婦人科便り278 閉経後のチョコレート嚢胞 | 婦人科備忘録

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ある婦人科医の独り言です

ネタ提供ウェルカムですが
最近ご質問内容が
すでに記事になっていることが多くなってきました。
お手数ですが、まずはブログ内をご検索ください。

ネタ提供ありがとうございます。

 

子宮内膜症の閉経後の取り扱いについては

なかなか難しく、賛否両論、悲喜こもごも。

ただ個人的にはほんとうは閉経後こそ

子宮内膜症との戦いが待っている、と思うのだよね。

 

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Q.

閉経後のチョコレート嚢胞についてです。
チョコレート嚢胞は消えるものでしょうか?

その場合、MRI画像にはもう何も映らないのでしょうか?

 

A.

閉経後も急には消えません。

だいたい見てると、痕跡程度ではありますが

ずっとちっさく残ってる人が多い。

よーく見ると画像でもちゃんと見えていて

現役の時派手だったわりには

しょぼくれてはいますが完全には消えないし

消えても時間がかかります。


閉経後にしつこーく居座るチョコレート嚢胞こそ

悪性転化を疑い、恐れおののかないといけませんです。

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子宮内膜症を持つ患者さんたちをたくさん診ていると

そのうち、悪性転化を起こす不幸な人にも行き当たる。

だいたい頻度にして1000人に7~8人。

私も大事な大事な自分の担当患者さんが二人ほど

とても不幸な転帰を辿っています。

 

そのうちの一人はほんとに悔やまれる経過だったの。

 

6センチくらいの360度どこからみても

「きれいな」チョコレート嚢胞で

私がかつて大学病院にいたころ、開業の先生から

ぜひ手術をしてもらいなさい

と紹介を受けたマダムでした。

当のマダムは還暦をもうすぐ迎えるといった年齢で

手術はしたくない感じ。

大学病院を受診したのも

かかりつけの先生の顔を立てて、といった風情。

まるで気乗りがしてなかったんですが

MRIでもちゃんと映るし、

悪性転化が怖いよと一所懸命説得して

手術を計画。入院までこぎつけたんだけど

 

術直前のエコーでチョコレート嚢胞が

確認できなかったの!!

 

慌てて急いでありとあらゆるコネを使い、

最後は放射線科の先生を脅し上げて骨盤MRIを

その日のうちに撮影したけれど

(大学病院というところはMRIをひとつとるのにも

 なぜか放射線科の許可がいる)

 

なくなっていたの!!

 

いま考えるとあったはずの場所に

ちょっとひしゃげた物体が

ちょんと乗っていたんだけども。

全くやる気のない放射線科の先生も巻きこみ

叱咤激励して確認してもらったけど、

やっぱりない、ってなって

ご本人とご家族にこのことを打ち明け相談したら

ほら、もともとご本人に手術をする気がないじゃない?

もう手術しない、また検査に来るから、と

お腹の中を確認したほうがいいと

説得する私を振り切って

何もせずに退院しちゃったわけ。

 

それからさー

私に会うと手術しよう手術しよう言うじゃない?

それが嫌さに彼女、

大学病院に来てくれなくなっちゃって。

 

それから1年くらい・・・だったかな。

また彼女と再会。

 

頭の先からつま先まで全身転移した

誰がどう見てももうどうしようもない状態で

運び込まれてきたの。主訴、「息ができない」で。

彼女が息ができないのは

肺に無数に悪性転化した

卵巣がんが転移していたから、で

ベッドサイドにはせ参じた私の手を握って

涙ながらに先生の言う通り摘出しておけばよかったと

嘆いたその数週間後に

彼女は帰らぬ人となってしまいました。

 

チョコレート嚢胞はやっぱり怖い。

 

大事な人を奪っていく。

 

あの時私がもっと強く手術を勧めて

絶対に退院を許可しなかったら、とか

ご家族に説得してもらったらよかったかな、とか

何度も何度も何度も後悔しました。

 

なので、この一件以来、

どんなに手術を渋られようが

どんなにうるさい言われようが

ひたすら手術しようぜ!としつこーーーーーく

勧誘することにしています。

 

もちろん、状況によって手術する、しないは

お一人お一人決めねばなりませんが

気になるときは放置せず

担当の先生のケツを叩いてくださいね。

 

 

 

もう二度と、あんな悲しいのはごめんだYO

 

 

手術しようぜ!