高田 渡 「自転車にのって」 | kichi ’s World Review

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高田 渡 「自転車にのって」


 今から十年位前、高田渡ばかり聴いていた時期があった。NHK BSフォークソング大全集で見たのが初めてだったと思うが。名曲「自衛隊に入ろう」だけは、山下達郎のFMラジオでの日本POPS史の中で取り上げられていたので知っていた。逆説表現が風刺を超えてかなり過激な事を飄々と歌う、反戦フォークの文脈の中で語られる人だなという印象であった。

 しかし、そのBSの番組で仙人然とした風貌とトボけた感じで「アイスクリーム」と「値上げ」という短い曲を歌い、そのあまりに短すぎる歌詞の不思議な世界に衝撃を受け強い興味を持つことになった。

 その作品は山之口貘、金子光晴、黒田三郎等の現代詩に曲をつけたものが多く、学生時代、鮎川信夫を始めとする荒地派詩人を齧った自分には馴染み深く、かと思えば「スキンシップ・ブルース」に代表されるバリバリのブルースにエロチックな題材を載せたもの、そして微笑ましいメルヘンチックなものまで、かなり幅広い。そろそろ中年期に入ろうとする自分の心情にも何かしっくりくるものがあったのだと思うが、高田ワールドに数ヶ月ドップリ浸っていた。

 LIVEは酩酊状態で演奏し、ステージ上で寝てしまう等の伝説のある人だが、本来は楽器演奏能力のかなり高い人であったらしい。ドキュメンタリー「タカダワタル的」は吉祥寺の焼き鳥屋「いせや」での日常やLIVEの楽しさが垣間見えて素晴らしい作品であった。 

 05年惜しくも他界されたのが公演に訪れた北海道釧路市で、私の幼少年期を過ごした土地だった事がとても印象深く心に残っている。

 デビューアルバムの「ごあいさつ」は前掲の「アイスクリーム」、「値上げ」を始め、「コーヒーブルース」、「生活の柄」等、代表的名曲が数多く収録されている。個人的お気に入りははっぴえんどがバッキングを担当した「自転車にのって」である。軽快な曲調とお使いと散歩に出かける様をほのぼのと描写した、つい口ずさみたくなるハッピーソングである。





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