婦人科便り164 子宮摘出後の腟断端の治癒過程 | 婦人科備忘録

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ある婦人科医の独り言です

ネタ提供ウェルカムですが
最近ご質問内容が
すでに記事になっていることが多くなってきました。
お手数ですが、まずはブログ内をご検索ください。

ネタ提供ありがとうございます。

 

子宮摘出後の腟断端治り具合についてお尋ね来た。

 

基本、開腹手術だろうが腹腔鏡手術だろうが

はたまたロボット手術だろうが

お腹の中での手順はほぼほぼ一緒なので

どんな治癒過程なのか、とトラブルシューティングは

あまり大きな違いはない。

 

このブログのどっかでも書いたが(無責任発動)

開腹術とその他では子宮と腟壁を切り離すときの

道具が違うので、若干、治るまでの時間が違う。

開腹術では主にハサミやコールドナイフ、

いわゆるメスで切り離すため

血の流れが保たれ、1ヶ月もすれば腟断端は

くっつき終了!であるが

腹腔鏡とロボットでは電気メス、

超音波メスで熱を加えながら切るため

開腹術に比べると治りがやや遅く、

3〜6ヶ月かかることが多い。

 

20年ほど前、腹腔鏡で子宮を摘出する

夢のような術式が出回り始めた頃

術1ヶ月くらいの人が性交渉開始と同時に

ぽんぽんぽんぽん腟断端が開いてしまう事例が続出

そのころのオタクの会では

「みんな腟が開いちゃうけん、気をつけよーねー」的な

出し物が多かったと記憶する。

最近はこういったことが

ジョーシキとして上梓されているため

マダムたちも3〜6ヶ月くらいは

オットといたすな!と誓わされ、

ことなきを得ているように思うがどうだろう。

ちなみにうちの病院では

万全を期して半年ほど禁欲を申し渡す。

日本人だと術前説明の時に

オットが情けなさそうな顔をするくらいで

あまりこちらへのクレームはないが、

欧米だと非難轟々なのかもしれない。

まあ、平均3ヶ月くらいで無事、

くっついているようですが

オタクの会の出し物によれば

3ヶ月でも治っていない不運なマダムも

いらっしゃるようなので、6ヶ月で固定しています。

 

性交渉が6ヶ月なくても

健康にはなんら問題は出ない。(私調べ)

 

ところで腟断端のトラブルで一番多いのは

腟断端に血腫ができ、そこに感染を起こすことである。

どなたかは「血豆」と書いておられたが、

そんな可愛いものではない。

子宮全摘の手術の性質上、

子宮動脈はせっせと結紮して止血するが

同じ骨盤内の大きな血管(内腸骨動脈、テストには出ない)を起源とする腟動脈は

大元で結紮なんかはしないので

術中、腟のキレっぱから盛大に出血するのだが

あまり丁寧に電気メスで止血し回すと

腟断端に血が行きにくくなり却って治りづらいため

そこら辺は今までの縫合の経験と止血剤などの

お薬使用でふんわり仕上げる。

ふんわり仕上げすぎると後で血腫をこさえるので

執刀医の腕の見せ所と運不運だとは思う テキトー

 

血腫ができてしまっただけでは

大事に大事に「経過観察♡」していればいずれ消えるが

腟の中は口の中と一緒で無菌ではないため

場合によってはバイ菌が取り憑いてしまい

熱が出たりお腹が痛くなったり

・・・で病院に舞い戻ってしまう。

前職の病院でもそういった

マダムがひと頃重なってしまい

検討を重ねた結果、術直前に腟をしっかり洗浄すると

感染の頻度が下がることに気がつき、

それ以来滅多にお目にかからなくなった。

・・・んが、それでもなかなか

100%の予防はできない。

バイキンは目に見えないのでなかなか手強く

1匹も入れないようにするのは難しいし、

人間、最後の最後はいつも感染症である。

ここも「手術は健康な人が受けるモンだよ」

というのが効くところなので

これから手術を受ける予定のマダムはぜひ

健康に気をつけ、体調万全で

(なんだかおかしな話だが)

手術に臨むようお勧めする。