揺らぐ経済覇権の姿を見せる | 朝鮮問題深掘りすると?

朝鮮問題深掘りすると?

初老の徳さんが考える朝鮮半島関係報道の歪み、評論家、報道人の勉強不足を叱咤し、ステレオタイプを斬る。

アメリカの債務上限問題が、民主、共和両党の不誠実な妥協によって合意を見、アメリカは何とかデフォルトを免れました。しかしアメリカのスタンダード&プオ-ス(S&P)は5日、アメリカの信用等級をトリプルAからAA+に格下げしました。アメリカの国際信用度がイギリスやドイツ、フランス、カナダよりも格下になったのです。


このことと関連して様々な見方、評価が出ていますが、管理人は経済のことはよく知らないので、この現象の持つ政治的意味についての個人的見解を述べようと思います。


最近ジョセフ・S・ナイという著名な国際政治学者(元米政府の高官でもありました)が書いた「スマート・パワー」という本が日本経済新聞社出版部から発行されました。


彼はそこで一国のパワーは様々な要素で構成されているが,大別するとハード・パワー(主に軍事力を中心とした)とソフト・パワー(経済、技術、権威など)にわけられる、アメリカのハード・パワーはその使い方に失敗し、見間違えるほどにその効力を喪失しつつあり、ソフト・パワーは限界に達している。つまりハード、ソフトとも相対的に低下しているので、両方をうまく結合し、それをうまく使う能力、つまりスマート・パワーを強化すべきだと言います。


ところで今回問題になった米国債(米財務省証券)は米国が有する最も重要なパワーの源泉の一つです。例えば米国の債務上限は14.3兆ドルですが、それは米国のGDPに匹敵する富を全世界から借金できてしまうという信用度を維持していることを意味します。そんな国は世界でアメリカだけでしょう。まさにパワーそのものです。
ところがそのアメリカの国債がトリプルAからAA+に格下げされ、イギリスやカナダよりも信用度が低くなったのです。アメリカの経済覇権に濃い陰りが見えたと言うことでしょうか。


もちろんアメリカはこれまで何度も債務上限を引き下げることで債務危機を免れてきました。2001年からだけでも10回も引き上げています。ところが今のアメリカは1年で1兆ドル以上の赤字が増えるような状態が続いています。少しくらい債務上限をあげてもすぐに同じような問題に直面するのは目に見えています。つまり根本的問題は何も解消されていないのです。今回の事態はもはやアメリカに世界経済を引っ張っていく力もなければ、自国経済の発展をアメリカに期待しようなどと言う、甘い考えなどは通用しなくなったと言う現実を知らしめたのです。


そのためプーチンロシア首相の言葉、「アメリカがとんでもない負債を積み上げながら全世界の金融を脅かしている」「アメリカは借金の中で生きている。これは身分不相応な生き方をしていると言うことであって、その責任を他国に負わせることによって、寄生虫のごとく行動している」という発言の説得力を強めています。


他方、国際的な影響力が著しく剥がれていくなかで、アメリカ国内も分裂が一層深まるようです。表面上、民主党と共和党の喧嘩のように見えますが、より重大なのはティーパーティー派を巡る共和党内の分裂です。言うまでも無く今回の債務上限問題で民主党と妥協した共和党主流と、最後まで妥協に反対したティーパーティー派の軋轢は簡単に収まりそうもないです。


フィナンシャル・タイムズのステファニー・キルチガエスナーは、今回の失政の元凶は何かという問いに、「ティーパーティーの強硬派だ」と、フィナンシャル・タイムズのステファニー・キルチガエスナーが鋭い分析をしていることを紹介しています。彼女は今の混乱を、ボクシングのリングで2人の男が「共和党の魂のために戦っている」姿にたとえたといいます。(ニューズ・ウィーク日本語版オフィシャルサイトの記者、デービット・ケースの7月29日の記事)


ここで言っている2人とは、ティーパーティーの支持を受けるジム・ジョーダン議員と、米国商工会議所のロビイストであるブルース・ジョステンのことです。


彼女は次のように続けます。「ここが難しいところだ。米経済に悪影響を及ぼす(共和党という)怪物が生まれたのは、ジョステンたちの力によるところが大きい。その彼らが、もはや怪物を制御出来なくなっている。」そしてこう続けています。「(ティーパーティー派議員の躍進が目覚ましかった)2010年の中間選挙で、商工会議所はおそらくどの団体よりも多額の資金援助を共和党に行い、その圧勝を助けた」と。続けて「国家のデフォルト(債務不履行)の危険が1週間以内に迫る中、反政府的なティーパーティーと財界の間には深い溝が生まれている今こそ、商工会議所の実力が『切実に試されているのだ』」


共和党内の意見を異にする身内が今回の失政の最大の原因だというのです。さらにそれを育てたのも共和党だというのです。そしてワシントン4日発ロイターは、米ニューヨーク・タイムズ(NYT)紙とCBSニュースが実施した世論調査によると、議会を支持しないとの回答が過去最高の82%に達したといいます。米国民の圧倒的多数がこうした議会の姿に嫌気をさしていると言うことです。


だが、問題はこれで収まりません。アメリカの経済があまりにも強く広範囲に世界経済に巣くっており、多くの国がそれに依存しているという現実があります。それは韓国や日本が戦々恐々としているのを見ても分かります。


そこで持ち上がるのが先に紹介したプーチン首相の言葉です。今だに管理人には、その言葉に反論する術を見いだせないでいます。