婦人科便り167 子宮脱の手術のしどき | 婦人科備忘録

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ある婦人科医の独り言です

大マダムのご家族からご相談来た。

 

Q.

子宮脱で手術は、どの程度でお勧めしますか?
本人のおしっこ問題でも手術すすめますか?
子宮脱の手術って日帰りでやっちゃったりします?
年齢的にも何歳くらいまでだったら

積極的に手術しようと思いますか?

予防はどうしたらいいですか?

 

戦争をくぐり抜け、

もしかしたら地震も津波も体験し

本来の頑健さに加えて

叩きに叩かれ鋼のように

強くなったメンタルを持つ大マダムに

打ち勝てる若人はおるまい。

…と思うがいかがであろうか。

たいてい、年末ごろ病院に来て

「年内にお願いします」ほざくマダムは子宮脱。

今年が終わるまで数日よ?・・てな大マダム、

実は嫌いじゃない。

根っこのところでマゾだからー

 

子宮脱は命に関わる状態ではないため

ご本人は急ぐが、まったくこちらは急がない。

やはりきちんと全身をくまなく検索し

麻酔中に死なない程度の体力が

あることを確認したいところ。

手術室から極楽まで直行したら

邪魔なぷらぷらがない状態を

満喫できないではないか。本末転倒

 

子宮脱が医学的に絶対手術したほうがいい、

という条件はただ一つ

子宮が落ちすぎて自力で排尿ができない

(=尿閉)であるときのみ。

 

あとは

やりたい時が手術するとき

(健康状態が良い場合)。

 

手術をしたい理由は様々だが

「このままリングを入れていてなるものか」

という執念には勝てない。

子宮下垂の程度が軽ければ、

ペッサリーという腟内装具で

お茶を濁したらどうかと

こちらは思うが、

火葬場でペッサリーが焼け残ったらどうしよう

という心配に対し

最近のペッサリーは焼け残ったりしないよ、大丈夫~

言うても大マダムは収まらないのである。

何を若造が言うとるかとばかりに却下しやる。

いやだから焼けるって。

 

子宮脱の手術は割と軽く扱われがちだが

所詮手術は手術でどんなに執刀医が手馴れていても

小一時間は軽くかかるし、

たいていは全身麻酔なので日帰りで行っている病院は

日本では皆無であることは明記しておきたい。

大マダム、割と外来でごねにごねるが

それはひとえに「入院するとぼける」

的神話も存在するからで

入院中にリハビリしようぜと誘うと

すんなり承諾すること請け合い。

やはり「ぼける」ことに対する恐怖は

こちらもペッサリーがもし焼け残って

子宮脱であったことが近所のあの人にばれたらやばい、

というのと同じくらい強い。

もうあの世に行ったあとのことなんてええやん

とか言おうもんなら、

かなりの確率でしばかれるので

ここは黙っておくのがよい。

 

ちなみに健康であるかどうかは

ここまで古くなると年数では決まらないので

ちょっと血液検査やら胸のレントゲンやら

しようよとなるが

いろいろ潜り抜けたマダムは

ちいとも悪いところがない場合が多いため

私執刀の最高齢脱手術は88歳。ごいごいすー

麻酔科のせんせはひいひい言っていたが

術中に三途の川を渡ったり

極楽浄土にさっくり足を踏み入れたりすることなく

すんなりあっけなく終わった。

人はそれを奇跡というが、

まあ、元気なご本人にとっては当然の結果。

私自身は90代の手術例は経験がないが

他病院では割としておると風の噂に聞くので

個別に手術をしている病院で

90歳以上を受け付けているか、

お尋ねいただくのがよろしかろう。

登る山が険しいほど

挑戦したくなる輩がおらんでもない。

冒険野郎マクガイバー 古

 

予防はひとえに「重たいものを持つな」で

バーベルやら重りやらもって

筋トレとかすんな!だし

常に肛門と腟を締めることを意識し

間違ってもビールケースや

コメ10キロを一人で運ばないことだ。

子宮が落ちてくるマダムの共通点として

人に頼まず、自分でなんでも解決しがち。

大型犬の介護から孫のお世話までたいていの大仕事は

引き受けてきたと思うが、ぼちぼち現役を退き

腟を持たぬメンズに力仕事は任せてほしいと思うなり。

メンズは悲しいかな、

脱腸=大腿ヘルニアにはなるかもしれないが

婦人科では取り扱いがないので、

よしとしておく。