大統領夫人の収賄隠し?前代未聞、議員ら12人を一斉に家宅捜索 | 朝鮮問題深掘りすると?

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韓国で大変な事態が生じました。国会で対政府質疑が行われている時間帯に、いわゆる「請睦会」ロビー事件で名のあがった一人を除く与野議員ら12人の地域事務所と自宅に対し、検察がいっせいに押収捜索を行ったのです。この前代未聞の事態を受けて国会は一気に冷却化し、混乱に陥っています。


元来、韓国の国会は一般に言われている民主主義に基づいた立法機関とは名ばかりで、実際には政権の独善を合理化し、利権争奪戦に明け暮れる政治家らのののしりあいの場であると言ったほうが正確な表現だと言ってもよいのですが、今回の事件はその程度の存在であっても、勝手な動きは許すことができないという李明博政権の政治観を良く見せてくれる事件です。


調査の対象となったのは請願警察親睦協議会(請睦会)が、請願警察の給与を国家警察程度に引き上げることや定年を延長するなどの内容を骨子とする請願警察法改正案の国会通過のために、国会議員らに対するロビー活動を行ったとし、検察が関連した議員らを内定していたと言っているようです。


※請願警察について簡単に説明しますと、政府機関や大使館など外国機関の建物、空港や主要施設の経営者が警備のために要請したのを受けて派遣される警備員のことを言います。日本のいわゆる施設警備員と似ていますが、違う点は一応公務員であり、関連施設や警備範囲内での警察行動が許され、必要であれば当該地域警察署の許可を受けて武器も所持できる点でしょう。必要に応じて警察が動員することもできるので、デモやストライキの際の有力な阻止力として使うこともできるようです。


ところがこの事件はノ・ムヒョン政権時に起きたことでそれが今年に入って再び浮上したのです。そしてそれが時期的に微妙なときを見計らって一気に家宅捜索にまでいたったと言うことです。しかも会員名簿はそのまま残っており、必要な捜査がほとんど済んでいるので、証拠確保のための家宅捜索の必要性はまったくないと言える状況下で行われているのです。


今回の目的不明瞭な家宅捜索によってたとえ名ばかりであっても国会と政治家は著しく信用を失い、国民の不信と疑惑はいっそう助長されるでしょう。そこでなぜいまになって家宅捜索なのかという疑問が生まれます。


そこで注目されるのが李明博大統領の夫人による多額の収賄ロビー活動に関する疑惑です。大宇造船海洋のナム・サンテ社長が李明博大統領の夫人キム・ユノック氏を通じて再任ロビー活動を展開し、代償として1000ドルの小切手(アメリカン・エキスプレス)を束で渡したという疑惑です。


11月1日の国会での法務部長官に対する政府質問でナム・サンテが2009年に、大統領の女兄弟の主人であり、李大統領講演会事務局長であったファン・テソップ氏の推薦を受け青瓦台と接触し、自分の婦人をキム夫人と接触させロビーを行ったが、この過程で1000ドルの小切手がキム婦人とファンに束で渡されたと暴露されたのです。金を受け取ったキム婦人はチョン・ドンギ前民政首席補佐官にナムの面倒を見てやれと指示し、指示を受けたチョン首席は同年2月15日に産業金融持株のミン・ユソン会長にファンを再任させろと指示したといいます。


チョン前民政首席補佐官とミン会長があった事実が、ミン本人によって確認されていることや、このロビー事件と関連して大宇造船海洋に対する押収捜索が実施されようとしたが結局実現しなかったことなどから実際にキム婦人による収賄活動があったことが有力視されていますが、李明博大統領の身体にまで発展する可能性が濃いこの事件を誰よりも執拗に追及していたのが、今回押収捜索を受けた一人であるカン・ギジョン民主党議員です。


テグァングループ、C&グループ、韓化、チョン・シニル、セジュンナモ会長事件など相次いでロビー(贈収賄)事件が起き、李明博政権に対する国民の疑惑が一段と強まっている時期です。ましてやこれらの事件がすべて李明博政権の有力者(実力者)と目される連中が関係しているのです。


「請睦会」ロビーと関連した12人に対する異例の一斉捜索が、これらの事件により生じた国民の強い怒りと疑惑の目をそらすためのスケープ・ゴート作りのためであることははっきりしています。


ソン・ハッキュ民主党代表が「「(今回の事は)国会と政治家を不信の対象にするのも同じで李明博政府の政治観を見せてくれる」とし「一言で言えば政治をなくし統治だけのある社会を指向する統治観」だと非難したのも当然でしょう。そして彼が今回のことから朴政権時の「維新体制」を連想させると言ったのも肯けます。


※「維新体制」とは「維新政友会」という官製組織を通じた間接選挙により終身大統領制度を作り上げ、維新政友会から排出された連中で与党を再編し、それを私兵化することで事実上国会をないも等しいものにし、「緊急措置(1~9号)」をつうじて一切の民主主義的要素を根こそぎにした軍部独裁体制のことです。朴政熙が作り上げました。

李明博政権はこの際、煩い国会の口を黙らせ、婦人(つまり自分)の収賄事実をうやむやにし、ついでに野党の口までも塞ごうというのです。そしてG20が目前に迫っている今、これをやらなければならないと言う切羽詰った状況におかれているというのが、一般にはなかなか見えない李明博政権の状態なのでしょう。


これがレーム・ダックに陥るのを防ぐためなのか、レーム・ダック状態に陥る前に野党の牙を抜き取ろうとしているのかは、今後の動きが見せてくれるでしょう。また今回の一斉捜索対象にハンナラ党の5人の議員が含まれているのは、公正さをアピールするためなのか、それとも5人にスケープ・ゴーとになれと言うことなのかはっきりしませんが、いずれにせ李明博大統領の焦りが伝わってくるようです。