今回はちょっとマニアックな記事になります。でもマニアックでない方も、読んでもらうとダムや発電所に関する興味も少し湧くかもしれませんよ。少しでもわかりやすく書いたつもりです(笑)。
そうは言いながら、まずは講義みたいに、退屈な文章の説明から入ります(笑)。
日光市には大小たくさんの発電所があります。古くは1913年(大正13年)に、現在の鬼怒川発電所の前身、下滝発電所(※1)が作られ(厳密にいうと両者は全く同じ場所にあるわけではありませんが)、首都圏への送電を開始しました。
今の鬼怒川発電所は東京電力の管轄で、今市発電所も含めた近辺の発電設備の管理をする電力所の事務所(実はこの辺りが下滝発電所のあったところ)も近くありますが、このときは、鬼怒川水力電気という会社を設立して下滝発電所の建設を進めました。
ちょっと話が逸れますが、今の東武鬼怒川線(元々は下野軌道→下野電気鉄道という会社でした)も、鬼怒川温泉の中心地に架かるくろがね橋(漢字では黒鉄橋と書きます)も下滝発電所建設の資材運搬のために作られたものです。
当時は水力発電がメインで、日光市のほかにも、福島県の猪苗代湖近辺や新潟県の十日町市や津南町などにも水力発電所が作られ、東京へと送電されていました。どちらも東北電力の営業区域でありながら、今でも東京電力の水力発電所があります。
時代は変わって、伸びる電力使用量に対応するため、大規模な火力発電所や原子力発電所が出来ると、ベース電力はそれらで賄うようになり、比較的出力の小さい水力発電所は、その補完的な役目を果たすように変わっていきました。
そんな中、原子力発電所で夜中に作られる余剰電力(※2)を活用して発電を行うよう考えられたのが、揚水式水力発電所です。
揚水式水力発電所の仕組みを簡単に説明すると、高低差がある二つの地点に上池(上部ダム)と下池(下部ダム)を設けます。そして、オフィスや鉄道の運行などで電気をたくさん使う昼間の需要のピーク時に、上池から下池に水を落として、その間にある発電所で電気を作ります。ここまでは普通の水力発電と大差ありません。
発電によって下池に落ちた水は、今度は深夜の余剰電力を使って、ポンプの役目も併せもった揚水発電機で上池に汲み上げます。こうして水を繰り返し使うわけです。水を汲み上げる、つまり揚水することから揚水式水力発電と呼んでいます。
大量の電気を貯めておく技術は現在でも確立されていないため、水という代替物を貯めておき、必要な時に上池から下池に水を落として発電するという、間接的な蓄電池の役目を果たしたいるのが、揚水式の水力発電所というわけです。
今市ダム及び今市発電所は、住所でいうと日光市小百(こびゃく)にあります。合併前の市町村区分だと今市市にあたることから、今市ダム、今市発電所と名づけられました。でも、直線距離では今市の市街地よりも鬼怒川温泉(旧藤原町)の中心街に近い場所にあります。それはちょうど鬼怒川温泉駅や鬼怒川発電所がある辺りから、西側に聳える山を一つ越えた山中になります。
山の中に作られた発電所ですから、アクセス方法は車しかありません。位置的には鬼怒川温泉に近くても、実際に車で行くには、今市から国道121号線で鬼怒川温泉方面に向かい、途中、栗原という交差点を左折して、佐下部という集落を抜けて、山中へと分け入ります。ちょうど砥川(とかわ)に沿って上がって行くことになるわけです。今市ダムはこの川の上流部に作られたダムです。
では、ここまで揚水式水力発電所と今市発電所について予備知識を得たところで、実際の現場写真を見ていきましょう。
※1下滝発電所に関する参考資料
水力発電所ギャラリー 東京電力ホールディングス鬼怒川発電所 下滝発電所跡。これは個人のサイトですが、僕たち発電所マニアにとってはバイブル的なサイトで、各地の水力発電所を詳しく書いているサイトです。
鬼怒川発電所のはなし。またこちらも個人のサイトからの引用ですが、かつて鬼怒川温泉にあったTEPCO(テプコ)鬼怒川ランドの村野慶一館長(2002年当時)のお話を文章に起こしたもののようで、非常にわかりやすく興味深いお話です。
※2 原子力発電では出力の調整は簡単には出来ないため、点検時以外の稼働中は、24時間ほぼ同じ出力で発電し続けるので、深夜には電力が余ってしまうわけです。
これは民家が切れてから、日光フラワーパークの近辺で、道路から上を見上げるように撮った送電線です。この辺りでは道路のすぐ脇を流れる砥川を挟んだ対岸すぐのところにこの送電線が通っています。
この送電線は、下郷(しもごう)線という名前がつけられており、主に会津地方の下郷町にある下郷発電所(ここもJパワー=電源開発の揚水式水力発電所です)で発電された電気を送電している送電線です。ほかにも途中で、塩原温泉近郊にある東京電力の揚水式発電所、塩原発電所の電気も併せ、更に今市発電所で発電された電気も併せて、新今市開閉所(後述)まで送電しています。
下郷発電所については、このブログでも書いていますので良かったら見てみてください
![](https://stat.ameba.jp/user_images/20181008/23/keymonkeybear/ce/9f/j/o1080060714280674836.jpg?caw=800)
![](https://stat.ameba.jp/user_images/20181008/23/keymonkeybear/71/40/j/o1080060714280696564.jpg?caw=800)
今市発電所までの道は今でこそ、周りの木々が枝を伸ばし、落ち葉などでもかつてより道が狭く感じるようになってしまいましたが、大型バスでも通行可能な道路が続いています。かつては鬼怒川温泉の鬼怒川発電所近くにあったTEPCOランドで、今市発電所の見学も受け付けていたのですが、TEPCOランド自体が閉鎖されてしまったため、今は見学会は開催されていません。
![](https://stat.ameba.jp/user_images/20181008/23/keymonkeybear/ce/3e/j/o1080060714280674865.jpg?caw=800)
国道121号線を別れてから、砥川の川沿いにはこのようなダム放流の警告板がいくつも立てられています。
日光市にお住まいの方であれば、きっとどこかで目にしたことがある看板だと思いますが、この看板の場合は、看板の左下を見てもらうと、東京電力の名前が出ているのがわかると思います。これが鬼怒川沿いになると、国土交通省鬼怒川ダム管理事務所という名前になってきます。五十里ダムや川治ダムが国土交通省の管理するダムだからです(※3)。
※3 鬼怒川沿いでも、一部では東京電力で立てた看板も存在します。これは高徳(たかとく)にあるである中岩ダム、そして龍王峡の上流部、県営川治第二発電所のすぐ目の前にある、浜子ダムがあることから、東京電力も放流警告板を立てています。
![](https://stat.ameba.jp/user_images/20181008/23/keymonkeybear/b1/0c/j/o1080060714280674890.jpg?caw=800)
今市ダムの直前では、こんなつづら折りの道を進みます。
![](https://stat.ameba.jp/user_images/20181008/23/keymonkeybear/38/69/j/o1080060714280674924.jpg?caw=800)
![](https://stat.ameba.jp/user_images/20181008/23/keymonkeybear/e4/51/j/o1080060714280674953.jpg?caw=800)
そして今市発電所の概要についても書かれています。
~以下、写真より書き起こし引用
今市発電所(揚水式)概要
このダムは、東京電力株式会社が今市発電所の下ダムとして建設したものです。
今市発電所は、鬼怒川支流の砥川最上流部に上ダム(栗山ダム)と下ダム(今市ダム)の2つのダムを造り、有効落差524mを利用して、最大105万kwの発電を行う、我が国最大級の純揚水発電所(※4)です。(これは、35万軒の家庭で使うことが出来ます。)
昭和54年10月に着工し、13年(※5)の歳月と延べ230万人の人たちによって造られ、昭和63年7月に運転を開始しました。ダムの総貯水量は910万立方メートルで、この内620万立方メートルの水を発電・揚水運転に使用しています。これは栃木県宇都宮市で使用する水道約1ヶ月分に相当しますが、105万kwで発電すると、7.2時間で上ダムの水は下ダムへ、揚水では、10時間で下ダムから上ダムに移ります。
電気の使用量は昼間と夜間に大きな差があり、夜間の比較的電気を使わない時間帯に揚水運転を、昼間の電気が多く使われる時に発電をしています。電気を蓄えるものに蓄電池(バッテリー)がありますが、これと同じ様に「水」として蓄え、繰り返し利用しています。
この周辺は日光国立公園に隣接しているところで、昭和53年に水力発電所としては初めて、自然環境、社会環境、水質等に与える影響についてアセスメントを実視するとともに、自然環境の保全に万全を期しています。また、ダムからの放流にあたっては、下流の魚や農業用水に影響を与えないよう、常に湖面の暖かい水を放流する表面取水設備を設置し、自然環境へも配慮しています。
~引用終わり
※4 純揚水というのは、揚水式発電所でも揚水発電のみ行う発電所と、一般水力発電も行う発電所がありますが、揚水発電だけ行う発電所を純揚水式水力発電所と呼んでいます。一般水力発電も行うものは混合揚水式発電所と呼びます。
揚水式発電についての参考資料
※5 文章通りだとすると、13年の歳月はかかっていませんね。その当たりは現地案内板の表記が間違っているものと思われます。ちなみにウィキペディアの今市ダムについて書かれた記事によると、昭和53年(1978年)に着工、昭和63年(1988年)に、発電機1台で部分運用を開始し、平成3年(1991年)に残り2台の発電機も設置し、これをもって完成とするとなっているので、これなら13年の歳月という年数に合致するので、こちらが正しいのかもしれませんね。ちなみに上でリンクを張った※1の水力ドットコムでは、着工年も昭和54年、昭和63年に出力増加となっていますから、現地案内板の13年の歳月といのも間違っているのかもしれませんね。
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ここを管理するのは、現在は東京電力ホールディングスという社名になっています。東京電力から事業継承した持株会社です。
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管理棟横の駐車スペースから望んだダム湖です。台風の影響でまだ少し水が濁っています。
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ちょっと画面にが暗くてわかりにくいのですが、管理棟側(右岸)の山の上を送電線が通っています。小百(こびゃく)線です。揚水の時に使う電気を送電している送電線です。揚水にはこうして外部電源が使われます。
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周りの山は少し色づいてきています。これはダム堤体下流の左岸の山肌です。
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クレストゲート。クレストとは堤頂部のことで、ここでゲートを上げると、洪水時に放流することが出来ます。洪水というと一般的には、川からあふれた水が街に浸水することのように思われるかもしれませんが、この場合はダムに貯水しきれないほどの水が流れ込むことを指しています。
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左岸の駐車スペースから、ダム堤体を見てみました。今市ダムは堤高75.5m、堤長177mの重力式コンクリートダムです。
→今市ダムについては、ダム便覧(一般財団法人日本ダム協会が運営するダムのデータを載せたサイト)もご覧ください。
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トンネルを抜けるとそこは発電所入口だった。
川端康成調ですが(笑)、発電所へは当然一般車両は入れませんので、ゲートが設置されています。
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発電所入口のゲート前で道なりに左に折れれると、上のダム堤頂部から見えていた橋があります。橋の名前は幸橋(さいわいばし)といいます。ここから右手裏を振り返ると、発電所のマイクロ無線の鉄塔と1号鉄塔が見えています。マイクロ無線鉄塔というのは、東京電力が通信に使っている通信用鉄塔のことを、1号鉄塔というのは、発電所で発電された電気を変電設備で昇圧し、出てきた送電線を一番最初に受ける鉄塔のことを言います。
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幸橋を渡り、道沿いに広いスペースがあるので、そこから向こうのダム堤体を望んでみました。
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こちらは上流側です。こちらの木々も少し色づいています。
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これは今市発電所から上がった烏帽子鉄塔(バンザイしたような形の鉄塔)をズームしてみました。
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これは帰りがけ、砥川に架かる佐下部橋(さかぶばし)から上流部を望んでみたところです。山の上を下郷線が通っています。ちょっとわかりにくいのですが、写真の真ん中、ちょうど川筋から上に視線を移していくと、山の頂上の少し下に小さな鉄塔が見えています。これは中禅寺線という送電線です。中禅寺湖畔にある菖蒲ヶ浜発電所と高徳の中岩発電所を結んでいる送電線です。中岩発電所を出ると山を這い上がり、ここで農地の中を通り、砥川を跨いでまた山を這い上がります。
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これは川室地区から下郷線を望んだところです。国道121号線を鬼怒川温泉方面に来ると、水車屋という漬物屋さんがありますが、その辺りに見える紅白の背の高い鉄塔を始めとした鉄塔群が下郷線です。
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こちらは南方向、轟工業団地方面に伸びる下郷線の様子です。
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そして、小林地区にある新今市開閉所(※6)入口付近です。右手から来ている大きな送電線は、南いわき線(※7)です。この送電線は、福島県の南いわき開閉所から、新今市開閉所の上を通過して、東群馬変電所までつながっています。
下郷線はその下に烏帽子鉄塔で、背を低くして潜っています。最終部分では2ルートに分かれて、新今市開閉所に入っています。
※6 開閉所というのは、発電所と送電線をつなぐスイッチの役目を果たす施設です。送電線の途中や分岐点に設けられます。外観的には変電所に似ていますが、変圧器はありません。代わりに開閉器や遮断機があって、電路を開閉しています。
※7 南いわき幹線は100万V送電可能な設計がされた送電線です。この設計がされている送電線は、東京電力ホールディングス管内では4路線のみのようです。
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新今市開閉所の正門。
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こちは、東京電力パワーグリッドという社名になっています。元東京電力の事業のうち、送配電の業務を担う会社です。
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こちらは、新今市開閉所東側の小高い山の上の送電線から、新今市開閉所の鉄鋼に接続している送電線です。この送電線は、新いわき線と呼ばれ、同じく福島県の新いわき開閉所から、ここ新今市開閉所まで通じる送電線です。
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山の上を見上げるように撮ってみました。巡視路があって、鉄塔の下まで行けるようになっていて、僕も行ってみたことがありますが、今回は行きませんでした。これは何号鉄塔なんでしょうね。鉄塔には元になる発電所もしくは変電所から、路線名と1号、2号、3号・・・と、付番されて呼ばれます。例えば新いわき線1号鉄塔という感じにです。ちなみに新いわき線1号鉄塔は、新いわき開閉所にあります。
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新いわき線の引き込み部分をズームしてみました。まずは右側から。丘の上の送電線から引き留め鉄鋼に電線が引き込まれています。
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そして左側も。一枚の写真に収まらなかったので、2枚に分けて撮ってみました。
![](https://stat.ameba.jp/user_images/20181009/00/keymonkeybear/07/90/j/o1016056614280719757.jpg?caw=800)
そして開閉所内の様子です。GISなどといった機器が見えます。GIS(ガス絶縁開閉器)というのは、六フッ化硫黄ガスというガスを用いた開閉器で、特殊なガスを用いることで、遮断するのが簡単ではない超高圧の電気を開閉しています。
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こちらは開閉所南側から入る鉄塔です。これは新宇都宮変電所とつながっている送電線で、中栃木線という送電線です。
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中栃木線の引き込み部分です。
新今市開閉所は、超高圧送電線(UHV送電線と呼ばれます)の一大セクションで、かなりの迫力があります。
かなりマニアックな話題の記事になりましたが、いかがだったでしょう?今回は、今市発電所の下池、今市ダムと新今市開閉所を紹介してみました。次は枝番2で、上池の栗山ダムを紹介します。
(今市ダム及び新今市開閉所取材日:
2018.10.8)