中間選挙惨敗のオバマ政権、対北朝鮮政策は? | 朝鮮問題深掘りすると?

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初老の徳さんが考える朝鮮半島関係報道の歪み、評論家、報道人の勉強不足を叱咤し、ステレオタイプを斬る。

米中間選挙が大方の予想通りにオバマ民主党の惨敗で終わりました。今回の選挙では、下院(任期2年)の435議席すべてと、上院(任期6年、定数100)の約3分の1にあたる37議席が改選され、さらに全米50州のうち37州の知事選が行われましたが、CNNによると、米東部時間3日午前11時半(日本時間4日午前0時半)現在、下院での当選確実は民主党が185議席、共和党が239議席だといいます。つまりクリントン政権時の中間選挙と並ぶ歴史的大敗を喫したと言うことです。

オバマ民主党の歴史的敗北の背景に、高止まりする失業率と過去最大規模の財政赤字があることは良く知られています。ようするに経済政策の失敗が敗因だったと言うことです。


共和党のベイナー下院院内総務が来年1月に発足する新議会で下院議長に就任する見通しとなり、ベイナー氏は「米国民は今夜、オバマ大統領に明白なメッセージを送った。針路をチェンジしろ、ということだ」と勝利を宣言しました。


もちろん歴史的に見れば、20世紀以降の米国政治史を通じて、大統領を輩出した政党が中間選挙で下院を勝ち取った例はわずかに2度しかありません。1934年のフランクリン・ルーズベルトの時代と2002年のジョージ・ブッシュの時代です。


そしてルーズベルトの時代はまさにニューディール政策が果敢に実行されていた時期であり、ジョージ・ブッシュの時代は、例のナイン・イレブン後、「テロとの戦争」を宣布し、イラク侵攻を準備していた時代です。深刻な経済危機からの「再建」と戦争宣布を通じた国家安保への動員が大統領を輩出した政党が課員で勝利するのに寄与したと言うことでしょうか。


しかし問題は経済危機を克服できなかった、あるいはその兆候さえも国民が感じることがなかったと言う現実は、やはりオバマ民主党が責任を問われても仕方ないと思われます。そしてその責任は、何よりもオバマ政権が「断固」とした政策を取れず、「どっちでもない」妥協的な政策を選択したことに向けられるべきだと思われます。実際、オバマ政権の政策は内政、外交のどれを取ってみてもルーズベルトの「再建」や、イラク攻撃の判断を下したジョージブッシュの「断固」さ(たとえそれが間違ったものであったとしても)と比べるとやはり弱く、妥協的であったのではないでしょうか。


その良い例が内政では財政赤字の拡大、医療保険問題、失業問題の妥協的解消策に見られ、外交では対朝、対中、対イラン政策の曖昧さに現れていました。とくに唯一の対朝鮮政策といわれた「戦略的忍耐」は特徴的です。それははっきりした対朝鮮政策を打ち出せないことの自己暴露でしかありませんでした。


そしてこうした妥協的政策は、民主党の支持基盤が「階級的妥協」に基づいていたことから必然的に生まれたものだと言えそうです。実際、オバマ政権の支持基盤を見ると、ウォール・ストリートからシリコン・バレーにいたるまで、そして伝統的労働組合のAFL-CIOから新たな労働組合であるChange to Winにいたるまでの、広範な「階級的妥協」に基づいていると言われます。ようするに原則のない八方美人だったと言うわけです。


このような「階級妥協的」政党なので、金融改革やウォール・ストリートに対する公的な統制、経済活性化のための公的資金投与、医療保険改革などで妥協的な折衝が行われるほかなく、それは民主党内のいわゆる「運動民主党員」に大きな失望感を与えるだけでした。全国民を対象にすると謳っていた医療保険改革の事実上の失敗(パブリック・オプションのない医療保険改革)や、20代はじめの若年層の高い失業率の未解消などが民主党への支持を撤回したり留保するのに貢献した格好です。


ところで問題は中間選挙の結果が、朝鮮半島にどのような影響を与えるかと言う問題です。むろん、まだはっきりしたことはいえませんが、共和党の勝利が「決定的な変数」にはならないと思います。ただ、共和党が掌握した議会がいっそう強硬な対北朝鮮政策を注文し、朝米間の垣根をいっそう高くしようと動くことは確実でしょう。


なによりも「核のない世界」をとなえるオバマ政府の核政策にいちいち注文をつけるでしょう。共和党が米国の核戦力を弱めるとして反対している包括的核実験禁止条約(CTBT)や、ミサイル防衛体制(MD)に制約を加える可能性があるとして反対している、ロシアとの戦略兵器減縮協定(New START)の上院での批准が極めて難しくなったわけですが、こうした動きが対北朝鮮政策にも影響を与えるでしょう。


こうした核政策の変更は当然、ロシアとの関係に重大な障害となり、対中国封鎖を強く望んでいる共和党だけにすでに黄色の信号が点滅している対中国関係が、重大な岐路を迎える可能性も極めて高いと言えるでしょう。そしてロシア、中国とも6者会談のメンバーであることから、6者会談そのものが強い障害に見舞われることも考えなければならないようです。まして中間選挙の結果を見て、オバマ政権がいっそう強硬な軍事化傾向を見せることにでもなれば、北朝鮮もそれに応じて「核抑止力」の強化に進むことになり、それこそ収拾のつかない事態が起きる可能性さえも考えねばならないようです。


中間選挙後の新たな議会で下院外交委員長に就くと思われるキューバ出身のイリアナ・ロス-レティナン議員は、朝鮮や中国、イラン、ロシア、シリア、スーダン、キューバに対して超強硬な立場の人物です。


彼は、朝鮮や中国、ロシア、イランなどを「野蛮な政権」と呼び、北朝鮮を「テロ支援国」に再指定すべきだとの論議を主導してきた人物です。「天安艦」沈没事件後の5月中旬には「2010北朝鮮制裁と非承認法案」を議会に提出し、7月にはいわゆる「北朝鮮人権と自由のための行事」に参加し、「アメリカは北朝鮮を論争の余地なくテロ支援国だと呼ぶことができるし、そうすべきだ」とのたまった人物です。このような人物が下院外交委員長に就任し、この法案の上程を推進するようなことがあったら極めて大きな混乱が起きることでしょう。北朝鮮も黙ってはいないはずです。


アメリカの「フォーリン・ポリシー・イン・フォーカス」のジョン・ペッパー共同所長は、2日のワシントン・ポストへの寄稿で、「ロス-レティナンは北朝鮮に対して現在の封鎖政策よりも政権交代戦略を選好している」とし、彼が主導する下院外交委員会の対北政策は、いっそう強硬になる可能性が高いと指摘したのもうなずけます。もちろん彼以外の共和党強硬派が多数、下院外交委に陣取り対北朝鮮強攻策を主張するでしょう。


しかし、もちろんアメリカの対北朝鮮政策が急に変わることはないと思われます。なぜなら現オバマ政権の対北朝鮮政策は、共和党が望むほとんどの要求を受け入れたものだからです。実際オバマ政権の対朝鮮政策は、いまやブッシュ政権時とほとんど同じベースにあると言われており、またそう言うしかないというのが本当のところでしょう。


「自由アジア放送」によればヘリテージ財団のブルース・クリンナー専任研究員が「共和党が勝利はしたが、米行政府がすでに対北政策など満足できる政策を展開しているために共和党側がたんに対話のための6者会談の再開のために制裁を緩和したり、対北政策を変えることはない」と指摘したのもその辺のことを見てのことでしょう。つまり現行の制裁措置で十分だが、朝米対話や6者会談問題ではいっそう強硬な姿勢に出ると言うことのようです。


朝米2国間対話や6者会談再開の圧力がさまざまな形でアメリカに加えられている中で、オバマ政権の姿勢変化が注目されてきましたが、この点で展望が暗くなっていると言うわけです。しかし、問題はオバマ大統領の決断とオバマ行政府の考えがどこにあるかと言うことです。いかに共和党の議会を通じた圧力と邪魔が入ろうとも、中間選挙での敗北を挽回するためには、いずれにせよ、身を引き締めて初心を貫く必要に迫られているでしょう。「チェンジ」の姿勢を変えないと言うことです。


他方、北朝鮮はアメリカの中間選挙の結果を、それほど苦にはしていないと思われます。もともと実力でアメリカの対北朝鮮政策を変えて見せると言うのが北朝鮮の基本的立場ですので、アメリカが政策を変えなければ変えさせるだけだという姿勢は堅持するでしょう。あくまでも実力行使には実力行使で正面から突破すると言うのが、北朝鮮の対米外交姿勢だといって良いと思います。


もちろんだからといってアメリカの外交姿勢の変化を漠然と見ていると言うことではありません。一つ一つの変化にそれぞれ対応した積極的な攻勢に出ると思われます。すでに北朝鮮は「天安艦」事件の経験をもって、アメリカの対北朝鮮政策の本音を読み込んでおり、それへの対応策を準備し終わっていると思えます。


最近の朝鮮労働党代表者会議を通じた党機構の整備強化、朝中の新次元での関係設定や、李明博政権への対話、交流攻勢、制裁の中での自力的民族経済の強化発展(チュチェ鉄やチュチェ肥料、チュチェ繊維、CNC化などに見られる経済自立の条件整備の一層の強化など)なども、そうした対応策の一環だと言えなくもありません。


米中間選挙の結果を持って微調整はするでしょうが、自らの対米政策を大きく変えたりはしないと言い切っても良いと思われます。もちろん現在、板門店で開かれている朝米軍部大佐級実務接触の行方や、6者会談再開の道のりでの大きな変化があれば、話は違ってきますが。

日本もアメリカの対朝鮮政策の行方を読み違えてはならないでしょう。ここでの読み違いは「拉致問題」での失敗のように大きな禍根を残すことになりかねません。