとらえてました
ウイルスに感染しても潜伏しているだけで 

すぐには表面化しない
(よって、検査しても今

の彼が持っているHPVウイルスは検出されない)

それが数年~10数年し、

自分の免疫力が弱った場合など 

何らかの原因で ウイルスが活性化しだし、

異形成細胞を作成する
その際にHPV検査をすると

 数年~数十年前の彼との性行為でうつっていた

HPVウイルスが陽性の反応を出す

こう思ってました

 

A.

彼が変わったら「すぐ」反映されるかどうかは

厳密にはわからんちんです。

だってそうだよね?

彼変わりましたー、はい、検査!とは

ふつうならんやろ。いかが。

 

後半の解釈はいろいろと混ざってますんで

簡単に解説しておきます。

興味があったらヒトパピローマウイルス、で検索を。

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前回、ウイルスの「きほん」について論じました。

 

察しのいい人はすぐ

「・・・んじゃなんで、異形成

 ひいては癌になるの?」と

頭の周りにクエスチョンマークが飛び交ったであろう。

昨日眠れました?けけ

 

考えてもわからんものはわからん。

 

ニンゲンの中にも見せるエッチと

見たがるエッチがいるように

数あるHPVの中にはちょっと変わり者もおるんざます。

それがハイリスクHPVと呼ばれるウイルスで

代表的なものが16型、18型です。

(ハイリスクたちの背番号については

 ブログ既出。探してちょ)

 

これらハイリスクHPVも基本は先述したような

「細胞の中、核の外」に居候して

大家さんを怒らせないように

子供を産みつつひっそり暮らすんですけども

ちょっとした謎なきっかけ

(ここはほんとに詳細不明、

 鋭意、世界の天才が研究中)で

今度は「核の中」に身を潜めるようになります。

 

細胞の核はいわゆる遺伝子が

くちゃくちゃ入っているところですが

ハイリスクHPVはこの遺伝情報の毛糸玉の中に

形を変えて飛び込み

一見、自分も遺伝情報の

一部であるかのように振舞います。

厄介なのが、このウイルス遺伝子

「細胞の増殖をコントロールするところ」に

お邪魔しがちで

そこの機能を奪ってしまうことが、

往々にあるのです。

そうすると、細胞の増殖が限りなく起こっていく・・・

 

ところで

細胞の増殖がまったく制御不能になった状態を

 

がん

 

と言います。キター!!

 

異形成は細胞の増殖がまだ正気が保たれていて

増えてもゆるやか、

その場所におとなしくいる、という状態。

がんに変貌を遂げるということは

増殖のスピードが速く

他の細胞、ひいては組織を押しのけ

場合によって他の場所に飛んでいく能力を獲得した、

ということなのです。

 

臨床上、中等度異形成以上の病変は

治癒がムズカシイとされていますが、

それはつまり、後戻りできないくらい

細胞の遺伝情報が「壊れている」のだね、

と解釈できます。

実際、中等度以上の病変は

焼いてしまうか切り取るかしないと治癒しません。

(現状維持、になる人も中にはいますけど

 高度異形成以上は進むことが多いです)

 

その「壊れている」細胞の核の中で

ハイリスクHPVはひたすら

自分の遺伝情報をコピーし続けていて

遺伝情報だけが宿主(感染細胞)の中で

その周りをタンパク質の殻で囲むことすらせず

(ウイルスはほとんどがこの状態で存在する)

ぷかぷか浮いていることもあるんだそうな

(=プラスミド)。

 

これがいわゆる、真の意味での「潜伏」

というのかもしれないですね。

 

一般に、子宮頸がんでは16型、18型が

50%くらいの患者さんに陽性になる、

と言われています。

日本人には52型が多い印象。

 

細胞を作り替え、自分勝手に増殖し

宿主が早めに治療に踏み切らなければ

やがて宿主を食い尽くし

自らもまた、宿主とともに滅ぶ運命にあるのは

なんだかニンゲンの今の世界情勢にも

通じるものがあるような気がしてなりません。

 

以上、延々とウイルス学の講義でした。

これでご納得いただければ幸いです。