10月1日では遅すぎる  フレッド・ホイル | kichi ’s World Review

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10月1日では遅すぎる  フレッド・ホイル 伊藤典夫訳 早川文庫

 原題:OCTOBER THE FIRST IS TOO LATE


 1966年に発表された作品。作者のフレッド・ホイルは天文学者であり、「定常宇宙論」という膨張宇宙論ではない独自の宇宙論を持っていた。これによるとビッグバンは無く、時間の流れも過去から未来へ絶え間なく流れる訳では無い。こうしたユニークな理論を基礎に書かれたのがこの作品である。

 

音楽家のリチャードは友人の数学者ジョン・シンクレアと山登り旅行中にジョンの突然の疾走と記憶喪失という奇妙な経験をする。この出来事をプロローグに徐々に世界各地で時間軸がズレ始める。現代のイギリスを除いて、すべての地域がが古代ギリシャや第一次大戦下のドイツ等の異世界へ変貌してしまったのである。孤立したイギリス政府は各界のスペシャリストを集結させ調査隊を各地に派遣することにした。未開のアメリカ大陸や奇妙に変貌したロシアの世界には文明の痕跡が無く、ギリシャは歴史上の様相そのままの世界に遭遇する。リチャードはギリシャへの潜入調査隊へ編入される事になるのだが…。


 作品の主題は時間と意識の問題から、人類への未来観まで壮大な設定の基に描かれているが、興味深くさせている点は主人公が音楽家ということもあり、音楽論も随所に語られており物語の重要なファクターとして音楽が登場するのがポイントである。比較的短い作品だが、その為か後半の展開がやや唐突な印象を受けるが、結末への伏線の張り方が見事であり名作と呼ばれる所以であると感じさせる。

 
10月1日では遅すぎる (ハヤカワ文庫 SF 194)/早川書房
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