キリンヤガ:マイク・レズニック | kichi ’s World Review

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キリンヤガ  マイク・レズニック(早川文庫)

 原題:KIRINYAGA:AFABLE OF UTOPIA


 地球環境の悪化により人類は、人口小惑星に「ユートピア」の実現を願う小グループ毎に自治社会による新世界を創り出した。ケニヤ山を語源としたキリンヤガはその中の一つで、アフリカ民族の中でもプリミティブな民族であるキクユ族の繁栄を目指していた。ンガイという絶対神を崇め、ムンドゥムグと呼ばれる祈祷師が酋長よりも権威を持ち、掟と慣習と伝統で統治されており、一切の西洋文明ひいては医学までもが拒絶されている。主人公の老科学者はコリバと名乗り祈祷師としてキリンヤガの統治に人生を賭けるべく地球を後にした。
 老人や重病人はハイエナの餌とし、双子が生まれるとサフと言う呪いの兆しとして片方を亡きものとするといった厳格な掟を守ろうとするコリバと人権問題を重視する〈保全局〉からの干渉との軋轢、女性は子孫の繁栄と家事労働のみに縛られる生活の中で知識欲が芽生え成長しようとする少女との葛藤、狩猟を行わないキクユ族のハイエナからの自衛問題にからむハンター雇用による権力バランスの崩壊、移住者との原住民の生活習慣からくる嫉妬・排斥運動等、次々に持ち上がる問題を呪術と寓話の力を用いて解決しようとするコリバの姿には求道者の孤独が色濃く描かれている。

 変化しないものに価値があるとするイデオロギーと生命は変化するのが自然という交わる事の無い対立概念の中で、ユートピアは実現したのだろうかというのがこの作品のテーマである。突飛なSF的な要素はあまり感じられないがSFでしか味わえない面白さが満載の作品だと思う。

 2012年現在絶版のようなので中古品を取り寄せて読んだが、これほどの名作でも絶版の憂き目を見るのは非常に切ない気がする。

キリンヤガ (ハヤカワ文庫SF)/早川書房
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