ネタ提供ありがとうございます。
医学が発達・発展するにつれ
人類が被る恩恵は計り知れないものの
昔は考えなくてもよかったことを考え
しなくてもいい心配をするようになる。
そんな光と影は
最近大流行りのLSC(腟仙骨固定術)にもまま、あります。
だいたいはお産の経験のあるマダムが
無事に閉経を迎え、女性ホルモンが出なくなったがゆえに
ボロボロではあるがなんとか頑張っていた骨盤底筋群が決壊し、
ついに雪崩を打って子宮が落ちてくる、というのが
平均的な経過であるものの
女性の社会進出に合わせ初産の年齢が上がり
30代後半から40代でのお産も珍しくなくなったため
ちょっとお産で無理したマダムが
かなりお若い年齢であるにも関わらず
生活に不自由するレベルで
子宮が腟から脱出するケースも珍しくなくなってきました。
産後、半年くらい様子を見ていたら
いわゆる「若さ」で腟がゆっくり復元され
元通りとはいかないまでも生活には問題なくなることが多いんですが
こと、高齢出産になるとそれもままならず
そのまーんま、抜け感が残ってしまうマダムがいらっしゃる。
30代後半で大きめのお子をむりくり下から産んで
忙しさにかまけて養生もせぬまま脱だけが残り
でも二人目が欲しくて頑張りたい。
ところがいつまで経っても
子宮が腟から出たままになっていて
夫婦生活もままならない。二人目が欲しいのに 涙
そこへ「メッシュで子宮を吊り上げる夢みたいな方法あるよ!」
と情報提供されたら・・
飛びつくやろ。そんな夢みたいな話。
ところが、これが悪魔のささやき。
実は妊娠・出産に超えるべきハードルが残されている。
子宮温存のLSCはメッシュをエプロンみたいな形に切って
そのエプロン部分を膀胱の裏に差し入れ
エプロンの紐を子宮の頸部の周りに
(子宮動脈の高さで)ぐるりと撒いて後ろで止め
はしっこをぐーっと引っ張って仙骨の前に止めるんである。
子宮は温存されているので、
妊娠は可能かもしれない。
・・・しれない、と書いたのは妊娠はなにも
子宮がある、ってだけで成立せず、卵巣や卵管、精子などの状態で
左右されるし、そもそも40歳を越えると
なかなか妊娠はしづらくなるからです。
近頃のマダムはほとんどが美魔女で年齢不詳だが
卵巣にはSKⅡでも届かないのよ悲しい。
人工物であるメッシュに大敵なのは
「感染=ばい菌が侵入すること」なのですが
お産って、ばい菌がマーチを組んでやってくる的出来事であるし
エプロンしたまま吊り上げられた子宮が
(しかも前側は膀胱に挟んで縫い留めてある)
妊娠によって形、大きさがどんどん変わると
メッシュとの位置関係も変わってしまう上
お産で陣痛がはじまれば、おそらくメッシュは
ブチ切れる。つまり子宮脱再発・降臨。
よって議論の余地は残されているものの
子宮温存LSC後の出産は帝王切開が推奨される、と私は思う。
それだけならともかく
膀胱との間にメッシュを挟んでいる。
帝王切開の時、そのあたりを切ることになっているが(子宮体部下節)
メッシュの入れ方によってはメッシュごと切開を入れねば
赤子が出ない可能性がある。
どうしてもそこがだめなら他の場所を切るまでなのだけど
ご本人が3人目ほしい、とか寝言を言っている場合
子宮破裂の可能性が高まる筋肉の厚い子宮のてっぺん(子宮底部)を
ほんとに切っていいのか?問題が生じる。
つまり
子宮温存LSCは必ずしも
妊娠していいYO~❤と
軽々しく口にしていい手術ではなく
乗り越えるべきハードル
行うべき準備
与えられた運命を粛々と引き受ける覚悟
これらがそろって初めて許される術式、と言える。
要はその手術を受けるご本人、ご家族が
執刀医からこの術式が持っている宿命を十分説明され
納得し、それでも人生を賭けるのだ、と
分かっているのかどうかが問題なんである。
誰しも自分の命運を賭け、大博打を張る瞬間があるだろう。
それに立ち会える幸運と興奮は大きなドラマであり
恐悦至極まいどあり、なんだけど
もしマダムが
「子宮が残ってたら妊娠できるYO!か~んたん」
とか言われて(もしくは思い込まされて)
赤子を得るためにこの手術を受ける、と決心するなら
それは
いつかのキムタクのように
ちょ、待てよ
と声をかけたいところであります。
さらに絶望に拍車をかけるが
閉経前に入れたメッシュは、
閉経後に劇的に変化する骨盤底筋の状況に
耐えられるかどうかデータがちょー少ない。
ほんとうは30代後半から40代前半の
あと50年強、この世で生きねばならぬマダムには
メッシュをまだ入れてはいけないのではないか、というのが私見。
ま、所詮、田舎の医者の、単なるたわごとかつ一意見。
お目汚しでしたら平にご容赦。