前回の記事(第13回<他には無い特異性>)でも紹介した、ブランド化により成功している靴製造のM社だが、成長したことを納得させるエピソードを紹介したい。
ある日、M社を担当していた物流会社のドライバーに専務が
「一番遅い時間で何時まで発送可能か?」
と聞いたことがあった。
ドライバー:「集荷なら21時半で、持ち込みでもセンターに22時くらいですね」
専務:「その時間以降に発送する方法はないだろうか?」
ドライバー:「専務どうしたんですか?店から路線便(店から他の店や仕分けセンターに送る大型トラック)が出たらもうどうしようもないですが」
専務:「それが出てしまったら何か方法ないか?」
ドライバー:「チャーターぐらいしかないですが、どうしたんですか?」
ドライバーが理由を聞くと、ある問屋から、靴販売チェーン店の数店舗でセール用に販売する靴の注文を受けており、M社の靴は流行りの商品で目玉商品としてチラシにも載っていたのだ。
その商品をM社から直接問屋の指定した靴販売チェーン店の各店舗に直接発送する段取りになっており、その発送先は北関東から東北の主要都市に散らばる各店舗であった。
通常の発送締め切り時刻に間に合えば通常なら配達可能な内容であった。
しかしその当日に下請けの勘違い、またはトラブルにより、革を縫い合わせた靴の最も重要な部分が、朝に納品の予定だったのが全く作業されておらず、その朝から作業を開始して夕方に納品されたのだ。
そこから靴製造の残工程を終わらせるには、物流会社の発送時刻には到底間に合わないタイミングであった。
納入先が関西圏の店であれば最悪翌朝にでも軽貨物便に頼むことができるが、宇都宮・郡山・盛岡等で北関東から東北の10数か所が発送先である。
神戸から発送先の店に到着させるには路線便に乗せれば何とか届けることは可能だが、製品完成後にそれぞれの店にチャーターを走らせても翌日のオープンまでには間に合わない。
担当ドライバーはそれまでの集荷分をいったん自分の店に持ち帰り発送した後、再度M社へ戻った。
何とかできる事ならやれるところまでやってみようと思っていたからだ。
しかし発送締め切り時刻まで30分もない状況だ。靴はまだまだ完成しそうにもなく、21時半を過ぎていたがほとんどの社員やパートも残業して必死の形相で作業をしていた。
番頭格の社員が「もう専務無理です、問屋に謝りましょう」と何度も提言をするが、専務自ら作業をしながら、「あかん、何が何でもやるんや」と手を止めない。
この状況と専務の熱意に担当ドライバーも再度会社へ連絡を取り何とかできることがないか問い合わせた。
物流会社の上司も、最初は路線の発送締め切りを過ぎたら無理だという姿勢だったが、ドライバーの熱意に根負けするかのように本社へ何度も問い合わせをしてくれた。
そして担当ドライバーの携帯電話に上司から電話が入り、なんとかできる方法が見つかり、製造時間も十分稼げるというのだ。
ドライバーはそのことを専務に伝えた。
その内容は、物流会社の系列会社である航空貨物会社のある伊丹空港に朝の6時までに商品を持ち込み、発送先の最寄り空港まで飛行機で運び、その空港から軽貨物便をチャーターで走らせると、1台1件のところもあるが1台で2~3件配達できる箇所もあり、各店舗のオープン時間に間に合うという方法で、それまでの製造時間も十分稼げるのだ。
杓子定規にマニュアル通りに動き、断ることは簡単にできた。
しかしドライバーとドライバーの上司が代案を探す姿勢がこのM社のピンチを救うことになった。
このような場合、M社の専務も問屋に事情を話し許してもらう選択肢もあったであろうし、物流会社も業務終了を理由に断ることもできたが、諦めず代案を探すことで、このピンチを脱する方法を探し出したのだ。
「第15回<銭やない、信用の方が大事や>」に続く・・・