韓国総選挙で野党は負けたのか?(中) | 朝鮮問題深掘りすると?

朝鮮問題深掘りすると?

初老の徳さんが考える朝鮮半島関係報道の歪み、評論家、報道人の勉強不足を叱咤し、ステレオタイプを斬る。

つぎに昨年以来の民衆闘争の拡大をもたらした「李明博審判論」を具体的に発展させる事が出来ないまま、一般的な民衆の情緒にただ乗っかった形のまま選挙戦を展開した恨みがあります。

民衆はそれぞれが具体的な生活的利害関係,例えば大学生と高校生それにその学父母らは「大学登録金半額」や雇用促進、安定の実現を、大学清掃労働者らは非正規雇用と言うことで無視されてきた権利の獲得を、労働者らはヒョンデ自動車蔚山工場の労働者の闘争に対する当局の無慈悲な弾圧の中断と解雇労働者らの原状回復の実現,あるいは「希望のバス」で象徴的に表れた韓進重工業の釜山ヨンド造船所での整理解雇に反対し200日にわたり85号タワークレーンに籠城した事で公になった韓進重工業の不当整理解雇問題の解決を、農民らのBSE問題をはじめとした米価急落に対する政府補助の実現、米価安定の実現を、小売商店を営む零細家内企業は在来市場への大手スーパーの進出阻止を、中小企業は中小企業市場への大手の浸食防止策の実現を要求したのに,それに背を向けたと言う具体的な問題をイッシュー化させそれを「李明博政権審判論」と結びつけていたのですが、野党連合は「李明博政権退陣論」の拡散に胸を躍らせるばかりで、具体的な政策的代案を明確に打ち出すことが出来ないまま、「投票率さえ上がれば勝てる」と言った安易な考えをすてきれず、ただ投票率の70%台突入のみを「神頼み」するだけだったのです。

それは「20-30代優勢論」の姿をとり、黙っていても投票率は上がるという漠然とした期待感に囚われていたわけです。つまり民衆の願いをわかりやすい具体的な政策として打ち出し,政権交代後にはその実現の可能性が遙かに大きいことを民衆に確信させることが出来なかったわけです。


第3に、マスメディア対策をまったくしなかったことを挙げられます。最も新聞は大手中央3社が完全に現政権側である事を思えば活字メディアは期待が持てません。問題は新聞メディアとはその波及力で比較も出来ない程圧倒的な放送(TV)メディアです。分けてもKBS,MBC.YTNの3大公営放送網の放送が公正で与党に変重しない放送を堅持させる事が大事です。ところでこの放送3社による選挙戦報道はおしなべてセヌリ党をクローズアップしており、明らかにセヌリ党に偏向した報道デ一貫していました。

分けてもパク・クネのクローズアップは甚だしいと言っても良さそうです。投票日の2日前に訪日した韓国の極東問題研究所の教授からもそうした事を聞くことが出来ました。こうした現象は言論掌握を企てた李明博政権の露骨な政策によるものですが、しかし大手公営放送(テレビ)3社はすべてストを展開中です。

その威力は実に大きく連続ドラマはいきおい中断、番組偏向の騒ぎにさらされるほどです。ストを展開している彼らは所属している会社が違っているにもかかわらず、共通して天下り社長と経営陣による編集権への侵害に反対、偏向報道の中止と公正報道の実現、解雇若しくは懲戒されたPD,記者、カメラマンら放送労組メンバーらの現場回復を主張しています。


つまり、野党連合がつけいる隙が十分にあったと言うことです。しかし野党連合は放送3社の史上類の無い闘いに無関心でした。味方であるはずの放送3社労組とタッグを組むことが出来なかったのです。そしてその結果は唯一与野の政策論争となった福祉問題ではっきりと表れました。

実はこの福祉論争は統合進歩党のイ・ジョンフィ代表が、民衆に向けて発した民主労働党の福祉政策が評判を得るや、焦りを感じたセヌリ党代表のパク・クネが、李明博ハンナラ党との差別化を図るという狙いも込めて、独自の福祉政策をぶち上げた事から始まったのです。

もちろんセヌリ党のパク・クネによる福祉政策が現実性のあるものであるわけが無く、「絵に描いた餅」と言っても良いものですが、民主統合党はこの論争に目を向けず、イ・ジョンフィ代表に任せっきりでした。ところがTVメディアの報道は実に不公正でパク・クネの「福祉論」のみを大々的に報じ、あたかもパク・クネならば実現できるというような幻想を振り撒きました。

野党連合は福祉問題だけでは無く4大江問題や、済州島カンジョン村海軍基地建設問題、李明博政権による民間人不法査察問題、政権ぐるみの不正非理の暴露など「李明博政権審判」にうってつけのイッシューが列を作っていたにもかかわらず、これらの問題に対する代案をまったく出せないまま、ただただ「李明博政権審判論」を言い続けただけでした。
こうして李明博政権を審判すべしという民衆の声は選挙という一大イベントに流されてしまったのです。(つづく)